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【100均ガジェット分解】(52)ダイソーの「車載ワイヤレスチャージャー」

※本記事は月刊I/O 2023年7月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。

自動車のエアコン吹き出し口に装着し、スマートフォンを置くと自重でホールドされる「車載ワイヤレスチャージャー」がダイソーで売っていました。自動車のシガーソケットに挿したUSB充電器経由で電源を供給するタイプで面白そうだったので、すかさず購入して分解してみました。

店頭の製品展示の様子

パッケージと製品の外観

「車載ワイヤレスチャージャー」はワイヤレス充電規格である「Qi」の10W急速充電に対応、価格は1000円(税別)です。
パッケージの内容は本体、固定用アクセサリーパーツ、取扱説明、USBケーブルです。

本体の電源入力コネクタはUSB Type-C、スマートフォンホルダーと一体型になっていて、スマートフォンを置くと自分の重さで左右からホールドさせる機構になっています。

パッケージの内容

付属のUSBケーブルはUSB Type-C~USB-Aタイプです。いつものように「USBケーブルチェッカー2 (
https://bit-trade-one.co.jp/adusbcim/)」を使ってチェックした結果、100円ショップの製品の付属ケーブルとしては珍しくUSBの通信ライン(D+/D-)が接続された「充電・通信対応」でした。

付属USBケーブルの結線確認結果

パッケージ表示と取扱説明書は日本のみです。入力仕様は「5V3A/9V2A/12V1.5A」、対応する充電器のUSB充電規格についての記載はありません。
問い合わせ先はダイソー商品ではよく見かけるの「MAKER株式会社」です。

商品仕様と問い合わせ先(取説より抜粋)

ちなみに「MAKER株式会社」は検索しても公式サイトや会社情報が全く見つからない「謎の会社」として一部の100均分解界隈で知られている会社※です。
※個人の感想です

本体の分解

本体の開封

本体裏面のビスを外し、周辺のツメを外して開封します。開封するとギヤの組み合わせで構成されているスマートフォン用のホルダー部が出てきます。

開封した本体

ホルダー部の下のビス固定されたケースを外すとメインボードがあります。
送電用のコイルの中央に差し込む形でサーミスタがリードで取り付けられていて、スマートフォンと接する充電面の温度を監視しています。

メインボードを覆うケースを外した状態

回路部品の構成と回路動作

メインボード

メインボードはカラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。フィルムコンデンサと送電用コイルを除く部品は全て基板の片側に実装されています。写真では見えませんが、送電用コイルの下には基板の型番(A106-A1379-Q12_V1.2)と製造年月日(22.09.08)がシルクで印刷されています。

送電用コイルはメインボードに直接半田付けされていて、両面テープで基板と固定されています。コイルと直列に共振用のフィルムコンデンサが半田付けされています。
中央にあるのは送電用コイルのドライバーを内蔵したコントローラICです。取説には記載がありませんが、基板上には状態表示用のLEDが実装されていて、電源を入力すると赤に、Qi充電中は緑に光ります。
ちなみに、充電面に鍵束を置いてみたのですが、LEDは赤のままで、異物検出も正常に動作していました。

メインボード

回路図

基板パターンから回路図を作成しました。

回路図

コントローラIC(U1)は変則的なピン配置になっていて、電源入力(1~3番ピン)とワイヤレス送電出力(13~16番ピン)はピン間距離が広くなっています。
送電電力の監視は、Type-CコネクタのVBUSから供給される電流を電流検出抵抗(R7)で検出して行っています。

入力側の急速充電対応は「Quick Charge(QC)3.0」対応のためのDP/DMと、「USB Power Delivery(PD)3.0」対応のためのCC1/CC2の両方がType-Cコネクタに接続されていて、USB充電のSinkデバイスとして動作します。

ワイヤレス充電規格のQiでは受電側の負荷を変動させることで受電側から送電側へ定期的にパケットを送ります。送電側はこのパケットによって充電面上にあるものがQi対応機器なのかそれ以外の異物なのかを判断します。
本製品の回路ではコイル側の負荷変動による電圧変動をピークホールド回路(D1/R4/R5/C5)で検出してVDM(17番ピン)に入力してコントローラICでパケットをデコードします。

プリント基板のパターンは、大電流が流れるPGNDとアナログ回路用のAGNDが基板上できちんと分離されており、コントローラIC周辺の部品配置もパターンが最短になるように配慮されていて、きちんとした良い設計だと感じました。

