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ガイドブックをお供に歩く

後輩がイタリアに短期留学する。 世界情勢は相変わらず不安定だが、いつかいつかと最善の時期を待っていてもそれは訪れないもので、機会があればそのときに行くべきだと思う。それに学生である時間にも期限がある。 後輩の留学先は、私が2019年にお世話になった場所と同じである。私のときの様子は、日本バーチャルリアリティ学会誌のワクワク留学体験記に書いたので、興味があれば読んでほしい。 留学に際してお世話になったものはいくつかあるが、その一つが「地球の歩き方」ガイドブックである。今は

    • 観光地とヒーローと文化と

      日本とシンガポールの外交関係樹立55周年記念事業の一環として、ウルトラマンがシンガポールの平和を守っているようである。 私にとってウルトラマンとシンガポールは両方縁がある。ウルトラマンは、子供の頃から特撮を観ていたことに加えて、一時期、怪獣酒場という居酒屋でアルバイトしていた。シンガポールは、修士を卒業したあとの約半年間、シンガポール工科デザイン大学(Singapore University of Technology and Design: SUTD)にあったAugmen

      • そらとうちゅうとつぶつぶ

        宇宙の神秘は古来から人間を魅了してきた。それゆえ天文学は、自然哲学の中でも昔からある学問のひとつである。一方で、天気の話は私たちに身近な現象であるがゆえに、さほど神秘的には感じられないかもしれない。しかしながら、天気予報が一年後の未来を見通せないように、そこには別種の神秘が潜んでいる。今回は、宇宙と天気に関する話である。 粒子の大きさと数の違い ノーバート・ウィーナーは著書「サイバネティクス」の第1章で、天文学(宇宙)と気象学(天気)を対比している。天文学は時間の可逆性が

        • 上手に掴めるかな?

          2022国際ロボット展に行ってきた。 ロボットがガチャガチャと忙しなく動く姿を眺めているのは楽しい。久しぶりに現地開催のイベントに参加したというのもあるが、東京ビックサイトが視界に入るときの高揚感は何度でも味わいたいものである。 今回のロボット展は東ホールを8棟、西ホールを2棟使って開催され、産業用ロボットやサービスロボットをはじめ、ロボット本体に限らず、その構成部品の供給やソリューションの提供といったさまざまな分野の企業や大学、研究機関が出展している。こういったイベント

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          International Communication

          高専の時に、フィンランドのMetropolia University of Applied Sciences(以下、メトロポリア応用科学大学)に短期留学したときの思い出話をする。 フィンランドへの2ヶ月間の留学は、私にとって初めて海外に長期滞在する機会であった。そのときの体験は、私の乏しい感性を豊かにし、視野を広げてくれた。今回は、その中でInternational Communicationという授業のことについて触れる。 メトロポリア応用科学大学では、夏休み期間に2週

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          はじめてのさどく

          先日、初めて論文の査読をした。何事も初めてのことは緊張するし、印象的である。せっかくなので、備忘録として残しておく。 査読とは 査読はpeer reviewとも呼ばれ、研究者にとっては論文を投稿して出版するのと同じくらい重要な活動である。なぜなら、査読付き論文を出版するということは、誰かがその論文を査読しているということであり、その両方の活動によって学術的なコミュニティが維持されるためである。ちなみに、この構造がもつ課題については最後に少し触れる。 査読者をどのように決め

          はじめてのさどく

          みらいのあたりまえの物語

          結論「地球外少年少女」を観た。おもしろかったので是非観てほしい。以上。 作品鑑賞の前に書いた、磯監督のインタビューに対する所感は次の通り。作品を観ると、インタビューで語っている監督の思想が作品に強く反映されていることが感じられる。 作品そのものの評価は個々人に委ねるとして、今回は作品の周辺の感想を書き連ねる。以下、ネタバレも含む。 ぼくたち(わたしたち)が世界を救う物語 子供たちがトラブルに巻き込まれ、いつの間にか世界の危機に直面する展開が好きだ。物語の中心に子供たちが

          みらいのあたりまえの物語

          読んだり、書いたり、考えたりの生活

          堀正岳著「知的生活の設計」をきっかけに、梅棹忠夫著「知的生産の技術」と渡部昇一著「知的生活の方法」を読んだ。P.G.ハマトン著「知的生活」は内容の密度に圧倒されて残念ながら今回は断念した。 「知的生産の技術」も「知的生活の方法」も著者の知的活動に関する心構えや実践についての随筆であり、いわゆる論文の書き方や文章の書き方のノウハウ本とは異なる。ここでの知的活動とは、具体的には文章を読んだり、書いたりすることを指している。 出版年は「知的生産の技術」が1969年、「知的生活の

          読んだり、書いたり、考えたりの生活

          ろぼっとって、なんだ?

