(非100円)回転寿司板前時代に100万人に伝えたかったこと【価値の高い寿司編】

私は元回転寿司の板前です。

我々の使命は「お客様に喜んで頂くために全力を尽くすこと」でした。

その1点に関しては、あらゆる手段を使って全力を尽くしたと自負しています。

なぜなら、私は「お客様に喜んで頂くこと」だけを考えて働いていたからです。

なのに。

今まで、回転寿司板前時代に得た知識や経験を文章にしようと思うことがありませんでした。

単純に思いつきませんでした。

「そうだ! そうじゃん! あの時に必死にお客様にお伝えようとしていたことを、今は文章でみなさんにお伝えしたらいいんだ! なんで今まで気付かなかったんだ! バカ!」

と発狂しそうになるのを「夏アジの旨さ」を思い出してなんとか沈静化した次第であります。


さて、そろそろ本編に入ります。

トップからボトムまで「お客様に喜んで頂こう!」と全力を尽くしてい(た)会社で働いて私が得た知識と経験を元に、対話やパフォーマンスでお客様に必死に伝えていたことを。

※本エントリーの後半に寿司ネタごとの「豆知識」をまとめて紹介します



【価値の高い寿司】

原価率が高いものに価値があるのか、美味いネタや美味い食べ方に価値があるのか。

価値基準はお客様それぞれ違います。

まず原価率。

原価率の高い商品、じつは本マグロとウニくらいしか(基本的には)ありません。

もちろん商品によって原価率は異なりますが、大きな差はありません。そのあたり、会社はお客様に対して誠実な姿勢を崩しません。

それに回転寿司の商品の原価率、他の飲食企業と比較しても明らかに高い。

そもそもほぼすべての商品が高原価商品なので、そういう意味では「すべての商品の価値が高い」と言えます。

それも仕入部の弛まぬ努力と店舗に居る板前の技術により懸命に叩き出した数字です。

それだけ価値ある鮮魚を取り扱い、確かな技術をもって鮮魚を商品に変えています。

次に、「美味しさにおいて価値ある」寿司。

回転寿司で使われている鮮魚は「高級寿司店」に匹敵するものだと聞いています(高級寿司店の内部のことを詳しくは知らないです、すみません)。

とはいえ「高級寿司店」と同じ価値のある商品とまでは言えません。

高級な寿司店は、鮮魚を「美味しく仕上げること」に全力を尽くしている(ようです)。

たとえば、大人子ども問わず大人気の鮪。鮪は、寝かせて(熟成させて)から食べたほうが何倍も美味しいです。

しかし回転寿司ではそれができません。

なぜなら、鮪を熟成させると空気に触れている部分が酸化して黒くなってしまうため、その部分を削ぎ落とさなければならず、そうなると低価格で販売できなくなってしまうからです。

回転寿司にそれは不可能。そうしてしまうと歩留まり(元の重さと商品になる重さの比率)が悪くなり、原価率が倍近くまで跳ね上がってしまいます。

なので高級寿司店は庶民が驚く価格設定で商品を販売しているのです。ぼったくっているわけではない(はず)です。

では、回転寿司で、より価値ある美味しい寿司を大切なことはなんでしょう?

それは、「旬」と「食べ方」、そして「産地」です。

魚には旬があります。言い換えると「脂ののった時期」ということです。同じ種類の魚であっても、旬の時期とそうでない時期では明らかに美味しさが異なります。

たとえば、アジ(名前の由来は「味がいいから」です)。

アジの旬は夏です。夏になると、脂のノリがまっっったく異なります。私は回転寿司店でアジだけ食べて帰ったことが何回もあります。それほどまでに美味いです。まるで別の魚のようだと思うほど、味が変わります。

けれども、アジに関しては注意が必要です。会社によっては(アニサキス等の寄生虫に関する問題や不漁等の理由等により)保存に最適化した夏アジではないアジを夏に使用している可能性があります。

