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愛すべきロンドンの街並み【イギリス】

目が覚めたら、まだ時計は早朝4時過ぎを指していて、けれど空はすでに明るかった。

いま東京はお昼の12時。昨日まで居たインドは朝の8時半。体内時計は物理的な距離を移動したからってすぐにはきっと変わらないから、インドが8時半なら、いま私の体は8時半だと思っているのだろうな。

それは、目が覚めても仕方ない(と思っていいだろうか)。

(ステイ先の窓からの風景。レンガ作りのかわいい家が並ぶ)

体がだるくて、重かった。すごく眠いのに、あんまり眠れる気がしない(私は人生で眠れない、ということがほぼないので珍しかった)。

昨日までものすごく暑かったのに、6月のイギリスの朝は、夏が終わりかけた秋のはじまりの頃みたいに、涼しい風が吹いていた。

東南アジアでは、ずっと現地で買ったワンピースを着ていた。日本から持ってきたロングスカートやタンクトップ、パーカーなんて着ないじゃない! と、一時期本当に捨てたい衝動に駆られていたけれど、そんなバカなことをしなくて本当によかった、と思った。今日からまた、出番がきそうだ。

私の部屋は小さな屋根裏部屋みたいな場所で、ベッドの横に小さな天窓がついていた。朝4時なのに、もう明るい。つまり、私のベッドの上にも太陽の光が差し込んできていた。昼間であれば、肌が焼けそうなくらい。白いシーツと枕カバーが、光を反射し始めてた。

けれどまだ眠かった。昨日は結局、インドをお昼に出て、そこから10時間かけて移動。ロストバゲージして電車で移動して、ホストの家に着いたのが22時過ぎだったはずだから……体内時計から考えると、ほぼ私にとってはオールしたようなもんだ。

29歳に、オールはキツい。お酒は飲んでいなかったけれど、同じくらいダルかった。これが、世に言う時差ボケってやつね。そうかそうか……

***

きちんと起きて行動を開始したのは、10時を過ぎてからだった。実際問題、6時にもう一度目が覚めて、眠れないから2時間くらい仕事をして、そしてまた浅い眠りについた。

当たり前だが、太陽が、さっき目覚めたときよりも高い位置にいた。夜、21時過ぎまで日が暮れないとすると、夏のヨーロッパはなんて明るい時間帯が多いんだろう。

(家から徒歩5分の、駅との間にあるカフェ「The Corner Terrace」。生まれて初めてイングリッシュブレックファーストを食べた場所) 

どこへ行こう、と思った。

ロンドンだ。

けれどじつは、どこへ行けばよいのかよく分かっていなかった。いや、もちろんピカデリー・サーカスやウエストミンスター、ノッティングヒルなど、中心地のいくつかの駅の周辺に、もろもろの観光地があることは分かっていた。

(映画『ノッティングヒルの恋人』で知られる「NOTTING HILL GATE」駅)

でも、その中でどこへまず行きたい? と問うてみると、うーん、そうだな……ってちょっと迷った。

もともと、ロンドンは経由だけのつもりだったのだ。2、3日の滞在の間、仕事をしながらふらり観光を少しできれば、いいかなと思っていた。

(ニューヨークやパリでも思ったけれど、街中の女性の「ヒール率」はものすごく低い。みんなフラットシューズかスニーカー、またはおしゃれなサンダルだった。東京ってやっぱりどこか不思議)

カレンダーを見たら、6月11日だった。エリザベス女王の90歳を祝う誕生式典「トルーピング・オブ・ザ・カラー」が、今日バッキンガム宮殿で行われるということだった。

そういえば、バリでは一生でもっとも大きなセレモニーと言われる、王族の葬儀にぶつかった。不謹慎だけれども、あのときは参加してよかった。バリの街の、非日常にして最大の儀式を見て、街とひと、伝統のいろんな表情を知られた。

何かイベントがあったら、でかけた方が楽しい。行こうか、と思ったけれど、一般人が唐突においそれと行けるものでもないと知って、うん、無理だ、とひとりで10時半くらいに思う(見物チケットは数ヶ月前に抽選が行われていた?)。

(朝がきて、家の外を少し散歩したら目の前をいきなり2階建てのバスが走っていて驚いた。ある意味ロンドンの象徴みたいなこの赤いバスは、もっと観光チックなのかと思ってた。観光客用のバスももちろんあるけれど、完全に市民の足、といった様子)

曜日を見たら、土曜日だった。ここから電車で数駅のノッティングヒル近くで、ヨーロッパで最大規模のストリートマーケット「ポートベローマーケット」が行われているようだった。いや、月〜土まで毎日開催されているのだけれど、土曜日はアンティークのストール屋が多く並ぶ日のようで、一週間でもっとも盛り上がる日らしいのだ。

(どこを切り取ってもかわいくて、途中、写真を撮るのをやめてしまいたくなった。キレイなものはきちんと見たほうがいい、とこの旅では思っている)

では、行こうか。と思った。窓の外は、朝と違ってくもっていた。さすがクラウディーロンドン(勝手に呼んだ)。

「でかけるなら、傘を持って行った方がいいわよ」とホストのAlexが言う。

「うん、でも私の傘は荷物の中で、荷物はまだインドなの」(冗談だ、もうこの頃はロンドンに到着していただろう。でもまだ私の手元にはこのときなかった)
と返したら、「玄関の傘、好きなものを持っていきなさい」と言ってくれた。

かわいい花柄の、小さな折りたたみ傘を借りた。

***

ロンドンは、言うまでもなく、素敵な街だった。

パリやニューヨークに少し似ている、と思う時もあった。もしかしたら、東京にも似ているのかもしれない。世界を代表する、大きな都市、だ。

川辺でみんな、思い思いの時間を過ごしていた。大道芸に大声を上げて笑うひと、子どもが側転を練習するのをそっと見守っている大人、彼が芝生の上で寝てしまったから、ヒゲをやさしく撫でながら寂しそうにスマホを見つめている女の子。

ソフトクリームの屋台があって、ケバブがあって、ヨーグルト、ホットドッグ、カクテル、ビール。さまざまな食べ物の屋台が道端を彩ってた。

地下鉄は発達していた。空港は、街から通える範囲で3つはあった。歩いてもいいし、自転車に乗ってもいいし、もちろんロンドンのシンボルとも言える、赤い2階建てのバスに乗ったりしてもいい。

私はそこで、旅と旅行と冒険の違いを思う。

東南アジアでは、おもに「旅」をしていた。けれどミャンマーとインドでは、「冒険」をしていた、ような気がした。

いまここロンドンでは、なんとなくだけれど、「旅行」をしているな、って思う。

旅と旅行と冒険。

なにがしたい? と聞かれたら、迷わず旅、と答えたいけれど、できれば旅と冒険の中間くらいの心持ちが、理想だと思っていることに気が付かされた。

何が違うんだろう? 交通手段? 食事の種類? 肌の色、距離感、清潔感……

よくわからないけれど、ロンドンでは旅ができるのかな、ってなんとなく思った。たとえ宿がAirbnbでも、観光客100%でしかこの街にはいられない気がした。

マイナスの意味はこれっぽっちもない。ただ、そう感じただけ。

***

もう少しこの街にいてみよう、と思った。

明日からは少し滞在エリアを変えて、ロンドンの東側の街・アーティストが集まるという、ショーディッチエリアへ行こうと思う。

朝はできれば、バッキンガム宮殿で衛兵交代式が、見たいな。原稿が終わっていれば、だけど。


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