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接客業はクレーマーの愛情を知る

接客業の仕事をしていて、何より恐ろしいのは『クレーム』でしょう。

クレームで名指しされた暁にはゼーレのような大人たちに囲まれ、「原因は?」「君の悪かったところは?」「おいこら俺の査定どうすんだよてめえ」などと問い詰められる。

免罪符はない。謝罪も意味を持たない。

接客業の名指しクレームは本当に恐ろしい。

しかし。

私の思い出の中にはこんな言葉があります。

「クレーマーは、そのお店に行きたいから、わざわざ時間と労力を費やしてクレームを書いてくれている」

クレームが入ったとき。

人によっては自分を全否定されたような気持ちになり、

人によってはあてつけなんじゃないかと疑い、

人によっては運が悪かったと嘆く。

クレームをもらってポジティブな気持ちでいられる人は経験上ほとんどいません。

素直な人ほど落ち込みますし、頑張っている人ほど受け入れられず、ただただ苦しみます。

私も一度だけ本部クレームを経験したことがあり、「マジでもう辞めちゃおうかな」と直感的に思いました。

なんでこんなに頑張ってんのに何も知らないやつにそんなん言われにゃならんのか!

と、本気で思いました。

けれども、その時に悪いのは間違いなく私でしたし、結果的にクレームに隠れた愛情に気付きます。

それを知ってからは、あることをお店にいる人には伝えるようにしていました。

今回はそんなお話です。

***

当時、私には副店長に相当する肩書きがありました。

クレーム対応、噛み砕いて言えば「お客様にごめんなさいをしに行くこと」は、基本的にそれなりの役職者が行いますよね。

店長だとか、エリアマネージャーだとか、SVだとか、そういう肩書きを持った人たちです。

しかし、副店長の私がクレーム対応に行く機会もそれなりにありました。

単純に店長があまり行きたがらなかったことが主な要因です。私が「それなら私に行かせてください!」と言っていたからかもしれませんが。

クレーム対応に行く時には、ごめんなさいの食べ物を持っていきます。

ごめんなさいのしるしです。

ごめんなさいをするのは顔を合わせてから1秒以内のうちに。

それだけは絶対に守らなければなりません。

誰かが「謝罪は何より優先して真っ先に」と言っていた記憶がありますが、それは正しいと思います。

謝罪から入ると、相手が強く出られなくなる可能性が高いからです。

土下座している人の頭を革靴でぐにぐにするような人は多くありませんよね。

謝っている人に厳しい態度を取る人はそれほど多くありません。

クレーム対応を円滑に進めるために、超特急でごめんなさいします。

さらにいうと、クレーム対応に行った先にいらっしゃるお客様のほぼ全員、一度はお会いしたことのある人です。

私はご来店いただいたお客様のお顔は(接客したかどうかに関わらず)全員覚えておくようにしていたので、お会いした瞬間に「あ〜!あの時の!」となります。

お寿司屋さんに限ったことかもしれませんが、お寿司屋さんのお客様は9割リピーターです。

特に休日には2時間待ちみたいな状況になるのはそういう事情があるからです。

リピーターのお客様が大集合して2時間待ちになるのです。

「この度は誠に申し訳ございませんでした!」

クレーム対応をしに来た20代半ばの男が深々と頭を下げます。

私自身の感覚ですと、そんな若造がひょひょいと現れて謝ってきたら「なめてんのか!」と思われるのではと心配してしまいますが、意外と大丈夫でした。

「わざわざすいませんね」と言ってくださる方ばかりです。

当時の私のスタイルでは、お客様のご都合が悪くないような時にはそこから5分程度の世間話をします。

売上が下がったり悪い噂が広まったりすると困りますからね。

「絶対に笑ってくれるまでは帰っちゃいけない」と自分ルールを決めていました。

その世間話で最も多く言われた言葉は「また行くから大丈夫だよ」でした。

絶対来ないじゃん!

と、ツッコんでしまいそうになるところですね。

私の感覚では「クレームを入れるくらい怒っていらっしゃったらもう来ていただけない」と思っていました。

でも、本当に来てくださるんです。

「その説は申し訳ありませんでした」と言いに行くと、「あらあら、わざわざありがとね〜」なんて言われます。

びっくりでございます。

そんなとき、本部のボスが言っていたあの言葉を思い出したことのです。

「クレーマーは、そのお店に行きたいから、わざわざ時間と労力を費やしてクレームを書いてくれている」

行きたいから、嫌いなところ直してよ。

そういう意味でクレームを書いている人がとても多いと、実際に自分がクレーム対応をしてみて強く感じました。

まさに嫌よ嫌よも好きのうちです。

愛情や愛着がなければわざわざクレームを書いてまでメッセージを送る必要はありません。

行かなくなって終わりです。

その愛情や愛着の矛先はお客様によって違いますが、だいたいはお店か会社にそれらが向いています。

お店が好き。会社が好き。

そのどちらかです。

私たちが提供するお寿司はよそのお店では食べられないほど美味しかったので、お客様は行けなくなると困るのです。

それはお寿司屋さんに限ったことではないと思います。

たとえば、私自身も眼鏡屋さんは東京スター眼鏡しか利用しませんし、服はグラニフばかり、食べ物屋さんはよほど好きなお店でなければ行かずに自分で作ります。

好きなお店にしか行きません。

ファンです。 

お客様は、お店か会社のファンです。

つまり。

理にかなったクレームは、おそらくすべてお店や会社が悪い。

愛情や愛着のある人のクレームなのだから、ちゃんと目と耳を傾けて反省し、直さなければならない。

直せば、お店や会社のファンが喜んでくださるようになるのですから。

***

私はお店全体の教育担当でしたので、部下に相当する人、店長以外全員ですね、その方々にはこう話していました。

「もしもクレームをもらったとしたら、みんなでお店を変えましょう。クレームをたまたまその人がもらっただけで、本質的にはお店がいただいた言葉です。だから、一人で悲しい思いをしないでください。みんなでお店をよくしましょう」

クレームが発生すると、(もちろん責任者も全員シバかれますが)当事者に矛先が向きがちです。

それは結構イヤでした。

自信をなくしていたり、不満を抱いていたり、落ち込んでいたり、そういったネガティブな気持ちのままでは絶対にお客様のことを楽しませられないからです。

お客様がお店や会社に期待していることは何か?

私がいた環境では、間違いなく“美味しさ”と“楽しさ”です。

結局のところ、その2つが完璧であれば、クレームにはなりません。

それに、イラッとすることが1回あった程度では基本的にクレームにはなりません。

イラッとする出来事が3つも4つも重なってはじめてクレームになります。 

怒られているのはお店なのです。

クレームと正しく向き合うために、クレームをもらった人以外の人の行動することが大切だとおもいます。

この記事の主題はそれです。

クレームが発生したとき、当事者以外の人こそクレームとしっかり向き合い、お客様がお店や会社に何を求めているのかを知り、その後の営業に活かす。

それが大切だとおもいます。

クレームは間違ったことをしている人を悔い改めさせるためだけのものではなく、

お客様がお店や会社に抱いている愛情や愛着を知り、幻滅されないようにお店づくりをするためのヒント。

そう思えれば、

きっとみんなでお店をよくしていけるとおもいます。

以上であります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

お客様に喜んでいただき、お店や会社が発展していけるよう、頑張っていきましょう。


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