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「働き方」を学ぶ

今回は稲盛和夫氏の「働き方」という本についてです。
稲盛氏といえば、京セラ・第二電電(現KDDI)の創業者であり、2010年に会社更生法を申請した株式会社日本航空(JAL)を再建すべく、代表取締役会長に就任した日本の実業家である。稲盛氏は自身の考えと経験を通して様々な本を出されており、ビジネスの世界に身を置く方であれば、一度は何か手に取ったことがあるのではないだろうか。本書は初版から約10年近く経ったいまでも、色褪せない名作として多くの方に愛読されている。

本書では、「本当に価値のある人生」を送るために、「なぜ働くのか」「いかに働くのか」を教えてくれる。改めて初心に還って働くということについて考えてみたいと思う。

目次
第一章 「心を高める」ために働く ーなぜ働くのか
第二章 「仕事を好きになる」ように働く ーいかに仕事に取り組むか
第三章 「高い目標」を掲げて働く ー誰にも負けない努力を重ねる 
第四章 「今日一日一生懸命」に働く ー継続は力なり
第五章 「完璧主義」で働く ーいかにいい仕事をするか
第六章 「創造的」に働く ー日々、創意工夫を重ねる
エピローグ

第一章 「心を高める」ために働く ーなぜ働くのか

人は何のために働くのだろうか?
前提として、「生活の糧を得るため」であることは間違いないが、稲盛氏は働くのは「自らの心を高めるため」であると言っている。働くことは人間を鍛え、心を磨き、「人生において価値あるもの」を掴み取るための尊くて最も重要な行為であると。
ただひたむきに、目の前の自分のなすべき仕事に打ち込み、精魂を込めて働く。そのことで、私たちは自らの内面を耕し、深み厚みのある人格をつくり上げることができるのである。

そして、その第一歩は、とにかく目の前の仕事に集中し、心底没頭することから始まる。誰もが「この会社を辞めたい、この会社で自分の将来は大丈夫なのだろうか」と考えるものだが、会社を辞めるには大義名分のような確かな理由がなければいけない。漠然とした不満から辞めたのでは、きっと人生はうまくいかなくなるだろう。
自分に何ができるのか?何をしたいのか?を考えることはとても重要だが、それ以前に自分は何を成したのか?そのためにどれだけ真剣に向き合い打ち込んだのかがとても重要なのである。

ただ、人の内側には108の煩悩があるとされ、常に自分自身を苦しめるものだ。仏教では、幸せに慣れない原因は人の内側にあるとされ、その中でも「三毒の煩悩(貪欲・瞋恚・愚痴)」は最も人を苦しめる煩悩とされている。これらは完全に除去することはできないかもしれないが、かぎりなく毒素を薄めるために「愚直に、真面目に、地道に、誠実に」取り組む必要がある。

第二章 「仕事を好きになる」ように働く ーいかに仕事に取り組むか

人は「心の持ち方」を変えるだけで、自分自身そして取り巻く環境は劇的に変わると言う。稲盛氏も、一生懸命に根を詰めて努力することが苦手な性格だったそうだが、同期が皆辞めていく状況下でやらなければいけない状況下に置かれたことで、とことん目の前のことに心血を注ぎ集中し、真剣に取り組むよう「心の持ち方」を変えたことで、結果的に成果を出すことができた。そして、いつのまにか仕事をやらされている感覚はなくなり、どんどん好きになった経験があったという。

ただ、「仕事を好きになる」「仕事を楽しむ」と言っても、苦しいことばかりでは長続きはしない。ささやかなことに喜びを感じ、感動する心を持って、素直に生きることが長丁場の人生を強く生きていく最良の方法である。

第三章 「高い目標」を掲げて働く ー誰にも負けない努力を重ねる 

高い目標は、人間や組織に進歩を促してくれる最良のエンジンである。創業当時の京セラは、"西ノ京原町で一番" "中京区で一番""京都で一番""日本で一番" といったように少しずつ高い目標を従業員と共に目指し、果てしない努力を積み重ねたことで、誰も予想できなかった結果を出すことができた。

思いは必ず実現する。人が「どうしてもこうありたい」と強く願えば、その思いが必ずその人の行動となって現れ、実現する方向におのずから向かう。ただし、それは強い思いでなければいけない。「できればいいや」程度の気持ちでは絶対に達成することはできない。寝食を忘れるほどに強く思い続け、そのことばかりを考えひたむきに取り組み続けると、次第に「潜在意識」にまで浸透し、意識しなくても潜在意識が働くようになる。

「誰にも負けない努力をする」これは稲盛氏がよく言う言葉だ。努力は誰でもできることで、していることだからこそ、人並み上の誰にも負けない努力を続けていかなければ、競合がある中ではとても大きな成果などを期待することはできない。終点を設けず、先へ先へと設定されているゴールを果てしなく追いかけていく、その無限に続く際限のない努力こそが「誰にも負けない努力をする」というなのだ。

第四章 「今日一日一生懸命」に働く ー継続は力なり

人生は「一瞬一瞬の積み重ね」に他ならない。また、偉大なことも地味なことも同様である。一つのことを「継続」することによって、とうてい手の届かないと思えていた地点まで到達することができるだけでなく、人間としても大きな成長が可能になる。

