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旅と日常のはざまと、ふわふわした違和感

飛行機を降りてタラップを渡ると、そこはもう成田空港だった。降り口のすぐそばには「さぁ未来へ」みたいな言葉が踊る銀行の広告が貼ってあって、日本語じゃん、って思って私は一人で笑ってしまった。

機上から見る日本の景色はなんだか思っていたよりも緑が多くて美しくて、なんだ東京も悪くない……、って思いそうになったけれど、よくよく考えてみたら成田って「Tokyo」って行き先になってるけれど、実際はご存じの通り千葉県だ。

千葉県の端っこ。それが、私が3ヶ月ぶりに見た日本の景色だった。

振り返ると、「日本を見ていない」という期間が3ヶ月あるのは、小さなころに海外に滞在するために両親に連れられて東京を出て行った、もうものすごく昔のことぶりだった。

荷物をとって、税関を通過して、出口へ向かう。私はiPhoneをなくしていたから手元にはiPadしかなくて、到着したときに「着いたよ」と連絡は入れたものの、そういえば返事を見るのを忘れていた(iPadはスーツケースと一緒に見るには重すぎた)。だからなのか、どうなのか。出口を出たすぐそこに、知っているひとの顔があった時、私は自分が思っていたよりもとてもうれしくなって、なんだか泣きそうになってしまった。

ただいま、と思った。久しぶり、と思った。

日本には日本語が溢れていて、日本人が主に暮らしていて、それでいてコンビニにものすごく魅力的な食べ物と飲み物が安い値段で売っていた。

海外のカップラーメンはあまり美味しくないのだ。カップラーメンが美味しそうというだけで、この国の食のレベルはもはや計り知れないように思う…(笑)。あれだけ探し求めて手に入らなかった「アネッサ」や「アリィー」の日焼け止めが、あっさりと空港のコンビニで売ってるのを見た時には、「くそう」と思ったけどね。

車で向かう私の神奈川県の家までの道のりでは、なんだかかわいらしい家々や看板が多かったように思う。今まで、海外のひとが発行する日本の風景の写真集はなんであんなに地味なものばかりなんだろう、と思っていたけれど、今私が日本を映すとしたら、きっと同じようなものばかり撮るんじゃないかと思った。

ちょっと哀愁のただようこじんまりした小さな古い家の門や、たばこ屋さんとかクリーニング屋さんの店構えの感じ、スーパーの中にある「立ち入り禁止」の文字だったり、横断歩道を待つ人や、電車を待つために並ぶひと。電線のちょっと太いところとか、携帯を見て歩くひとや、コンビニの前でたばこを吸うひと。

日本って、かわいいんだ。と思う。

海外で日本のことについて話すとき、やっぱり「KAWAII」って世界共通語になっているんだと思った。漫画(特にナルト)、アニメ、かわいい、ジブリ、たこやき、やきそば、言わずもがなの寿司。ヨーロッパではどの街に行ってもやきそばが売っていて、そのスタンドに外国人、と呼ばれるひとたちが多少並んでいたりするのを見るのは、私にとっては意外だった。

そう、日本はかわいかった。おしゃれとかハイセンスとか、憧れるとかそういうことじゃなくて、なんだかかわいい、と思った。

小さな島にも大きな大陸にも、同じように建物が建っていて、人は屋根のあるところで気候にあわせた暮らしをしていて、日が沈んだり昇ったりするのを意識しながら、食べ物を食べて、車を走らせて、歩いたり、走ったり、自転車に乗ったりしていた。

あまり変わらない光景だ、と思った。どこにいても。生きるってことは、あんまり営みとしては変わらないんだ、と思った。

南米とかアフリカに行ったら、ちょっとこの概念変わったりするのかな。行くのが楽しみだ。

けどどうせ、人生ですべてのことを見るのは無理なのだ。たとえすべての国を訪れたって、分かることは少ない。だからそろそろ私は「見る」ことだけが人生の価値じゃないと、考え方を柔軟にしていかなければいけないかしらと思ったりしている。

***

日本に着いてまずやったことは、家に帰ることと、その途中でランチをとることだった。「何が食べたい?」と聞かれることは大体予想していたけれど、いざ聞かれると「何が食べたいんだろう…」ってわからなくなった。

でもまぁ、お寿司、おそば、うどん、天ぷら、あとは店を見て思い出したけれど、とんかつ、とかって選択肢もあるなと思った。じつはなんでもよかった。「味噌汁がいいです」と思ったけれど、じゃあ家帰って味噌でも舐めて寝ろ、って感じだなと思ったので、「寿司がいいっす」と言ってお寿司を食べて帰ることにした。

メイクをして、髪を少し巻いて、シュッとしたワンピースを着て、ヒールを履く。ピアスをつけて、ネイルをして、家にアロマをつけて、紅茶を淹れる。海外で飲んでいたペパーミントティーが余っていたので、同じものを飲んでみる。同じ味がするはずなのに、なんだかフィンランドで飲んだそれのほうが美味しい気がしたし、きちんとメイクをした顔よりもやっぱり薄化粧の方がもうしっくり来るような気がした(でもメイクはする)。

■参考:「チャンスは準備した者に訪れる」から、私は毎日メイクをする。|佐野知美|note(ノート)

私は別に何も変わっていないのだけど、旅と旅の間に日常生活を挟むのって、やっぱり何か変な感じがする。

とりあえず洗濯物をね、しなきゃね、と思って、多いんだか少ないんだか分からない荷物を取り出して、神奈川県の暮らしにはちょっと派手すぎるんじゃないかと思うカラフルでうっすいワンピースをベランダに干す。タイ、ラオス、オーストリア。どの国でいついくらで買ったのかはすぐに思い出せるのに、もう思い出してもその国にはすぐには戻れなかった。

梅雨、明けるかな。雨は、あんまりやっぱり好きじゃない。※と思っていたら今日早速明けてとてもうれしかった

今日は髪を切りに行こう、と思った。3ヶ月の旅で髪は伸びたし、黒から茶へ美しくないグラデーションを作り出していたし、何より日に焼けて私の髪は傷んでいた。(といってもバリとかでめっちゃヘッドスパとかヘアクリームスパとかした。超気持よかったアロマとかアボカドたっぷり使って3000円弱!アジアでお金使いすぎたなっふふん)

ここは日本だ、と思った。別に違和感はない。だってここは私の家だ。でも何か「変な感じ」がする。これ、違和感っていうのか。

午前中は家を掃除した。そうだ、私、主婦でした、ってやっと思い出した、旅と日常の合間の時差ボケの、時間。

昨日はよく眠れなかった。日本はちゃんと夜暗くなって、朝、きちんと明るくなった。それを、ベッドの上でうとうととしながら感じていた。

あれ、私、日本に帰ってきたってことは会社に出勤したほうがいいのかな……明日、会社に、行こうかな。まだ時差ボケがとれなくて、日本も意外に涼しくて、ふわふわと旅と日常の間をさまよっているような、今はそんな不思議な気持ち。


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