もう一度だけ眠って覚めたら、「昨日までの出来事」になってしまうのが怖くて。

白い壁に、ときおりターコイズ。観葉植物が静かに息づく気配に、毛並みのよい猫がタルタル、と気だるそうに歩くのが視界の隅にとまる。世田谷のすこし古いマンションを、リノベーションして美しくした住まい。

窓の外には、遠くスカイツリーや東京タワー、新宿の街並みや、この街で暮らすひとたちの灯りが見えた。約2年間に渡る「家のない暮らし」「旅と生きた期間」の最後のさいごの夜に私が選んだのは、なんてことない、そんなAirbnbの部屋だった。

なんてことない、というのは、決して悪い意味で言ったんじゃない。「これが、素敵な東京の暮らし」だと、羨み、そして「これから作ろう」「作りたい」と願う意味合いが大きいのだと思う。

最後のさいご、私はたぶんもう少し疲れていたのだ。大きな荷物を、いつもいつも持って歩くこと。チェックアウトやインの時間を意識すること。泊まる屋根の下が変わるたびに、目が覚めて「ここはどこだろう?(時にはそれが国単位で分からなくなることさえある)」と感じること。

本来であれば、それはすごくすごく楽しい出来事であるはずだった。けれど人生は変わる。時間は過ぎる。旅も重なっていく。

伝わるか伝わらないか、伝えるための努力が今後の人生で、私にできるか分からないけれど、2日に1回、4日に1回、毎日まいにちチェックインやアウトのことを考えて、次に眠る場所を考えて決めて、そしてさようならとこんにちはを繰り返して、半透明になる生き方を。これからもずっと続けていくわけにはいかない……いえ、続けていきたいわけではなさそうだなぁと、私はとっくの昔から気づいていた。

そうだなぁ、あれはイギリス・ロンドンに滞在した時。「人生にリビングとキッチンは必要だ」と感じたのは、永い旅に出始めてからたった3ヶ月やそこらの時期だったはずだから、もうそれから私は、1年半以上、根なし草で生きてきたことになる。

***

ねぇねえ、今日はもう少し無駄話に付き合ってもらってもいいかしら? 感じておきたいことがたくさんあるの。蘇ってくることも、鮮明に思い出すことも、もう忘れたい辛いことも、全部ぜんぶ、もう一度だけ眠って覚めたら、「昨日までの出来事」になってしまう。

そう私、明日から「家に住む」の。ひとつ屋根の下、同じところで生きること。それは全然、恐怖なんかじゃない。とてもとても、楽しみで強く望んだことなのだけれど、なんだかすごく。なんだろ。なんだかすごく、名残惜しいような気持ちもあってね。

「家をつくるのが怖い」なんて、一体この世界の誰が理解してくれるだろう?

2年間家がなかったなんて、自分でもあまり信じられない。おもしろいよなぁ、と私は思う。

決めた瞬間も、選んだ時の気持ちも、実際に旅をする愛おしさも、すべてこのカラダが覚えてる。けどなんとなく見ないふりをして、「なんでだろうねぇ?」と笑ってた。さぁそろそろしっかり前を向いて、生きる時期を過ごしたい。

正直、このnoteを公開するのを迷うくらい、なんだか思考が全然まとまらない。昨日飲みすぎたせいなのか、眠さが原因か、はたまた本当に「戸惑っているのか」。昔の遠足の前の日みたいな感覚でもあるのかもしれない。

とにかく私にとって、今夜は普通の金曜日以上に、何か意味のある夜であるようだった。暮らしが大きく変わる時って、そういえばこんな感覚だったような気もする。

非日常が日常になって久しいから、今度は日常におののくなんて、なんだかすこし、皮肉ね。と思いながら、私は東京の世田谷にいったんの基地を作ることに、想いを馳せる。

(全然まとまらなかった。たまにはこんな日があっても、いいか。)

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伊佐 知美

ともみの部屋 #2

伊佐知美の、世界一周の旅とエッセイ。2016年10月〜

コメント1件

結婚する前の日のきもちのようかも.....?
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