仕事をしていると、期待の高い「カミソリのような人=できる人」と最初は期待の薄い「鈍い人」が存在する。前者は何事も卒なくこなし優秀ではあるものの、会社や仕事に対しての見切りも早く退職してしまうことが多く、最終的に会社に残るのは後者であることが多い。稲盛氏の経験では、「鈍い人」ほど、人一倍苦労を重ねながら、それでも一生懸命に働くことで次第に人間をつくり、結果的に「非凡」な存在に昇華することを何度もみてきたという。どんな天才・名人と呼ばれる人も継続する力を生かした人であり、努力を継続する力は、「平凡な人」を「非凡な人」に変えることができるほど、強大なパワーを持っているのだ。

「今日一日を精一杯努力しよう」今日一日懸命に働けば明日が必ず見えてくる。瞬間瞬間を充実させ、小さな一山ごとに超えていく。その小さな達成感を連綿と積み重ね、果てしなく継続していく。それこそが一見、迂遠に見えるものの、高く大きな目標たどり着くために、最も確実な道なのである。

第五章 「完璧主義」で働く ーいかにいい仕事をするか

「完璧主義」とは、毎日の真剣な生き方からしか生まれない。日々、完璧を目指すことは非常に難しいことだが、本当に満足できる仕事を目指すなら完璧を目指すことしか方法がない。常に100%を目指した仕事をしつつ、最後の1%の努力を怠っては絶対に良いものは生まれない、稲盛氏が貫いてきた働く上でのモットーである。

完璧な仕事をするために、必要不可欠なことを、当時の先輩にあって自分にないものから見ることができたという。これは、稲盛氏の仕事を取り組むための根幹となる考え方であり、働く基本姿勢となっている。

・細部まで注意を払うこと
・理屈より経験を大切にすること
・地道な作業を続けていくことを厭わないこと

そして、ベストよりもパーフェクトを目指すことが重要である。ベストは、その中で最もよいという意味のため、レベルの低いところでもベストは存在する。一方、パーフェクトはベストと違って絶対的なもの、他との比較ではなく、完全な価値を有したものである。「これ以上はないもの」を仕事において目指し続けることが必要な取り組みなのである。

第六章 「創造的」に働く ー日々、創意工夫を重ねる

稲盛氏は、京セラ創業以来、常に誰も通ったことのないような新しい道をあえて選んできた。しかしそれは、人の知らない道であり、平坦ではない。だからこそ、そのような人の知らないぬかるみの道、いわば未踏の道こそが、苦労は伴うものの、想像もしないような未来に通じているのだ。

稲盛氏は「想像的な仕事をする」ために、引き合いに出すのが掃除である。漠然に取り組んでいる掃除も取り組み方次第でいくらでも工夫ができる。どんなに単純な仕事や作業でも創意工夫を怠り、漫然とただ続けているような人は、なんの進歩も発展もない。もちろん掃除に限った話ではなく、仕事・人生も全く同じ、積極的に取り組み、問題意識を持って、現状に工夫、改良を加えていこうという気持ちをもって取り組んだ人とそうでない人では、圧倒的な差が生まれてくるのは必然である。

まだ誰も達成したことがないことを成し遂げるためには、専門知識や蓄積された技術だけでは不十分で、仕事に対する思いがなければいけない。日々のたゆまぬ努力と創意工夫こそ、イノベーションへ至る「確かな地図」であり、成功に至る「確実な道」である。

エピローグ

稲盛氏の仕事観・人生観は、一つの方程式に表すことができるという。これは、なぜ人は仕事や人生で成功を重ねていく人もいれば、失敗してしまう人もいるのだろうかという疑問を考えに考え抜いた先にみた方程式である。

是非皆さんも、正しい「考え方」を持ち、強い「熱意」で誰にも負けない努力を払い、持てる「能力」を最大限活かし、仕事に真正面からあたるよう努めてほしい。そうすれば、人生は必ず豊かで実りの多い素晴らしいものになっていくだろう。

人生・仕事の結果 = 「考え方」×「熱意」×「能力」

「考え方」
考え方が最も大切な要素で、生きる姿勢や物事の捉え方のことをいう。熱意や能力と違って、点数はマイナス100点〜プラス100点までの大きな振れ幅がある。例えば、自身の苦労を厭わず、「他に善かれかし」と願い、一生懸命に生きていくような考え方は「プラスの考え方」だが、世をすね、人を妬み、まともな生き様を否定するような考え方は、「マイナスの考え方」である。

「熱意」
熱意は「努力」と言い換えることもでき、自分の意志で決めることができる。これは、無気力で自堕落な人間から、人生や仕事に対して燃えるような情熱を抱き、懸命に努力を重ねる人間まで個人差があり、点数に表せば、0点〜100点まである。

「能力」
知能や運用神経、あるいは健康のことで、両親あるいは天から与えられた先天的な資質である。よって、個々人の意志や責任が及ぶものではない。能力を点数に表せば、0点〜100点まである。


☟著者プロフィール
稲盛和夫(いなもり・かずお)
1932年、鹿児島生まれ。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年より名誉会長。また、84年に第二電電(現KDDI)を設立、会長に就任。2001年より最高顧問。10年には日本航空会長に就任。代表取締役会長、名誉会長を経て、15年より名誉顧問。1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰している。
著書に『生き方』『京セラフィロソフィ』(ともに小社)、『働き方』(三笠書房)、『考え方』(大和書房)など、多数。






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