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【100均ガジェット分解】(50)ダイソーの「完全ワイヤレスイヤホン E-TWS-1」(TWS二代目)

※本記事は月刊I/O 2023年5月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。

ダイソーの「完全ワイヤレスイヤホン」は現在(2023年10月時点在)で6種類が販売されており、これまでに初代三代目四代目と3種類を分解してきました。今回はなぜかここまで分解していなかった二代目の「E-TWS-1」を分解します。

パッケージと製品の外観

パッケージの表示

ダイソーの「E-TWS-1」も他の完全ワイヤレスイヤホンと同じく価格は1,000 円(税別)、輸入販売元はダイソーを含めた100円ショップの製品でよく見かける「株式会社ラティーノ エコラ事業部(http://www.eco-la.jp/company/)」です。
BluetoothバージョンはV5.0+EDR、対応コーデックはSBC、内蔵電池容量はイヤホンが50mAh、付属の充電ケースが300mAhです。連続再生時間は約6時間でダイソーの4種類の完全ワイヤレスイヤホンの中で最も長くなっています。

パッケージ裏面には技適マークと PSE マークの表示があります。

製品パッケージの表示

総務省 電波利用ホームページの「技術基準適合証明等を受けた機器の検索(https://www.tele.soumu.go.jp/giteki/SearchServlet?pageID=js01)」から工事設計認証番号(203-JN1188)で検索をすると、株式会社ラティーノが令和3年(2021年)6月24日に技適を取得していることがわかりました。

技適情報の検索結果

操作はイヤホン背面のプッシュボタンで行います。プッシュのパターンで複数の機能に対応していて、音声アシスタントの操作も行うことができます。

操作ボタンの機能(取説より抜粋)

音質については、格安TWSではよくある低音と高音を強調しすぎた「強めのドンシャリ」ではなく、全体的なバランスが取れていて変なクセがないという印象です。イコライザでの補正もやりやすく、個人的には付属のイヤーピースでも「屋外での日常使いであればそこそこ使えるレベル」という感想です。

同梱物と本体の外観

パッケージの内容は「イヤホン(左右各1個)」「充電ケース」「取扱い説明書(日本語)」「USB Micro-Bケーブル」です。付属ケーブルは充電専用で通信には未対応です。
イヤホンの外装はプラスチック製、付属のイヤーピースは1種類(Sサイズ)のみです。

イヤホン

充電ケースは充電状態を4段階で表示するタイプです。充電ケースとイヤホンのコンタクトはTWSでは一般的な磁石で引き付けてイヤホンと電極を接触させる構造です。「技適マーク」は充電ケース裏面にも表示されています。

充電ケース

イヤホンの分解

イヤホンのケースはツメで固定されていますので、隙間に精密ドライバ等を差し込んで開封できます。

イヤホンを開封した状態

メインボードを取り出すと、保護用の樹脂シートを挟んでLiPoバッテリーがあり、その下には保護用のマスキングテープが貼られたスピーカーと充電電極基板があります。

取り出したメインボードとLiPoバッテリー

イヤホンの内部構成と回路動作

LiPoバッテリー

LiPoバッテリーは581013サイズ(幅13mm x 高10mm x 厚5.8mm)で容量50mAhです。保護回路は内蔵しておらず、タブ(電極)にリード線を直接ハンダ付けしてポリイミドフィルムテープで固定しています。

LiPoバッテリー(イヤホン)

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の4層基板、基板の型番「HDX2106-83D-V1.0」と製造日(2021-03-15)がシルクで印刷されています。
表面にはメインプロセッサ・水晶発振子、裏面には操作ボタン・コンデンサマイク・積層チップアンテナ・LED(R/B)が実装されています。基板上にはプログラム書込み用のテストランド(DP/DM)もあります。

メインボード(イヤホン)

イヤホンの回路図

基板パターンからイヤホンのメインボードの回路図を作成しました。

回路図(イヤホン)

メインプロセッサ(U1)には充電用電源(V+/V-)とLiPoバッテリー(B+/B-)が直接接続されており、充電制御はメインプロセッサで行っています。
メインプロセッサの周辺部品は内蔵電源用のコンデンサとDC-DCコンバータ用のインダクタ(L1)及び水晶発振子(24MHz)です。必要な電源のうちVDDIO、VCOMはプロセッサ内部のLDOで、BT_AVDDはDC-DCコンバータ用のSW出力(5番ピン)をL1とC2/C5で平滑して生成しています。