こういったことは、お客様は基本的には知ることができない情報であります。

私ができるアドバイスは、「信頼できる板前と仲良くなってください」です。

信頼できる板前とは、

「夏アジある?」

と尋ねて、本当のことを教えてくれる板前です。

私は、自身をもってオススメできるアジがない場合には、(私が接客した)お客様に「今日はあんまりいいアジが入らなかったので、すみません」と伝えていました。

回転寿司のお客様には、魚のことについて詳しい方が非常に多いことを知っていたからです。

何食わぬ顔をして「旬のものではないアジ」を提供し、ガッカリされるのは絶対に避けたいと思っていました。

良い店(良い商品づくりに一生懸命な店)の、信頼できる板前を見つけてください。

美味しいお寿司を食べるためには、それだけ「旬」であること、そして「鮮魚(生のまま納品され店舗で捌いた魚)」にはこだわったほうが良いと思います。


次に、食べ方に関して。

これもとても重要な要素です。

「寿司を何につけて食べますか?」

と問われれば、多くの人が「むらさき(醤油)」と答えるはずです。

それはもちろんそうなのですが、魚によっては「ポン酢」や「濃い口や鯛の旨味を加えた醤油」で食べたほうが美味しいもの、また炙ったほうが美味しいものもあります。

特に「炙り」は魚の旨味を引き出す力に長けています。脂の多い魚は特に、炙ることによって脂が浮き、さらに旨味が増すものも多いです。

一方でたんぱくな白身の魚等は、「ポン酢」でサッパリと食べたほうが美味しいものも多いです。

魚の旨味の引き出し方を調理法や調味料で変えることにより、より美味しく寿司を食べられます。

たとえば、サメガレイ(鮫鰈:名前の由来は鮫肌だからです)。

鰈(カレイ)と平目(平目)なら、どちらのほうが美味しいイメージがありますか?

一般的には平目だと思います。平目は高級魚ですから鰈よりも値が張りますし、寿司としての知名度も高い。

しかし私はサメガレイのほうが平目より断然美味いと思っています。

鰈にも色々居ますが、サメガレイは他の鰈たちとはひと味もふた味も違います(産地は北海道)。

身の弾力。臭みのないみずみずしさ。えんがわの旨味。どれをとっても素晴らしいです。

そんなサメガレイをなお一層美味しく頂くには、身とえんがわを併せてポン酢で食べるのが特にオススメです。

私は身を握り、小さく切ったえんがわを乗せ、その上からポン酢をかけて提供していました(もちろんお客様にオススメし、「それでお願い」と言われてからです)。

醤油で食べるよりえんがわの旨味をスッと感じられ、大変美味しいです。

こういったことは自分でお金を払って商品を買って色々と試行錯誤して導き出した結論ですが、私の舌を基準に判断しているのですべての人の口に合うとは思っていません。

ですが、色々と試して頂きたいという気持ちは常にありました。

なので、2貫のうち1貫ずつ違う食べ方で食べて頂くということも積極的に行っていました。

こういうことは、お客様から板前にオーダーしても良いと思います。

板前がいる回転寿司では、おそらくですが快く対応してもらえると思います。

実際に私は自分が働いている会社以外の(関東に限りますがほとんどの)回転寿司に食べに行ってそういったことを(敢えて)お願いしてみましたが、快く対応してもらえることが多かったです。

「でもちょっとメニューにないものは頼みにくいな」と思う方もいると思います。

ですが、板前にとっては「メニューにないところで勝負してこそサービス」なのです。

みんながそうだとは言えませんが、多くの板前たちは自分なりのサービス精神を持ち、仕事をしていると(私は)思っています。

ですから、お客様に「こうしてほしい」と言って頂いて、それに対して快く対応できない板前だとは思わないであげてください(もちろん中にはサービス精神のカケラもない板前もいますが)。

板前は「お客様のご希望」を自身の営業力で引き出そうと努力します。

なので、「希望を伝えてくれる」というのは大変有り難いことなのです。

(お客様との会話で「当たり前の反対語だね、ありがとう」と言って頂いたのを思い出しました、有り難いは当たり前の反対語です、蛇足ですが)

