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半年間の勝手な決算をしてきた【オーストラリア・アリススプリングス】

「数年ぶりに会う、さきちゃんは元気にしているだろうか」
「私は、鳥井さんに出会わなければ、今の人生はなかったな」
「なんて広い、空だろう」

そんな雑多なことを思いながら、カンタス航空の飛行機に乗って、飛び立つ時を待っていた。

スピードを上げて走っていく滑走路。機体が地面から離れる瞬間。この瞬間を、この1年で何度感じただろう。

アリススプリングスという、オーストラリアのちょうど真ん中に位置する街から3時間半。西海岸のパースという街へ向かう途中だった。

私は結局、この半年の総決算を、ここオーストラリアの聖地・ウルルで行っていたのかもしれない、とひとり勝手に総括を始める。

ウルルへは、最後まで登らなかった。登らない、と決めたようでもあったし、登山口が開かない、という必然的な理由によって、登れなかった、というのも正しい。

そこはある側面において、本当に神聖な場所だった。ウルルの登山口には、8言語で「ウルルには登らないでください」と書かれていた。一説によると、上から順に、登ってしまう人が多い国から並んでいるということだった。

筆頭は、日本語。

※ちなみにこれが登山口。命がけ感ある

荒涼とした大地に、ぽつんと飛び出るいくつかの大きな突起。ウルルや、カタ・ジュタ、キングスキャニオン。たしかにそれが、古くから信仰の対象だったと聞いて、疑念を抱く人はいないだろうと思った。

歩く度に、赤土が私の靴の色を染めていく。リュックも、タオルも、一度こびりついたら簡単には取れない赤色をしていた。

「エアーズロックの色を知っていますか」と聞かれた。長年の風の働きによってできる、いくつかの空洞。その内部はグレーに近い色をしていて、エアーズロックの赤色は錆なのだと知った。


***


旅に出ると決めた去年、私は両手いっぱいにいろいろなものを抱えていて、それは仕事だったり、プレッシャーだったり、家庭の諸々だったり、なんだかんだしていた。恋だってしたかったし、本も読みたかったし、映画も観たかったし、美味しいものも食べたかった。

けれどそれができないのが苦しくて、ひとり悶々としたりして。(書くことを中心とした仕事が、好きな人たちとたくさんできるのは大前提として幸せだった。だからわがままだ)

旅に出るならばと、お世話になった人や、会社、自分とたくさん相談して、手に持ちきれる仕事だけを、海外に持っていきましょうと決めた。

少しだけスペースが空いたかもしれない。そう思ったときに、出版社さんから「移住に関する書籍を書いてみませんか」と話をいただいた。

迷わなかった。と言えば嘘だけれど、いや、迷わなかった。私は書きたかった。

空いたスペース。断った仕事。けれどこの仕事は、しがみついてでもやり遂げたいと、聞いた瞬間から直感が言っていた。

もう無理いやだ、私にはできないと、一瞬だけ投げ出したくなったことがある。けれどそんなことはできないしたくないと、ずっとずっと、思っていた。

力不足が悲しくて、たくさんの人に助けてもらっているのが悲しくて切なくて、けれど嬉しくて。

私は結局、そういう半年間の1つの区切りを、ウルルという土地で迎えていた。


***


地平線が、空に溶ける。暑さなのかそういう季節なのか、空と地面の境目はもう曖昧で、そこにたどり着くまで、飛行機の窓の外は全部赤い土と、乾いた緑、いや緑というよりももはや黒色、の応酬だった。

時折細い、まっすぐな道が見える。

「ザ・ガン」という名の、オーストラリア大陸を縦断する長距離列車が、ゆったりと走っていく。(ちなみに高級列車だ)


書かせてもらえるなら、良い本が書きたい。インタビューさせてもらった人に、納得してもらえる原稿が書きたい。そして読んでくれた人に、何かを。

その気持ちでいっぱいの、ウルルだった。朝晩訪れるウルルはいつもきれいで、夕焼けは泣けるほど美しい色をしていた。

なんつーか、「どこでだって仕事ができる」の、極みのような一週間だった。たぶん一生、忘れないのだろうなと思う。

※最後の2枚は、期間限定で催行されているウルルのアートイベント「FIELD OF LIGHT」

※ウルルの仕事風景。アナログすぎる

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