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好きに生きたらいいのでは。愛する人と、美しく【スペイン・シッチェス】

カメラを持っていないときのほうが、街がよく見えるな、と思って、私はスペイン・バルセロナの凱旋門の近くを歩いていた。

家から徒歩1分でこの景色。朝起きたら青い空と程よい光、午後に近付いていくに連れ、春から夏に近付いていくような。気持ちのよい5月が延々続いていくような、それでいて四季があって、朝と夜はまだ冷えて。

バルセロナの夕暮れの木漏れ日の美しさを、どうして私は誰とも分かち合えないんだろう?と思っていた。

グエル公園の影の出来方や、削りたての生ハムの美味しさ。海へ続く道が右、山へと続く道が左。サグラダ・ファミリアの水面の反射や吹きすさぶ風の気持ちよさ。上下左右、何でも選べて、私たちはどこへでも行ける。

ひとりでないのに、どうしてもひとりな気がしてしまう。ねぇご飯を食べていても、いつ目が覚めても、陽射しや三日月を眺めていても。

モロッコにいたとき、なぜだかどうしてもこの国を出たくなった。100%愛していたのに、まわりは私のこころを掴んで離さないものばかりだったのに、砂が、渇いた風が、食べ慣れない食事が、話しかけられすぎる街歩きが、フランス語が。

どうしてだろう、イタリアや、スペインの海沿いの街へどうしても行きたくなった。航空券を調べる、明日飛べる、明後日でもいい。行ける、たどり着けるのだ。行く?行っちゃう?と考えるだけで、その夜暗かった空が、ぱああと明るく、視界開ける想いがした。

ほんとうはね。この1ヶ月ほどの海外滞在は、1つの国、1つの街だけを訪れようと思っていたの。けれど気が付いたら4カ国8都市をめぐっていて。どうしてかな、私これ……いわゆる多動症ですか。結婚して、1つの街に5年暮らしていたことも、あったのよ―――?

***

バルセロナを出発したとき、太陽は隠れていて、空には少しグレーがかった曇が広がっていた。今日は雨が降るのかもしれない。そう思っていたのに、どうしてだろう。シッチェスに到着してホームに荷物を下ろしたとき、日が差して、そこからみるみるうちに空は晴れ渡っていった。

悪くない、と私は思う。

1年を通して続けてきた旅の、一旦の終着点。スペイン・シッチェスという海沿いの街にたどり着けたのは、なかなかに悪くない。悪くないのではないか、と私は海岸線沿いへと続く細い坂道を下りながら、小さく思っている。

(※ちなみにここが、いわゆるLGBTリゾートとしても名を馳せている街でもあることは補記しておこう)

年に幾度か、この街は特に賑わうそうだ。映画祭の夜、カーニバルの祭りの日。あとは海岸線の美しさに惹かれて、バルセロナからやってくる、たくさんの観光客、観光客……。

それでもさびれた街を想像していた。思ったよりもずっと、ここは地中海沿いの街で、どこかイタリアのカプリ島や、スペインの最南端のミハスという村を連想させた。

(2014年に旅をした、イタリア・カプリ島の景色)

もしかしたら、この街を出る時、私はこの1年続かせてきた長い旅を、一旦終わらせるのかもしれない、と思っていた。旅は決して止められない。もう私の、人生の一部になりつつあって、もはや日常に近い様相を呈している。

けれどもう。街から街へ、部屋から部屋へ、道から道へ、人から人へ……「再来週の今日、私はどこへいるのか知らない」というような放浪の旅は、一度終焉に向かわせていいのでは、と思っていた。

この1年、本当にいろんなことがあった。言うまでもない、言うまでもない……。そろそろ一旦立ち止まって、昇華のフェーズに入らせても、いいのでは。そうしたい、そうしなさいと、本能が言っている。

長い、長い文章を書いたり、今までと違うアウトプットの形だったりを、私は模索したいと思っていた(じゃあさっさとやればいいのに)。ほしいものは何で、どんな暮らしがしたくて、そこには何が必要で、となりに誰がいたらいいのか。そもそもいてほしいのか、そこは果たしてどこなのか。

夏までは、やることが決まっている。それまできっと、私は日本で暮らす。時折海外へ旅に出たり、するのだろうか(※会社員なので、正確には「"旅に出ることを許してもらえたり"するのだろうか)。

降り注ぐ光、日に日に肉付けされていく三日月、窓に反射する地中海の波、影を作る屋根、人々の足音。ここは日本から遠く離れた異国なのだという自覚はすでにない。


ねぇみんな好きに生きたらいいよ。大人になるって楽しいよ。いろいろあったけど、人生は美しいと私は思う。信じられる人や追いかけたいものがあるのなら、離さないで、その手から。掴んだ手、自分から離したら、もう二度と戻らないかもしれない。

それでも私は、前に進みたかった。美しい日々を、過ごしたかった。生きることは楽しいと、それでもどうしても信じたい。信じてほしい。できれば、あなたと。

明日から、世の中は春の4月を迎えるらしい。日本の桜は、いまどれくらい咲いているのだろうなと思いながら、バルセロナやシッチェスで咲き誇る藤やアーモンドの花を見つめる、3月31日。そんな日だった。そんな、年度の終わりの今日。

(結局今日は、何を言いたかったんだろう。笑)

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