だから、「この板前さんは一生懸命に働いていそう」と思えた板前に対しては、なんなりと希望を伝えてみてください。

「この食べ方で食べたい」という希望は、その店にあるもので叶えられるならばきっと叶えてくれると思います。

食べ方ひとつで味わいは劇的に変わります。

色々と試してみてください。


最後に、産地に関して。

同じ種類の魚であっても、産地によって味わいや旬の時期に違いがあります。

日本はだいたいどこの産地にも美味しい魚が多いのですが、特に美味しい魚が多い産地や、養殖が盛んで美味しい産地等はあります。

まず知っておかなければならないことは、「暖かい地域の魚は美味しくない」というのは誤りです。

「寒い地域のほうが美味いんでしょ?」

と、よく尋ねられましたが、それは寒い地域が良いというより「魚は寒い時期のほうが脂が乗りやすい」という意味で、暖かい地域がダメなのかというとそのようなことは決してありません。

たとえば、名産地として名高い佐賀関(関サバが有名ですね)は、九州の大分県です。

また、白身の王様「真鯛(マダイ)」や「シマアジ」等はみかんで有名な愛媛の養殖のものが絶品(シマアジは高知も美味い)です。

このように、桜前線の前半地域にも魚の美味しい産地はたくさんあります。

産地を押さえる上で大切なことは、魚ごとに美味しい地域を知っておくことです。

わからなければ、「どこの産地が美味いの?」と板前に直接質問してみてもいいと思いますよ。

ただそれだけでは不十分な場合もあります。

「魚に罪はない」けれども、やはりどうしても魚自体の質の良し悪しという意味で、当たり外れはあります。

結局のところネタになる魚自体が美味しいかどうかが絶対なので、美味しい魚との出会いにはどうしても運が絡んでしまいます。

補足ですが、じつは板前は味見しなくても質の良し悪しがわかります。

切りつけ(ネタの形に切ること)の時点の感触や、包丁に着く脂、寿司を握る瞬間の左手(ネタを持つ手)の感触で、良し悪しがわかってしまうのです。 

なのでやはり板前に質問してみるのが正解だろうと思います。名産地の旬の魚なら外れは少ないと思いますが……。たまたま外れを引いてしまうことは、なくはないと思ってください。

「今日のは特に良いな」と思うネタがあれば、「それほどでもないイマイチな魚だな」と思うネタもある、ということです。

ただ、イマイチとはいえ不味いわけではないです。不味い魚は売りません。「モノが悪いので廃棄します」となりますから、悪いものを商品として提供しているわけではないです(すべての店がそうだとは言えませんが)。

私が特にお伝えしたいことは、来店した日に「とびきりいい魚が入荷している可能性がある」ということです。

ぜひ板前に尋ねてみてください。

「今日の一押しは何?」

これでいいと思います。

板前によっては「自分が売りたい魚(ノルマ)」を一押しとして挙げる人もいますが、お客様との信頼関係を大切にする板前ならば「その日1番オススメできる魚」を挙げるはずです。

