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【100均ガジェット分解】(48)PD PPS対応「超速充電カーチャージャー」

※本記事は月刊I/O 2023年3月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。

今回はUSB充電規格「USB PD」の拡張機能である「PPS」に対応した「超速充電カーチャージャー」を分解します。


パッケージと製品の外観

「超速充電カーチャージャー」はNo.46で紹介した「超速充電器 PD+Quick Charge3.0」のカーチャージャー版で、こちらも「USB Power Delivery Rev3.0 Ver1.1」で追加された出力電圧を任意に変更できる拡張機能「PPS(Programmable Power Supply)」に対応しています。価格は500円(税別)です。

パッケージの外観

パッケージ裏面に表示された仕様は以下です。

  • 入力電圧: DC12/24V

  • 出力仕様 Type-C(USB PD3.0): 5V/3A, 9V/2.22A, 12V/1.66A(=20W)

  • 出力仕様 Type-A(QC3.0): 3.6V-6V/3A, 6.1V-9V/2A, 9.1V-12V/1.5A(=18W)

2ポート同時使用時の合計最大は5V/3A(=15W)、PPS対応については特に記載はありません。

パッケージの仕様表示

本体の確認

パッケージに入っているのは本体のみです。本体には"ecola"のロゴ表示があります。

本体

本体のコネクタ面にはTYPE-CとType-Aの2つの出力ポートがあり、それぞれに「PD」「Quick Charge 3.0」の表示があります。

本体の出力ポート

本体の表示を確認すると、品番は「E-PD-J2」、輸入・販売元は「株式会社ラティーノ」です。本体にはQuick Chargeのロゴマークがついています。定格表示はパッケージと一致していて、こちらにも「PPS」対応の記載はありません。

本体の表示

本体の分解

本体ケースは接着されているため、USBポート部分とカーソケット部分の間を切断して開封します。
カーソケットのー電極は金属プレート、+電極はバネになっています。+電極とプリント基板はリード線で接続されています。

開封した本体

プリント基板は2枚構成、「メインボード」に差し込む形で「Type-Aサブボード」がハンダ付けされています。

プリント基板の構成

プリント基板の取り出し

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR4)の両面基板です。
メインボード表面には、Type-Cコネクタ、USB PD/QC対応の充電コントローラ、カーソケットの12V/24VからUSB充電電圧を生成する電源コントローラ、Type-Aの出力電圧をON/OFFするためのFETが実装されています。カーソケットからの入力ラインには保護用のヒューズが入っています。

メインボード(表面)

メインボード裏面には電源用コイル、電源用低ESRコンデンサ、Type-Cの出力電圧をON/OFFするためのFETが実装されています。大電流を流すために電源・GNDともに十分に太いパターンとなっています。

メインボード(裏面)

Type-Aサブボード

Type-Aサブボードもガラスエポキシ(FR4)の両面基板です。
表面にはUSB TYPE-Aコネクタが実装されています。基板上には未実装のLEDのパターンがあり、通電すると光るような製品にも対応できるように配慮されています。

Type-Aサブボード(表面)

裏面には実装部品はありません。Type-Aコネクタのデータライン(D+/D-)はQC3.0対応のためにメインボードへ引き出されています。

サブボード(裏面)

回路図と動作の概要

基板パターンより回路図を作成しました。

回路図

カーソケットからの電源(12V/24V)は、電源コントローラ(U1)とコイル(L1)・低ESRコンデンサ(EC2)で構成された降圧型DC-DCコンバータでUSB側の出力電圧に変換されます。
USB充電コントローラ(U2)は、Type-CおよびType-Aに接続されたデバイスを判別し、規定の出力電圧になるようにU1のVFB端子へのフィードバック電圧を制御を行います。

主要部品の仕様

電源コントローラ(U1) CX8855

電源コントローラ

電源コントローラは「深圳市诚芯微科技有限公司(http://www.cxwic.com/)」製のDC-DC降圧型コンバータ「CX8855」です。
データシートは以下より入手できます。

http://www.datasheet-pdf.com/PDF/CX8855-Datasheet-CHENGXINGWEI-1418416

電源スイッチング用のMOS FETと制御ロジック回路がワンチップになっているオールインワンのICです。主な仕様は以下の通りです。

  • 入力電圧: 4.5〜32V

  • 出力電圧可変範囲: 2.5〜24V

  • VFB端子フィードバック電圧: 1V

  • 内部ON抵抗: 30mΩ High-side PMOS/20mΩ Low-side NMOS

  • 最大出力電流: 3.4A

  • スイッチング周波数: 135kHz固定

  • 保護機能: 短絡保護(SCP)、加熱保護(OTP),過電圧保護(OVP)

