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#108 個人発信NGだった元アナがいま実名SNSで全て晒すワケ

2001年にフジテレビのアナウンサーになりましたが、当時はまだTwitterはもちろん、インスタグラムも存在していませんでした。当時、ネットで自分の考えなどを表現する手段としては、ブログがせいぜい。なので、会社公認のブログで「現場魂」というタイトルをつけてコーナーを持っていました。

日々現場に行っていたので、その現場の写真と一言を添えてアップしていたのですが、取材は事件事故が主になるので、まさか映える写真が撮れるわけではありませんでした。さらに、そしてコメントの内容もだいぶ制限がありました。いわば実験的にやっていた感じです。

なので報道の現場の様子をブログにアップする、というのは結構大変でした。「フジテレビの報道」という立場で現場に行き、どこまでネットに出していいのか。現場で取材を受けてくれる人たちは、当時はネットにまで出ることを想定していなかったんですね。なので、どんどん制約ができていき、とても自由に物事を発信できるようなものではありませんでした。加えて、アナウンサーという立場で物事を言ってしまうと、それはフジテレビの意見や考えとしてとらえらえるので、なおさらです。

私は9年間アナウンサーをして、その後延べ8年間記者をしていました。NY特派員の4年間のほか、社会部や政治部にいました。だから、ざっと17年間にわたりフジテレビの画面に出続けていました。当然、アナウンサーのときのほうが露出度は高いです。月曜から金曜、毎日平日の夕方に出ていました。そして記者になってからは1週間に1回程度、少し出てる程度でしたが、ずっと「話す仕事」を続けていました。

そうした立場にいると、ツイッター、そしてInstagramなどを使い何かをしようという発想はまったくもって生まれないのです。

アナウンサーは、そういったものは絶対駄目、と言われて生きてきた。そうなると、そもそもSNSを使う意味がどこにあるのだろうか、とすら思ってしまうわけです。
でもこれだけ広がってくると、やはりどうしても気になる。やってみたい。
2018年頃に報道のネットの部署に短い期間いたことがあり、そこで記事にどのような写真を貼り付ければいいか、とか、どのようなタイトルをつければいいのか、というスキルを学びました。

これならできそうだということで、数年前に匿名でブログを立ち上げました。今も続いています。「ジャーナリストパパのブログ」というタイトルれです。やるならば、他のSNSと連動させるべき、と何かで読んだのでInstagramも、匿名で同時に始めました。今も続いているものです。

https://journalistpapa.com/

なので僕もこのInstagramの過去のアップを振り返り、最初の頃の方を見てみると、慣れない感じで「映える写真」を頑張って撮っていた様子が見て取れます。当時は匿名なので自分は一切出てきません。見よう見まねで、世界中に氾濫する映え写真を撮影してアップしていたの一方で、ブログは基本的に「子育て」「家族旅行」をテーマに書いていました。特に小さな子供に対して、いろいろな旅先でどのような体験をさせてあげることができるか、そういったものを主として書いていました。

その後、気づいたんですね。周りで結構、SNSを実名で使っている人がいるではないか、と。

つまり、自分の会社の社員で、ツイッターでつぶやいている人が結構いて、さらに決め手となったのは、系列局のアナウンサーが会社公認でYouTubeをやっているという話を聞いたことでした。自分はまさか会社を貶めるようなことを言うつもりなんてサラサラないし、ましてやヘイト発言であったり、誰かに文句を言うとか、そういったことを発信しようなどとは、全く思っていないのだから、別に匿名である必要はないのではないかと思い、切り替えたのが2022年1月でした。Twitterを実名化し、ブログも実名化しました。その後、2月に顔出しの配信をショールームで始めました。

SNSに抱いていた懸念が消えた

なので、2022年に初めて自分は森下知哉個人としてSNSを始めました。当初、ずっと懸念していたのはSNS上のトラブルや事件です。さまざまなトラブルを報道で見聞きしていたので、どんなものに巻き込まれるのだろうか、とか、住所などを特定する動きがでてくるのではないか、とか。フジテレビ元アナウンサー、と会社の名前を出してしまう以上、会社に関連した嫌がらせとか来るかもしれない、とも思いました。

でも「とりあえずやってみよう。嫌だったらやめればいい」と思い、2月に顔出しライブ配信を始めました。
その後、友人知人のすすめでVoicyに応募をしてみたら、無事、審査に通過して、3月に配信を始めました。

https://voicy.jp/channel/2797

フジテレビでアナウンサーをしていたときはお手紙などをいただくことがありました。それらはすべてX線検査を経て、変なものが入っていないか調べた上で、私の手元に届きます。万が一トラブルに巻き込まれたとしても、フジテレビがきちんと自分を守ってくれます。
中にはね、ちょっと理解しがたい手紙を送ってくる人、特に女性アナウンサーに対してあるわけです。でも、そのようなときはフジテレビが前面に立って守ってくれる。
ただ、個人でやる場合は、何かトラブルに巻き込まれたら、自分で対処するしかない。その点を最も懸念していたのですが、いざ始めてみたら、リスナーさんもフォロワーさんも本当にいい人たちばかり。