板前個人への質問に板前が答えることは、「板前個人のオススメ」を口にしている状態を意味します。

なので、板前としての誇りがあれば自分の口から「でまかせ」を言うことはありえない、と私は思います。

そういう意味では、板前個人の本質を見極めるために有効な質問にもなりますね。

信頼できる板前と出会うために有効な質問、ということです。

一押しと問われれば、「板前個人の1番のオススメ」を言う。

これが信頼できる板前だと、私は思います。

少々脱線しすぎてしまいましたか。

産地は大事ですが、あまりとらわれすぎず、臨機応変に美味しい魚との出会ってください。


さて、ここからは魚ごとの豆知識を紹介するコーナーにしたいと思います。

本エントリーでは旬・食べ方・産地について取り上げましたが、その他の豆知識も含めて紹介していきますね。

以下、おまけ。



【定番の寿司ネタ】

[鮪(マグロ)]
旬は気にしなくていいです。一年中美味いと思っていて問題ないと思います。
生鮪も冷凍鮪も美味しいです。冷凍鮪には(繊維に傷がついてドリップが出るため)水っぽくなりやすいという特徴がありますが、それでも普通に美味しいです。
ただ高価な鮪ほど生鮪の旨味が凄まじいのは間違いないので、本マグロ(クロマグロ)や南マグロ(インドマグロ)は特に生鮪のほうが美味いと思います。
本マグロと南マグロの大きな違いは酸味にあります。南マグロは酸味が少ないので、赤身の上品な口当たりが最高です。私は南マグロなら赤身、本マグロなら中トロを注文します(個人の好みです)。
よくある回転寿司のマグロはメバチマグロです。真っ赤な色をしていて本マグロや南マグロと書いていなければメバチマグロだと思って間違いないと思います。本マグロや南マグロは高級魚なので明記するはずです。
キハダマグロという鮪もいますが、あまり出会うことはないかと思います。見つけたら食べてみても良いと思いますが、好き嫌いが分かれやすい鮪です。酸味が強めで、身の色の赤みが少ないのが特徴です。
脂の多い部位ほど炙って美味しくなります。私なら赤身と中トロは生のまま、大トロは生と炙りを1貫ずつ注文します。
産地については、たとえば本マグロなら天然で大間、養殖なら奄美が有名ですが回転寿司では高級すぎて取り扱えるような代物ではありません。だいたいスペインやメキシコ産の本マグロだと思います。大間や奄美の本マグロは、その2倍くらいの値段だとイメージしておいてください。末端価格で。それほどの高級品です。絶品中の絶品とは、まさに大間と奄美の本マグロです。
でも私は南マグロ派です。特に赤身。南マグロの赤身が最高に美味いことを広くお伝えしたいくらい、美味いと思っています。
生鮪が入荷していれば、鮪の頭部の食べられる部位(頬肉・頭肉)を寿司ネタとして提供できる可能性があります。共に筋っぽいので炙って食べることをオススメします。特に頭肉は脂がのっているので炙って絶品(炙ると筋っぽさが気になりにくくなるというのも豆知識)です。
食べ方は醤油一択です。

[サーモン]
世界一美味いサーモンは「オーロラサーモン」だと思います。アトランティックサーモンはスーパー等でも売られていますね。ともにノルウェーのサーモンです。アトランティックは南のほうで、オーロラは北のほう(より寒いほう)で取れるサーモンです。オーロラサーモンのほうが脂ののりがよく、生でも炙っても絶品です。
厳密に言うと、サーモンは鮭ではなくマスです。鮭で言えば「時鮭」がオススメ。ぷるぷるとしたサーモンとは異なり、味わいに重みがあります。見た目は断然オーロラサーモンのほうが美味しそうに見えると思いますが、食べてみたら驚くと思いますよ。
サーモンは旬のことを考えなくていいです。産地も、それほど気にしなくて良いと思いますよ。オーロラかアトランティック。それだけでOKだと思います。
食べ方は醤油、またはイタリアン系のドレッシングがよく合います。脂ののったものなら濃い口醤油も良いですね。私なら醤油でいきます。

[鰯(イワシ)]
鰯というと北海道のイメージがあるかもしれません(実際にめちゃくちゃ美味いです)が、入梅鰯と呼ばれる6月(梅雨の時期)の銚子産の鰯が絶品です。骨切りが必要なほど大きな鰯もいて、脂が白く浮き出ています。
光り物にはピンキリの差が激しいものが多いです。鰯もそうで、美味い鰯は驚くほど美味いですよ。(簡単な鰯のさばき方が知りたい方は訊いてください。教えます。10分で発泡スチロール3~4ケース分の鰯をさばくのに最適で、ワタが出ないさばき方です)
食べ方は生なら醤油、炙ったらポン酢でいきます。鰯は炙っても美味いですよ。特に旬の鰯は脂がのっているので炙りの効果が絶大です。

[鯵(アジ)]
旬は夏です。夏アジと覚えておいてください。鯵も鰯同様、脂がのっていると皮目側が白く(銀色に)浮き出ます。良質なアジはネタを触れば一瞬でわかります(脂がねっとりしているため)。興味のある方は夏が来たらアジを丸のまま購入し、捌いてみてください。感動すると思いますよ。
食べ方は生のまま醤油一択です。

[鰹(カツオ)]
旬は春と秋、前者が初鰹、後者が戻り鰹です。春がたんぱくな鰹、秋が脂ののった鰹です。
「安くて美味い」の代名詞的な魚ですが、酸味が強いので好き嫌いは分かれると思います。
食べ方は、おろしポン酢でさっぱりと、というのがオススメです。私は鰹の臭いと酸味が気になるのでそうしますが、醤油でも美味しいと思います。

