たぶん普通じゃないけど

「え、それって普通のこと?」

と、素朴に・あまりにすとんと聞かれたので、あたしは んー…
と放送事故を起こして考えた挙句

「普通、じゃないかもしれないけど、普通じゃないってこともないけど」

というような、答えになっているのかいないのか分からない返事をしてしまったんだけれど、久しぶりに話す彼女は相変わらず子供のようだった。

深夜2時過ぎ。
どうしても漫画が読みたくなってお菓子を持って漫画喫茶で3時間熟読の後、貸し切り状態の国道に車を走らせながら幼なじみにメールをしてみた。

彼女は世に言う「引きこもり」というやつで、それでも年に1,2回は誘えば、そして家の前まで迎えに行けば家から出てくる。

甘やかしたくないと思いつつも、会えば結果、また甘やかしてしまったなぁと反省すると共に、私に殆ど気を遣わずワガママを言う彼女に無性に腹が立ってしばらくは連絡を取る気にもならないのに、どういうわけかまた半年くらいすると顔が見たくなって連絡をとってみるのだ。

私達は本当の幼なじみで、住んでいた団地の階段から髪の毛をつかみ合って転がり落ちたり、とっくみあいをして噛み付き合ったりと、他人ながら姉妹のような激しいケンカをして幼少を過ごした仲なのだが、団地を出てから10年くらいのブランクを経て、ここ数年は年間行事のように数は少ないが、振りかえれば定期的に会っている。
彼女は3階、私は2階に家族と住んでいて、会社の団地だったから勿論、私達の父親は同僚同士。

そう。
深夜に「会えない?」とメールしたあたしに
「いつ?」と彼女。
「1時間後」と返信すると、電話がかかってきた。

「今何してるの?」
「運転中」
「こんな夜中に車運転って、え、それって普通のこと?」
と彼女は驚いたように素直な声で聞いたのだった。

時速40kでのろのろと走りながら、雨のせいで反射する光を増した黒い長いのりみたいな道を、歌いながら彼女に会いに行くのはかなり馬鹿らしいことに思えたけれど、なんとなく足が家に向かない言い訳のようにメールを送ったので、返事によってはそのまま西へ走るかもしれないなぁという、軽い賭けのような気持ちで。

が、

「今は無理」

と彼女が答えたので、あたしはなんとなく残念だった。
でも走行距離を考えてほっとしながら、彼女と話をした。

「それは普通のこと?」

・・・多分普通じゃないんじゃない?明日早朝から仕事ならば。

と思ったけれど、あたしは仕事してた時も時々夜ふらふらと出歩いてたので、それも違うなと思った。

・・・どうしても漫画読みたくなって。

それも違う。

 彼女の言葉には嘘がない。あまりにストレートだ。

「何の漫画読んだの?」とか

「え、それ3時間でいくら?」とか、質問が的確で会っている時と変わりないような質問。

「話すことないなぁ、じゃ、そろそろ切ります。」

と律儀に言ってくれて、そのあまりにシンプルな言葉にあたしは感動に似た清々しさを感じた。

彼女は自分が「普通じゃない」ことをよーく意識している。
彼女との会話には「普通」って言葉がよく出てくるなぁと前から思ってはいたけれど、この使い方は面白いなぁと思った。

でも、彼女と話すまであたしはひとりで思っていたのだ。

「夜11時過ぎに一人でお菓子持って漫画喫茶で漫画読んで、ほんで雨の夜をドライブ?歌いながら?なぜに?Why?明日仕事じゃないしもう少ししたら親と住まないといけないから今のうちに自由を満喫してんのか?てゆーか普段体調まぁまぁいい時ってそうないから、ちょっとよくなるともう普通にゆったりのんびりしてらんなくてすぐにどっか行きたくなってしまうのは仕方ないよな。
しかし漫喫で?んー、いけてない?いや、別にそんなことはどうでもいいしな、運転好きだしな、夜雨だときれいだしな、明日特にこれといった用事ないしな、眠いけど寝たいって感じでもないしな…。ってでも人通り殆どないな。
 総合して言うと、阿呆だ、あたしは阿呆かも。おーそっか、あたしは阿呆なんだな、よし、納得。」

 普通かどうかなんて、みんなわかんないよねーきっと。
と言いつつやはりどこか気にしているもので、「普通」という概念がない、という状態を目指したいのだが、どうも小市民そうもいかないらしいけれど、まぁまぁまぁまぁまぁ。

そんなこんなで、外はすっかり明るくなってしまった。
 

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