          ASIMOが20年間活躍した日本科学未来館の科学コミュニケーターを3月末で卒業する。 ASIMOが誕生したのは2000年である。それが世の中に、そしてロボット業界に与えたインパクトは計り知れないだろう。社会的、学術的な影響についての説明は詳しい人に委ねるとして、私とASIMOとの思い出を綴る。その後に未来館の話もする。 前座のASIMO私のASIMOの印象は、未来館よりもむしろ高専ロボコンとの関連が強い。 一時期、高専ロボコンの全国大会では、前座としてASIMOがルール

          ろぼっとって、なんだ?

          叛逆のブラックボックス

          マシュー・サイド著「失敗の科学」「多様性の科学」を読んだ。 2冊ともアマゾンでも評価が高く、ベストセラーである。センセーショナルで魅力的な事例から、「失敗から学ぶためにどうすればよいか?」「複雑な問題に挑むための多様なアイデアをどうすれば得られるか?」について著者の考えを述べている。詳しい内容に興味があればぜひ読んでほしい。今回は、印象に残った話を少し掘り下げてみる。 みえないヒエラルキーを乗り越えること人生において他者と協力して何かを行うことは多くある。責任の大きい仕事

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          ロボットアームは人工太陽の夢を見るか?

          結論スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームが面白かった。そして泣けた。 以下、ネタバレを含む。どうして泣けるのかを私なりに言語化してみる。 ちなみに、私はサム・ライミ版は3作とも観たが、アメイジング版は観ておらず、トム・ホランド版は本作(以下、NWH)のみ鑑賞。アニメ版の映画も観ている。 赦しの物語NWHで最初に泣いたのは、ドクター・オクトパスが正気に戻る場面である。彼の頭の中で鳴っていた声が止み、穏やかな表情になるところでグッときた。あのシーンが本作におけるターニングポ

          ロボットアームは人工太陽の夢を見るか?

          何高専に通いたい?

          結論今の小中学生にとって高専といえば呪術高専なのではないか? 「劇場版 呪術廻戦 0」を観てきた。アニメも観た。マンガは読んでない。続きが楽しみである。 今回の結論は、せっかくなので現実の高専も楽しいから興味もってほしいということ。 以下、蛇足。 呪術高専と現実の高専の共通点・個性豊かな教員陣がいる ・実習多くて、実践的なカリキュラム ・電気や機械といった特殊なものを操れるようになる ・(事故や怪我を回避するための安全な)命の守り方を教わる ちなみに私の母校は、東京

          何高専に通いたい?

          すこしふしぎの物語

          結論この文章の要旨は、磯光雄監督の新作が楽しみである。ということだけである。それ以外は蛇足である。 「地球外少年少女」という作品が1月28日から公開される。それに関連して磯監督のインタビューが公開された。 全編にわたって、非常に興味深い内容だが、私は次の2点が特に印象に残った。 1. SFの黎明期(19世紀後半)は、科学技術の新しいものが目の前にあるのに物語が存在しなかった、まだ誰も「起承転結」の「起」しか見たことがなかった。科学技術の物語の「起承転結」が出揃ったのは2

          すこしふしぎの物語

          選択肢を選ぶこと

           果たして、私はこれまで人生の中で重大な決断を行ってきたか?  そう自問したときに、おそらくNoと答える。  とはいえ、人生を左右するような重要な出来事はそう少なくはない。  高専に進学することを選んだとき、大学院を決めたとき、博士課程に進む道を選択したとき。これらは、その後の私の人生の方向性にかなり影響を与えている。しかし、それらが重大な決断だったかと振り返れば、否。これらの行動は、決断と言うにはあまりに当然の帰結だったのだと思う。  例えば、小川に浮かぶ葉っぱは、川上

          選択肢を選ぶこと

          司会進行備忘録

          研究室内のミーティングやカジュアルな講演会の司会進行を担当することがたまにある。それほど大きな行事ではなく、日常業務の一環といった程度のイベントである。しかし、日常業務であるからこそ、日々の積み重ねが徐々に大きな変化に繋がると思う。そこで、ちょっとしたクオリティアップを目的に、普段気をつけている事柄から3つ取り上げてまとめてみる。 1. 原則は時間を厳守ミーティングにしても講演会にしても、基本的には複数人が参加するものである。そのときに注意しておきたいのは、終了時間が伸びて

          司会進行備忘録

          カジュアルにホメルスタンス

          褒められて嬉しくない人は少ないと思う。 尊敬する人や先生だけでなく、友達や後輩に褒められて嫌な気持ちになることはほとんどない。少なくとも私は嬉しい。 誰に褒められるかだけでなく、どのように褒められるのかも重要かもしれない。何か賞を受賞する時にように、大勢の前で大々的に褒められることもあるだろう。これはそう頻繁にあるわけではないので、少し照れ臭さも感じてしまう。本人の目の前ではなくどこか第三者の間で褒められるということもあるかもしれない。この場合は、後々何かのきっかけで知るこ

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