ブログのサーバー移転作業で困ったとき、Twitterで質問を投げかけたら匿名のプログラマーが助けてくれました。いまだに本名はわかりません。プロフィールなどからすると多分、中国の方だったと思います。

TwitterとInstagramではDMを開放していますが、変なメッセージなどはきません。むしろ、昔テレビで見ていました!など好意的なコメントをたくさんいただきました。よかったなと思えるのは、普通に生きていたら絶対出会わないひとたちとのつながりができたこと。

いまではコロナ禍ということもあり、新しい人との関係を築くことが難しくなりましたよね。そうした中で、北海道から沖縄まで津々浦々、ブログにいたっては海外からもアクセスがあるのですが、そういった人たちと出会うことができたというのは私の中では新たな経験となりました。

SNSからリアルへ

だからこそ今考えてることは、そういった人たちとリアルに繋がっていくこと。直接会わなくてもいいのだけれど、双方向でもっと自由にコミュニケーションが取れるような場を作ることができないかなと思い、2023年春にオンラインサロンのオープンを目指しています。

だから、ますます前向きにSNSに対して接することができています。そしていろいろな構想が広がっていますので、これからもどうか温かく見守ってください。

特別番外編 アナ時代こんなことがありました

さて、今回は番外編も。「アナウンサー時代にこんなことがあったよ」という話。

表に出ていく仕事をしているどのようなことが起きるのか。
SNSは基本的には匿名の人たちが多いですよね。たくさんフォロワーさんがいても本名はわからず、どこに住んでいる人かもわからないことが多いと思います

フジテレビのアナウンサーをしていた当時は、とても高視聴率でした。
月曜から金曜の夕方の報道番組にキャスターとして出演していましたが、10%の視聴率を下回ることはほぼありませんでした。ということは、最低でもこの国の国民の10人に1人は見てくれていた、という計算になります。
視聴率が高いときは15%ぐらいまでいっていましたので、本当にたくさんの方が見てくれていました。

すると何が起きるか。

例えば街を歩いてると、ついついやりがちな人が多いのでは、と思うのですが、このときは前におばちゃんが2人歩いていました。何かね、所作がおかしいんです。おばちゃん同士で多分こんな話をコソコソしているのです。

「今、うしろに、フジテレビで夕方のニュースに出ている人が歩いてるわよ」

みたいな会話です。とても小声で聞こえないのですが、顔を近づけて何か話してる様子がうかがえるわけです。そして、5秒くらい経ってから、そおっと片方のおばちゃんが後ろを向く。そして、ぱっと前を見てとなりの人と喋りだすのです。

「今すぐ振り返ったら駄目よ」

そんな話をしているのです。あのようなとき、当事者の私はどう思っているのか。

「言ってよ!」

と心の中で思っていました。だって私からは声をかけられないではないですか。

「今、僕のことに気づきましたよね」

なんて、どれだけうぬぼれているのか、て話だし、万が一間違えてたら、こんなに小っ恥ずかしいことはありません。「いつも見てます!」その一言でいいんです。それだけでとても嬉しいです。私も気まずい思いをしなくて済みます。

もう一つ忘れられないのは、見たことがある人って、知っている人という気分になるようなのです。

幕張メッセという大きな展示場でモーターショーの取材をしていたときです。ジュースでも買おうかなと思い、外の自動販売機に行ったら、50歳前後のおじちゃんが、ガチャポンと、ちょうどジュースを補充していました。
作業中だったので、他のところにいこうとしたら、そのおじちゃんが、ぱっと振り返って私の顔を見て、こういったのです。

「おお!久しぶり!」

この人に会ったことあったかなぁと真剣に悩んだものの、いや、絶対に僕はこのコカ・コーラのおじちゃんは知らない、と思い「いや、あの、多分ですね、僕、フジテレビでこれこれこういう仕事をしていまして、それでひょっとしたら見たことがあるのかなと思っていらっしゃるんじゃないか、と思うのですが…」と伝えたら「ああ、テレビで見てたわ!」なんて笑顔で返してくれました。このようにさりげなく朗らかに、言ってくもれえると話がしやすいですよね。

だから、顔や名前を表に出して仕事をしていたものとしては、元に戻りますが、SNSとの付き合いは初めの頃、匿名でブログやInstagramをしていましたが、むしろ匿名の方が違和感があり、むしろ今のように、実名や顔をきちんと出して「責任を持って話す」という方が、自分には合っているな、なんてことを思っています。

(voicy 2022年11月20日配信)

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