[烏賊(イカ)]
烏賊に旬はありますが、種類によって色々です。生烏賊でしたら、だいたい夏あたりが旬だと捉えてください(冷凍烏賊がほとんどなのであまり旬は気にしなくていいです)。ヤリイカやマイカ等は生のまま店で仕込むことも多いので「生」と書かれた烏賊であれば注目です。
烏賊は、種類によって味が大きく異なります。コリコリでツルツルのヤリイカ、イカの王様マイカ(スルメイカ)、あとはモンゴウイカ等が有名ですね。私はアカイカ(ソデイカ)という化物サイズのデカい烏賊が好きです。アカイカは甘みが強くとねっとりとした食感が特徴です。ただ、生マイカには敵わないと思っています。冷凍していないマイカ、絶品です。
食べ方は、醤油一択です。

[蛸(タコ)]
生蛸もボイルした蛸も美味しいです。取り立ててオススメ情報はありませんが、生蛸なら活きている蛸を食べてください。蛸は脚だけになっても数日活きています。パチンと手のひらで叩くとうにゅうにゅ動くので、それで確認できますよ。
食べ方は生なら醤油または紅葉おろし、ボイルなら醤油一択でしょう。「生蛸は硬くて食えん!」という方は軽く炙れば気持ち柔らかくなります。
生蛸豆知識としては、生蛸はストッキングを脱がせるように表面側の脂肪を取り除き、中の筋肉だけを食べるのが一般的です。

[縁側(エンガワ)]
回転寿司の一般的な縁側は、カラスガレイという特大カレイのものを加工されたものです。本来、縁側には透明感があります。察してください。
回転寿司で生の縁側に出会えることはそうそうないかもしれませんが、親切な板前のいる店では食べさせてもらえる可能性があります。お店によってはカレイの身とエンガワを離さずに切りつけをしている場合もあるので、カレイの握りのネタの端に縁側があることもあります。明らかに鮮魚としてカレイや平目が納品されている場合(ボードにオススメ商品として書かれている等)には、「生の縁側ありますか?」と訊いてみてください。あれば、1貫ずつ握ってもらえると思います。
食べ方は、生でも生じゃなくてもポン酢か醤油がオススメです。

[雲丹(ウニ)]
言わずと知れた高級品ですね。見栄えのする量のウニをのせている店は大変良心的です。
最近では「塩水ウニ」という鮮度の劣化を抑える工夫をされたウニが有名になりつつありますね。通常のウニとの美味さの差は歴然。見つけたら食べてみてください。
あとは生きたまま店に納品されたウニも、通常のウニとは比べ物になりません。「殻付きウニ」等と書かれていたら注目ですよ。
食べ方は醤油一択ですが、ちょっと通っぽい食べ方もあります。まずガリに醤油をつけ、ガリでウニに醤油を塗る。そしてガリをそのまま食べて口の中をさっぱりとリセットし、その状態で軍艦のウニを食べるという食べ方です。ウニは甘みや風味を味わう重厚な食品です。口の中でケンカさせない、通の食べ方なので覚えておいてください。

[いくら]
いくらにも高級品というイメージがあるかもしれませんが、簡単に言うと「ウニの倍の量で半額」くらいのものです(ちょっと言いすぎですが、おおまかに言うと)。なのでいくらの量をケチるような店は、私の感覚では全くお話になりません。それに、いくらは子どもの好きな商品でもあります。子どもに対して誠実でないサービス業は、論外だとも思っています。ですから私は店の良し悪しを判断する基準として「いくらの量」を見ていました。目方(見ただけで)でも何グラムのっているかだいたいわかりましたよ(今は無理ですが。さらに言うと、板前は「何グラムに切る」や「何グラムのシャリを取る」といったグラム単位の仕事をすることに長けているものです。それができなくても、話になりません)。
食べ方は醤油一択。ほとんどのいくらが醤油漬けですから、他のものでケンカさせないほうがいいと思います。醤油をつけるときも、少量でいいです。
でもたまに醤油漬けでない生のいくらを取り扱う店もあります。いくら本来の味を知れますよ。

[穴子]
多くの寿司ネタの穴子は加熱されたものです。なので煮たり炙ったりして加熱すると更に美味しくなります。個人的にオススメは煮穴子。たまに奇跡的に「生のまま店に納品された穴子を店で調理したもの」があることもあります。コリコリっとしたゼラチン質のような食感がある穴子がまさにそれです。滅多に出会えませんが……。
食べ方は煮つめ(タレ)か塩。

