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人生初のロストバゲージ【ロンドン・ヒースロー空港】

ロンドンに着いたとき、あぁもう体全体で緊張しなくていいんだ、って少し安心した。

マレーシア、インドネシア、タイ、ラオス、ミャンマー、インド。

訪れたことのある国が混ざっていたり、時に日本人在住者の方に助けていただいたりしていたとはいえ、やっぱり自分の身は自分で守らねば、というか、

水ひとつ、道ひとつ、夜しかり。常に「ここは大丈夫かな」って緊張の糸を張り続ける日々は、どこかやっぱり疲れる。

イギリスに着いたとき、あぁもう神経を張り詰めていなくてもいいのだ、と思った。もちろん注意はするし、夜はひとりで歩かない、暗い道には行かない、体調の悪い時はおとなしくしている、など最低限のことは守るけれど、

でもあぁ、やっぱり少し、インドは気持ちが緊張してたんだな、って、インドを離れていま思う。

***

Wi-Fiも速い。飛行機を降りて、イミグレを通過して、さぁあとは荷物をピックアップしてステイ先に向かうだけ と思ってスマホをいじっていたら

全然荷物出てこない

いやこれ、結構冗談じゃないレベルで出てこない

ということに、しばらくして気が付いた。

なんとなく、嫌な予感はしていたんだけれど、気が付かないふりをして、じーっとベルトコンベアを見ていた。うん、こないんだよね、私の荷物。周りは人気がなくなっていくし、男性1名、女性1名、私を含めて3名が、じりじりと荷物の排出口に近付いて、「うーん」と首をひねっている。

どうやら、3つ、ロストバゲージ、というやつらしい。

もしかしたらなくなってしまったのかな、と焦ったけれど、バゲージカウンターで手続きをして、調べてもらったら、どうやらまだ私の荷物はインドにあるらしいということが分かった。

よかった、あって。

ほっと一息ついた時私が思ったことは、「今日のメイク落とし、どうしよう」だった。

そのあと電車で「あ、もし荷物がなくなっていたら、コンタクトがなくて困ったな……」と思った。60リットル入る私のスーツケースには、メイク落としとコンタクトしか、大切なモノが入っていなかったのだろうか。

大事なものは、バックパックとポシェットに入れてある。だから着るものやメイク落とし以外の「仕事道具」はすべてある。パソコン、スマホ、充電器、カメラ、HDD…… 今だからいうけれど、もし荷物がなくなっていても、私大丈夫、買えばいい、って一瞬強がったのは内緒。ほんとになくなっていたら、泣いてた。

これくらいの時間に到着するよ、と伝えていた時間を大幅に過ぎて、ロンドンヒースロー空港からActon Townという駅まで、ピカデリーラインに乗って向かう。今日の宿が、Airbnbの宿でよかった。

ホスト先のAlexからWhatsAppで連絡がくる。「私の息子が車で迎えに行くから、Acton Town駅の改札の前で、待っててね」

5分もせずに、速度を落とした黒い車が、私の近くに寄ってきた。「Hi, Tomomi」

なんですぐに分かったんだろう、と思ったけれど、それはそうか、私はいま、東洋人の旅行者だ。

車の種類は分からないけれど、音のしない静かな2人乗りの車に彼は乗ってやってきた。きっとこれは、電気自動車というやつなんだろう。音のしない車の中で、James BayのScarsを聞きながら、ロストバゲージのことを話す。

荷物は明日、あなたの家に届くみたいと伝えたら、それはよかった、と笑ってくれた。

夜は22時を過ぎていた。けれど信じられないことに、ついさっきまで空は、夕暮れの名残をほんの少し、残していた。空港を出た21時半頃は、まだ少し、外を歩いてもよさそうな明るさだった。

長袖を着ていないと、少し肌寒いかもしれない。サンダルよりは、スニーカーがよさそうだ。

インドじゃない。ここはインドじゃないんだ。45℃を超えるうだるような暑さのあの国じゃ、ない。


着いたよ、と言われて驚いた。閑静な住宅街の、豪邸、という形容がふさわしい。庭にはカラーが咲いていた。(切り花のカラーじゃなくて、庭に植えてあるカラーなんて久しぶりに見た。。)

家に入って、2階、3階とあがっていく。(いつもより階段の移動がスムーズに感じるのは、ロストバゲージのせいだと気付く)

お城みたいだ、と思った。

いつか「プラダを着た悪魔」で見たように、お城みたいな、白いおうち。

私の部屋は、3階の一番奥、小さな天窓のついたプチルームだった。

バスタブがあった。ステイする部屋についていたのは、バリの4つ星ホテル以来だなと思う。

お城みたいだ、と改めて思う。

もしかしたら、いまインドは夜中の3時だし、日本は早朝だし、でもイギリスは22時だから、ちょっと頭がぽーっとしているのかもしれない。

イギリスに着いたんだ。

45日間の東南アジアの旅を終えて、ヨーロッパに入った。

牛がいない、猿がいない、街がきれい水がきれい、言語が英語、違いを挙げたらキリがない。

違う文化圏に入った。インドから約6700キロ、日本から約9500キロ。時間も距離も、また少し遠くなった。

けれどインドよりも、イギリスの方が気持ちとしてはとても近いような気がした。高いと聞いていたロンドンの地下鉄も、パスモみたいな電子マネーを用いれば、思ったほど高くないことが分かった。

けれど水は1本200円くらいした(空港価格)。

いつまでこの街にいよう。ブライトンへは行こうか、どうしようか。もともとイギリスはヨーロッパの玄関口として2〜3日滞在するだけで、すぐにほかの国へ移動しようかと思っていた。

取材の日程は、次の原稿の締め切りは。

考えることはいろいろあるし、まずなによりいまは荷物にもう一度会いたいけれど、

インドはまだ夜明け前だし、一度眠ってもいいだろうか。

メイクは落とせないけれど、安心して眠れるなら。

……いややっぱりAlexに聞いて、諸々のなにかを借りてみよう。

「いまのロンドンは、一年の中で一番いい季節かもしれないよ」と、迎えにきてくれたステファンが言っていた。夜が明けたら、どんな朝がくるんだろう。

いつも遊びにきてくださって、ありがとうございます。サポート、とても励まされます。