イヤホンの主要部品の仕様

メインプロセッサ:AD6983D

メインプロセッサ

メインプロセッサは珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi Technology Co.,Ltd., http://www.zh-jieli.com/)のBluetooth TWS用SoC「AD6983D」です。
データシートはデザインハウス(方案公司)の深圳科普豪电子科技有限公司のページから入手できます。

https://www.kepuhaodianzikeji.com/newsinfo/909528.html

パッケージはQFN20、32bit CPU+DSP(最大 160MHz 動作)を内蔵し、SoCとしてはBluetooth v5.1をサポートしています。BT用の電源を外部インダクタを接続するDC-DCコンバータにすることで消費電力を削減しています。
内蔵のDSPはSBCだけではなくAACにも対応しており、各種ノイズキャンセル機能にも対応可能となっています。

AD6983DのDSP機能

ちなみに本製品も発売当初はAACに対応していましたが、途中からSBCのみの対応となりました。(理由は不明)

充電ケースの分解

充電ケースもツメで固定されているので、隙間に精密ドライバ等を差し込んで開封できます。内部は充電ボードとLiPoバッテリーが重なるように格納されています。

充電ケースを開封した状態

充電ボードはケースにビスで固定されています。LiPoバッテリーは両面テープで充電ボードに貼り付けられていて、充電ボードとは直接ハンダ付けされています。

LiPoバッテリーを取り外した状態

充電ケースの内部構成と回路動作

LiPoバッテリー

LiPoバッテリーは保護回路内蔵の602030サイズ(幅30mm x 高20mm x 厚6.0mm)、容量は300mAhです。

LiPoバッテリー(充電ケース)

充電ボード

充電ボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板、基板の型番「HDX2106-3014A V1.0」と製造日(2021.3.18)がシルクで印刷されています。表面には充電制御IC・インダクタ・イヤホン充電用コンタクトピン(ポゴピン)・Micrro-Bコネクタ・LED(4個)が実装されています。

充電ボード

充電ケースの回路図

基板パターンから充電ケースの回路図を作成しました。

回路図(充電ケース)

充電制御IC(U1)はUSBのVBUS(5V)からLiPoバッテリーへの充電と、外付けのインダクタ(L1)によってLiPoバッテリーの電圧(3.2~4.2V)を5Vに昇圧し5V+/5V-端子を経由してイヤホンの充電(充電ケースから見たら放電)を行います。ケースの充電状況に応じた4個のLED制御もU1で行っています。

充電ケースの主要部品の仕様

充電制御IC:GR3014A

充電制御IC

充電制御ICは深圳谷雨半导体有限公司(Grain semiconductor, http://www.grainsemi.com/)の「GR3014A」です。
データシートは以下より入手することができます。

http://www.grainsemi.com/Upload/3e3049b2-1d92-4fcb-80ee-da3829655246.pdf

LEDの充電状態表示はLiPoバッテリーの電圧によって変化し、仕様は以下のようになっています。

充電状態表示の仕様 (データシートより抜粋、 亮は点灯・灭は消灯・闪烁は点滅)

Bluetooth接続情報の確認

今回も「Bluetooth Scanner, Finder」で接続情報を確認しました。名前は「BTTWSL1」、プロファイルは「ヘッドセット」、サポートするコーデックは一般的な「SBC(SubBand Codec)」、プロトコルは「Classic(BR/EDR)」で接続されています。ベンダーは「不明」となっていました。

BlueToothの接続情報

まとめ

以前の記事で分解したダイソーのTWS三代目で同じラティーノ製の「E-TWS-2」と比較すると、プリント基板のパターン設計はきちんとしていました。外装の質感や連続再生時間も今回の製品の方がよく、イヤホンの内部構造もLiPoバッテリー周りにも保護用のシート・テープあったりと、調達(設計)元は別だと思われます。

最近の格安TWSのイヤホン部のLiPoバッテリーは保護回路内蔵ではないものが増えています、というか分解したもののほとんどが保護回路なしになっています。SoCの方で充電管理をしているとはいえ、やはり耳に装着する部分のLiPoバッテリーは保護回路付にしてほしいというのは感じます。
その部分を除けば、低価格TWSとしては、かなり良い設計の製品だという感想です。

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