[つぶ貝]
コリコリとした食感、臭みが少ない味わいで「貝類が苦手な人も食べられるかもしれない貝」です。コリコリ食感が欲しい人は生のまま醤油で食べるのがオススメですが、じつはつぶ貝は炙っても美味いです。コリコリ食感は減りますが甘みが増して貝の風味が広がり、食感的な真新しさもあります。炙る場合は味わいを引き立たせるために塩とレモン汁でサッパリと食べるのをオススメします。
ほとんどのつぶ貝は冷凍されたつぶ貝のためコリコリ感が落ちているのですが、たまに活(活きている)のつぶ貝を提供していることもあります。活つぶ貝はコリコリ感を楽しみたいところなので生のまま食べるのがいいと思います。

[赤貝(アカガイ)]
赤貝もつぶ貝同様、冷凍のものがほとんどですがたまに活赤貝もあります。赤貝のヒモが軍艦や握りで提供されていたら活赤貝の可能性大(冷凍のヒモが納品されている可能性もある)。(ほとんどの貝がそうですが)生食なら活きている貝こそ絶品です。活か冷凍かでまったく別物になります。
食べ方は醤油一択です。

[帆立(ホタテ)]
ほとんどが冷凍モノですが、たまに活帆立を見かけます。冷凍するとどうしても食感がでろっとしてしまうので、コリコリ感がお好みの人は活帆立がオススメですよ。冷凍のものも美味いですが。
食べ方は醤油または塩レモン、ポン酢もイケます。

[鮑(アワビ)]
私は「鮑は煮て食うもの」だとおもっているので生では食べません。特に冷凍鮑はコリコリ感が弱いので煮てつまみにします。
鮑は口が毒なので(ごくたまに取っていないものを見たことがありますが……)注意してください。ピンク色をしているのですぐわかります。
食べ方は醤油でいいと思いますが、私なら塩で食べます。鮑は磯の香りを楽しんでこそだと思うので。活鮑を発見したら、ぜひ塩で食べてみてください。鮑の旨味をすべて感じられると思います。

[シャコ]
私なら煮つめ(タレ)で食べます。穴子等で使われるあのタレです。でもシャコだけは……見た目がアレで……さばくのは苦手です……。
食べ方はタレ、あとはレモンやポン酢も合います。

[鰤(ぶり)・ハマチ]
産地や養殖・天然等で呼び方が違ってややこしいですが同じ魚です。ちなみにイナダとワラサも同じ魚で、子どもサイズのものをそう呼びます。
多くのシチュエーションで見かける肌色の身をしたブリは養殖で、天然のブリは紫がかっていて少々くすんだ色をしています。天然モノに比べ養殖モノのブリのほうが美味しそうに見えやすいですが、天然モノも美味しいです。特に富山の氷見ブリ。絶品であります。
養殖では「魚の身は食べたものの味になること」を応用した「みかんぶり(みかんを食べさせたブリ)」といったフルーティーな味わいを楽しめるブリが商品化され、話題を呼んだこともあります。
食べ方としては脂っこい身の長所を活かせる濃い口醤油がオススメです。炙っても美味しいですが私は生派です。

[小肌(コハダ)]
私は小肌が地球上で一番美味い寿司ネタだと思っています。
小さいものを新子(シンコ)、大きいものをコノシロと呼ぶこともあります。ちなみに新子は高級品です。余談ですがコノシロは「この城を焼き尽くす」として縁起が悪いとされていました。
小肌の色々な食べ方でイケます。醤油、濃い口醤油、塩、レモン、梅。
握り方も様々でフォトジェニックなオシャレ握りもできます。
よだれが……ああ……。

[甘海老(アマエビ)]
甘みが際立っているから甘海老。特に生の甘海老は本来の甘みを堪能でき、絶品です。
生か冷凍かの見分け方は、頭がついているかどうか。頭がついていなければ基本的に冷凍(鮮度が落ちて頭を外した生甘海老の可能性もあるが)だと思っていいです。
生甘海老はミソ(頭部の内蔵)に軽く醤油をつけてチュッと吸うのが美味しいですが、アニサキスのリスクがあります。板前が目視で確認していることはほぼ間違いないと思いますが、それでも見落としている可能性もあります(そもそも頭部の中なので見づらいのです)。お客様自身でも食べる前に目視で確認してください。
食べ方は醤油がいいと思います。甘海老を醤油につけると脂が軽く浮くと思いますが、その旨味が醤油に合うからです。でも塩やレモンでサッパリと食べるのも美味しいので、色々と試してみるのも楽しいと思います。