USB充電コントローラ(U2) IP2726

USB充電コントローラ

充電コントローラは「超速充電器 PD+Quick Charge3.0」と同じ「深圳英集芯科技股份有限公司(http://www.injoinic.com/)」製のUSB急速充電プロトコルコントローラ「IP2726」です。データシートは以下より入手できます。

http://www.sz-dowell.com/a/products/chanpinpdf/IP2726.pdf

USB PD3.0/PD2.0及びPD3.0のオプションで出力電圧を100mV単位で変更できる機能のPPS(Programmable Power Supply)に対応したUSB PDソースコントローラICです。
サポートする急速充電規格は以下です。

  • USB PD3.0/2.0/PPS

  • USB BC1.2 DCP

  • QC4+/QC4/QC3.0+/2.0(Qualcomm)

  • FCP/SCP(Huawei)

  • AFC(Samsung)

  • MTK PE+ 2.0/1.1 (MediaTek)

オリジナルのIP2726はUSB PD用CC1/CC2ライン1系統とQC用のD+/D-ライン1系統のみなのですが、本製品はNC端子を使用してQC用のD+/D-ライン2系統の制御をする「カスタム仕様」となっていて、USB Type-AとType-Cの両方でQC3.0に対応できます。
電源電圧制御(FB)機能を内蔵し、電源コントローラICと組み合わせることでUSB充電器を構成できます。本製品で使用されているものは18W対応品で、USB PD出力可能電圧(PDO)は5V/3A、9V/2.22A、12V/1.66A(最大19W) + PPS 3.3-11.0V/2A(最大22W)となります。
Type-CとUSB-Aポートのいずれか片方のみがデバイスに接続されている場合は、VBUS出力電圧12Vまでの急速充電に使用できますが、Type-CとUSB-Aの両方が同時にデバイスに接続されている場合は、VBUS出力電圧は5Vに下がります。
また、I2Cマスター制御インタフェースを持っていて、INJOINICの電圧調整用I2Cスレーブ機能を持つ電源コントロールICと接続するとI2Cで出力電圧を設定して使用することができます。

MOSFET(Q1, Q2) AO3400

N-Channel MOSFET

Type-AおよびType-Cの出力ON/OFF用の「A90T」のマーキングのFETは汎用品のN-channel MOSFET「3400」シリーズです。
互換品は複数の会社が製造しており、データシートは「Alpha and Omega Semiconductor (http://www.aosmd.com/)のものが以下より入手できます。

https://datasheet.lcsc.com/lcsc/1811081213_Alpha---Omega-Semicon-AO3400A_C20917.pdf

定格はVds=30V、Rds(on)=19mΩ(@Vgs=4.5V, typ.)です。

USB充電プロファイルの確認

次に本製品のUSB充電プロトコルを確認してみます。チェックには「WITRN U3(https://www.shigezone.com/product/witrn_u3/」を使用しました。

WITRN U3

Type-Cポートがサポートしている急速充電規格

次の写真はType-Cポートがサポートする急速充電規格の自動検出結果です。
プロトコルチェッカの場合、CC端子がきちんと接続されているので、PD対応シンクと判断されてQC3.0のサポートは無効になっています。

Type-Cポートがサポートしている急速充電規格

USB PDパワールール(PDO)の確認

まずはType-C側のUSB PD PDO(Power Data Objects)の確認結果です。仕様である「5.0V-3A,9.0V-2.22A, 12.0V-1.66A」に加えて、「PPS 3.3-11.0V/2A」をサポートしています。

USB PD PDOの確認

U3の設定で各PDOでの設定電圧とPPSで電圧を振ってみた結果を以下に示します。各設定とも0.2V程度高めの出力電圧になっていました。

USB PD/PPS電圧設定と出力電圧の確認結果

Quick Chargeサポートの確認

次の写真はType-A側がサポートしている充電規格の確認結果です。製品仕様であるQC3.0をはじめ複数の急速充電仕様に対応しています。

Type-Aポートがサポートしている急速充電規格

こちらもU3の設定でQC3.0の設定電圧を振ってみました。QC3.0は各設定ともほぼ設定通りの出力電圧になっていました。

QC3.0電圧設定と出力電圧の確認結果

出力電流-電圧特性の確認

電子負荷を使って実際にどれくらいの電流まで出力できるかをUSB PDのPDOである5V, 9V, 12Vのそれそれで測定しました。点線は定格出力電圧+/-5%のラインです。いずれも定格電流内での出力電圧は安定していて、過電流保護特性も良好です。

出力電流-電圧特性

まとめ

最近の格安ガジェットでよく見かける輸入・販売元の「株式会社ラティーノ(http://www.latino.co.jp/)」は元々ラテン音楽の楽器や音楽CD/DVDの制作を行う会社で、リサイクルインクを扱う部門である「エコラ事業部(http://www.eco-la.jp/company/)」が輸入ガジェットを扱っているというユニークな経歴の会社です。
ラティーノの製品は100円ショップ以外でも見かけるようになっていますので、個人的に今後の展開に注目してます。

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