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包装紙

そこそこの成績で入学した高校だったけど、1年の3学期からずっとテストは400人中380番台。校風に馴染めないしらけた日々。やる気が起きなければ成績も下がるのは当然だった。ようやく卒業できる。
来月から念願の一人暮らし。

駅で橋元K子を見かけた。
信じられないぐらい、感じの良い美人に変わっていた。
駅近くのケーキ屋の娘で、幼稚園から中学までクラスも一緒だった。

私立高へ行った僕は、地元とは疎遠だったけど、少し前に彼女の噂を耳にしていた。新設の県立高で引き摺るような長いスカートに金髪で不良やっていると聞いた。
気の強い性分の彼女とは、幼稚園でも小学校でもよく口喧嘩をした。

いつも彼女はクラスの女子代表、といっても学級委員とかではなくて、「(男子の)〇〇君がひどい」と女子たちから告げ口をされる立場で、それを聞いた橋元が、当の男子に詰め寄る、そんな存在だった。
僕はそういう光景を見過ごすわけいかず、僕対橋元といった構図に変わって教室で対峙したことも何度かあった。

駅で、3年ぶりの彼女がもしボーイッシュな以前の雰囲気だったら、「ひさしぶり!」と気軽に声をかけることができたかもしれない。
大人の女性な感じに身じろいだ僕が、少し距離をとって行き違うようしてしまった。

遡って中学入学式の日。
勝手に振り分けられたクラスの指定の席に着いたら彼女と隣同士だった。
誕生日が近くて早生まれ。早生まれ同士で出席番号はいつも近かったのだ。
「なんだよ!また橋元と隣かよ!ふざけんなよ!」と僕。
「あたしのほうこそ。もうやだ!!」と彼女。
その何日後かの最初の昼の時間。
僕は、母親が入れてくれた弁当をカバンから取り出して机に置こうして…。
(やばい!!)
なんと母親は、橋元のケーキ屋の包装紙で弁当箱を包んでいた。
さっと、机の引き出しにそれを隠し、包装紙を外してから机の上に置き直した。
ちらりと右を見ると、橋元が僕の一連の様子を横目で見ていたことがわかった。
互いにこれに関しては口にせず食事を終え、何事もなかったように昼休みになった。

育った町を離れるさみしさはまったくないけど、些細な場面が愛おしく思い起こされる。

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