[真鯛(マダイ)]
定番の最後は白身の王様真鯛。美味いですよね、真鯛。
皮付きだったり昆布〆だったり炙りだったり色んな食べ方があります。個人的には炙ったほうが美味いと思っているので塩レモンが好きですが、生の場合には濃い口醤油が合うと思います。
真鯛の良さはなんといっても上品な脂。なので、天然より養殖の真鯛のほうが私は好き。天然は天然でたんぱくな旨味がありますが、養殖真鯛の脂ののりを知ってしまうと……。養殖名産地は愛媛。愛媛の真鯛は最高だと思います。



【その他の絶品寿司ネタ】

[金目鯛(キンメダイ)]
「キンメは高い……」というイメージのある人も多いと思いますが、実際に金目鯛はキロ2000円前後の高級魚。真鯛の1.5倍ほどしますから、金目鯛にはお買い得商品が多いです。
オススメの産地は高知と銚子。特に高知の金目鯛は脂の質が非常に高く、絶品です。

[赤むつ(アカムツ)]
喉が黒いから「のどぐろ」とも呼ばれる赤むつ。脂の旨味が魚の中でも最高レベル。生でも、炙っても、焼いても、美味さが群を抜いています。
食べ方としては濃い口醤油がオススメ。脂と醤油が溶け合うハーモニーを楽しめるからです。でも……。

[キンキ]
私はのどぐろよりキンキ派です。のどぐろとキンキはとてもよく似ている魚で、味もかなり近い。ただキンキのほうがのどぐろよりも脂ののりがよく身がプリッとしているので凝縮した旨味を楽しめるため、私はのどぐろよりもキンキのほうが美味いと思っています。
食べ方としてはのどぐろ同様濃い口醤油がオススメです。脂を引き立たせるために軽く炙るのが理想的だと思います。高級魚なので値段は張りますが、それでも回転寿司ならお買い得。最もオススメしたい魚です。

[勘八(カンパチ)]
見た目はブリやヒラマサに似ている勘八はとても有名なお魚。馴染みのある寿司ネタだと思います。
ブリよりもコリコリとした食感が強く、上品な味わいの脂が持ち味です。
勘八は非常に完成度の高い寿司ネタなので、食材自体の味わいを尊重する食べ方が理想的だと私は思っています。なのでオススメの食べ方は塩(岩塩)か昆布塩。カボスもよく合います。

[縞鯵(シマアジ)]
魚体がとっっっても可愛いお魚で、味も絶品(勘八に近い味わい)。エメラルドグリーンに光る皮目と黄色味がかった身の美しさたるや。キロ2000円程度の高級魚なので値は張りますが、勘八と同等かそれ以上に美味しいお魚です(私は縞鯵派です)。
食べ方としては生のまま素材の美味しさをそのまま味わうのがオススメなので、醤油か塩で。ちなみに私は何もつけずに食べることもあります。

[石鯛(石鯛)]
色鮮やかで平べったい、可愛いお魚です。石鯛の素晴らしい点は、コリッとした噛みごたえとねっとりとした上質な脂のバランスの良さ。絶品であります。
オススメの食べ方は、濃い口醤油か鯛醤油。脂の旨味と醤油の風味が口の中で広がります。



おまけ、以上です。

おまけが本編より長くなるという無茶な投稿になってしまいました(笑)。

寿司ネタは質も食べ方も色々です。

ぜひお口に合う食べ方を探してみてください。

私がこの原稿を書いている1番の理由は、

「寿司屋のデジタル化」が進みすぎて板前の存在価値が「作業」に偏りすぎてしまったことに対する寂しさを感じているから、

なのかもしれません。

板前は晒しの商売です。

サラシを使い、人間を晒す。

そして人の痛みや疲れに寄り添う努力をし、食事の時間を通してお客様に「癒やし」を提供する。

板前とは、そういう仕事です。

そういう仕事なんです。



価値の高い寿司編 完

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