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窓の外の雨と冬。名残すぎればすぐそばにはきっと春が

自分のために近所の食料品店で買い物をして、お湯を沸かして、お味噌汁をつくるなんて、いつぶりだろうと私は思う。洗濯機から、昨日買ったダウニーのよい香りがする。お茶を淹れたり、お風呂を沸かしたり、洗濯物を干したり、お布団を畳んだり。

デスクに向かって、音楽をかけながら、Macを充電して、Wi-Fiにつなぐ。お気に入りのスピーカーが、ほかの人の家にまだあるのが口惜しい。移動ばかりして、私はコートを失くしたり、スピーカーが手元になかったり、はたまたリップを置いてきたりと、なんだかいつも必要なモノが足りていない。

まぁそれでもいいかと旅をしたけど、「暮らす」ことを始めたのだから、そろそろきちんとしたいよね、ととりあえず今日はコートをこの手に戻して、そしてお気に入りのリップを買い揃えた。

座り直して窓の外を見やれば、そこには冬の残りの寒さの気配と、さっきまで雨が降っていた跡がある。「君はいつも、情景の描写と『いつだって私は』と言うよね」とあなたは言う。そうねそういえば、本当に感傷的になる時は、同じことを繰り返している、ような気もしてる。

広い家に、今夜はまだ私ひとりだけ。

自分以外のひとが、いるようでいない部屋。暖かな空気流れる空間で、自分のためだけに、過ごすとき。乾いた洗濯物を取り込みながら、「そうそう、こんな時間が欲しかった」と私は思う。

スーツケースから着るものを取り出したり、シャンプーやメイク落としやタオルを探したり、そしてコンタクトを外したり置いたり買い直したりするその作業の繰り返しを、私はもう愛せていなかった。「日常」を取り戻すために、そしてその取り戻す方法を、私はたしか、もう半年くらい思案してた。

「今は、幸せなの」と彼女は聞く。「そうね、悪くない」と私は言う。久しぶりに歩く海外の街。輝くネオンに、もっと遠くの街の面影を追った。

甘いレモンキャンディが夜を覆う。少し大きめの音楽が、この部屋には私しか居ないのだと教えてくれる。5人も暮らしているはずなのに、1人しか居ないとは、不思議な家だと私は思う。「どうしてこれを選んだの」と問われても、一言では、言い切れない。

あえて言うなら、「未来があると、想ったから」。

文章では言えるのに、口では表せないのはなんでだろう? 表面だけが、いつも、するり。すべて手が、話してくれたらいいのに。

久しぶりに会う君は、「相変わらずね」と肩をすくめずに困ったように笑っていた。再び季節が巡るのだ、と私は思う。春の前に寒くなり、そしていつも、雪が降り、空には桜が、広がっていくのだ。3月というのは、いつも。


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