主要部品の仕様

無線送電コントローラIC SC9608

無線送電コントローラIC

無線送電コントローラICは上海南芯半导体科技股份有限公司(Southchip Semiconductor Technology Co., Ltd. http://www.southchip.com/ )の15W Wireless Power Transmitter SOC「SC9608」です。

データシートは部品通販サイトのLCSC Electronics(https://www.lcsc.com/)のドキュメントアーカイブで見つかりました。(ちなみにLCSCでの取り扱いは現在はありませんがデータシートは残っています)

http://club.szlcsc.com/article/downFile_7A8C8AD4206741CD.html

32bitマイクロコントローラ・パワーMOSFET・Qi通信のデコーダ・USB QC及びPDシンク機能といったワイヤレス充電器に必要な機能を一通り備えています。

ブロックダイアグラム(データシートより抜粋)
標準アプリケーション回路(データシートより抜粋)


パッケージはQFN25ピンの特殊仕様で、大電流が流れるピンは電極の面積が大きくなっています。

SC9608のパッケージ仕様(データシートより)

入力側のUSB急速充電規格対応の確認

次に実機を使って入力側のUSB急速充電規格への対応の確認をしてみました。

USB充電器はQC3.0とPD3.0に対応した「超速充電器 PD+Quick Charge」(2023年1月号で分解)を、VBUS及びD+/D-の電圧の確認には「WITRN U3 USBテスター」(https://www.shigezone.com/product/witrn_u3/)を使用しました。

QC3.0動作の確認

次の写真は付属のType-C~USB-Aケーブルを使用して充電器のUSB-Aポート(QC3.0)に接続して確認した結果です。

QC3.0対応ポートへ接続した結果

VBUS電圧は約9V、D+/D-端子はそれぞれ約0.6V/約3.3VでQC3.0の連続モード(シンクからの要求で電圧が可変できるモード)で動作しています。

QC3.0のD+/D-とVBUS電圧設定一覧(筆者が作成)

※QC3.0の内容については、筆者のnoteにまとめてあります。
【番外編】USB充電規格をできるだけ簡単にまとめてみる(前編: 野良チャージャーからQC3.0まで)

USB PD3.0動作の確認

次の写真はType-C~Type-Cケーブルを使用して充電器のType-Cポート(USB PD3.0)に接続して確認した結果です。

USB PD3.0対応ポートへ接続した結果

VBUS電圧は約9V、D+/D-端子はどちらも0.3V未満ですので、QC3.0ではなくUSB PD3.0で動作しています。

出力側のワイヤレス給電特性

出力電流-電圧特性

マイクロUSBタイプの単体のQi充電レシーバー(10W対応品)を使用し、出力コネクタのVBUSラインに電子負荷を接続して出力電流-電圧特性を測定しました。

https://ja.aliexpress.com/item/1005004620920476.html

使用した10W対応Qi充電レシーバー
測定に使用した環境

以下はQi充電レシーバーから電子負荷で電流を取り出した時の出力電圧の実測結果です。
出力電圧はUSB BC1.2の禁止領域(500mAまでは4.75V以上)を満たしているので、USB PDやQCを必要としない”一般的なUSB機器”の充電であれば問題ありません。
1.03Aで出力が停止しているのはQi充電レシーバーの制約で過電流保護が動作したものです。実際に手持ちのiPhoneを充電してみましたが問題なく充電できました。

Qi充電レシーバー使用時の出力電流-電圧特性

ワイヤレス充電時の効率

以下はQi充電電力効率(Qi出力/USB入力)の実測値です。350mA~1Aの効率は約70%とかなり良い結果となっています。

出力電流-充電効率

ちなみに、USB入力電流は無負荷(上に何も載せない状態)で9V/30mA=0.27W、単体のQi充電レシーバーを無負荷状態で接触させるとQi送信回路が動作(LEDが緑になる)して9V/90mA=0.81Wに増加しました。
消費電力を気にするのであれば充電が完了したらスマートフォンを外しておくことをお勧めします。

まとめ

Qi 10W急速充電対応ワイヤレス充電器は以前(2020年11月号)にも分解をしたことがあります。
その時はコントローラIC+送電コイル用ドライバ2個の3チップ構成でしたが、本製品ではドライバを内蔵した専用のコントローラIC 1個に機能が集積されていました。
充電効率(500mA出力時)も前回は約45%でしたが、本製品では約70%と大きく向上しています。
同じような機能でも、分解・評価してみることで数年で技術的にも性能的にも色々と進歩していることが実感できる分解となりました。

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