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フェアリーランド

それは、

驚くほどに美しい世界

夢のような話。

ずっと
憧れ続けた光景がある。

光の屈折が織りなす
奇跡の足もとを見ること。

もうすでに熱く力強い太陽が傾きだして
かわいい小雨がやさしい風を連れてきた

そんな夕方だった。

いつものゆるやかな坂道を
軽快にくだって

ふと、

顔を上げた。


ほんの、

一瞬の出逢いだった。




「虹の足」

吉野弘


雨があがって

雲間から

乾麺みたいな真直な

陽射しがたくさん地上に刺さり

行手に榛名山が見えたころ

山路を登るバスの中で見たのだ、虹の足を。

眼下にひろがる田圃の上に

虹がそっと足を下ろしたのを!

野面にすらりと足を置いて

虹のアーチが軽やかに

すっくと空に立ったのを!

その虹の足の底に

小さな村といくつかの家が

すっぽりと抱かれて染められていたのだ

それなのに

家から飛び出して虹の足にさわろうとする人影は見えない

― おーい、君の家が虹の中にあるぞォ

乗客たちは頬を火照らせ

野面に立った虹の足に見とれた

多分、あれはバスの中の僕らには見えて

村の人々には見えないのだ

そんなこともあるのだろう

他人には見えて

自分には見えない幸福の中で

格別驚きもせず

幸福に生きていることが ―


小学生だったか中学生だったか、

国語の教科書の中で出逢った。

この詩に心をうばわれたあの頃から

何まわりかを経て生きてきたけれど、

このワンフレーズとそのイメージは

憧れたままずっとここまで持ってきていた。


"― おーい、君の家が虹の中にあるぞォ"


届きもしないような遠くから

大声でおしえてあげたいほどの高揚を

一緒に味わい続けてきたのでしょう。


虹を見つけられたときは

それだけで何かうれしくなるけれど、

次の瞬間にはその足もとへと、

いつも想いを馳せていた。


『ねぇ、そんなシアワセの中にいるよォ』


何度だっておしえてあげたい。

何度だって気づきたい。


今回の人生の中で出逢える奇跡に

なるべくたくさん笑っていよう。

夢のような一瞬だった。

シャッターを二度押す間に

消えてしまった。


だから

ちゃんと

遺しておこうとおもった。



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