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「預金バブル」の終わり

投資メディア「マネクリ」に、もう今の日本では、預金をするよりも投資をした方が日本経済を元気にできますよ、という記事を寄稿させていただきました。

この流れで、こちらでも「預金」というものについて今一度考えてみます。

簡単には気づけない、バブルのありか

日本人は「xxはバブルだ」、「xxバブルはそのうち崩壊する」というフレーズが大好きです。

いかに、1990年以降の不動産バブル崩壊が、それを目撃した人にとって衝撃的な出来事だったかを物語っています。

ただし、実際にはたいしたことないものがバブルといわれてしまうことが多く、本物のバブルは見過ごされてしまうものです。

けっして今後崩壊してボロボロになってしまう、というわけではないですが、こちらでは日本の「預金バブル」というものについてご紹介します。

みんなノーマークだった「預金バブル」

みなさんの身近に、「銀行預金金利は0.003%などになってしまい、けしからん!」と言っている方がいらっしゃいませんか?

これが預金バブルです。

元来、預金というのはお金が減るものです。

もともとなぜ預金という金融商品が発達していったかというと、タンス預金をしていたのではお金が盗まれてしまうからです。

仕事で途上国に行くことが多い方から、現地の方から「日本人がいるとわかると、お金を預かっといてくれ、と言っていた。なぜなら彼らは夜逃げしないので、地中に埋めておくよりも安全だから」という笑えないフレーズを言われたというお話を聞きました。

私も仕事で言った国で、その国でもやはり数十年前までは日本人、日系人が似たような依頼を受けていたと聞きました。

そんな国々に現れたのが、銀行や、信用組合のような地域金融機関です。

途上国のなかでも経済発展の段階が若い低所得国ではその銀行自体が倒産してしまうことも一応よくあるのですが、それでも庭に埋めておいたお金が消えてしまう可能性よりは、銀行が倒産する可能性の方が低いのが普通です。

そして、そんなありがたいサービスを利用して、お金が増えるということは普通はありません。

よく「途上国の銀行に預金したら、金利が高い」などといわれることがありますが、きちんとその国のインフレ率を調べてみると、ほとんどのケースで銀行の預金金利はその国のインフレ率よりもけっこう低いです。

つまり現地の人にとって、銀行に預金をするとお金はグングン減っていきます。(その代わり、一夜明けたら全額消失していた、ということはそれほど起きなくなります。)

日本の預金バブルの歴史は

それでは、なぜ日本では銀行に預金したらお金が増える(または、少なくとも目にみえる速度でグングン減っていきはしない)ものという感覚があたりまえになってしまったのでしょう。

前にリサーチを行った際に、たしか1970年代までは日本でも平均的な銀行預金金利はインフレ率よりも低かった、つまり銀行に預金するとお金の価値は普通の国と同様にきちんと減っていっていた、と記憶しています。

これが1980年代になるとご存知の不動産バブルがぐんぐん進み、銀行は魅力的な融資機会が巨額にあるようにみえてしまったため、その機会を逃さないよう、インフレ率よりも高い預金金利を提示し始めます。

それによって銀行は、(結局虚像だったわけですが)魅力的にみえた融資機会を逃さないよう大量の預金を集めました。

そしてその後、これもご存知の通り、不動産バブルは大崩壊します。

人口動態や新興国の勃興もあり、そのまま日本経済が以前の勢いを取り戻すことはなく、今度はデフレ経済・ゼロ金利の時代に突入します。

しかしここで、日本の中央銀行や銀行は、政策金利や預金金利をマイナスにすることをためらいます。

日本銀行がマイナス金利を導入しなかった理由のひとつに、「預金金利がマイナスになってしまうとタンス預金とその窃盗が増えて社会不安が増す」というものがあったと思いますが、そんなことは世界中で起きていることです。

もしそういうことが起きるのであれば、みんなやはり窃盗されない銀行に、預金金利がマイナスであっても、全額が消え去るリスクが小さくないタンス預金よりも、銀行預金を選ぶと思います。

とにもかくにも、デフレ経済の中預金金利がゼロ近辺だと、銀行に預金をしていて、お金が増えずとも減りもしません。

銀行に預金するとお金が増えた1980年代(と90年代のはじめ頃)を覚えている方は「預金金利がゼロなのはけしからん!」となりますが、今は資本規制や預金保険もあり、途上国の銀行なんかよりもはるかに元本保証の要素が強くなっている日本の銀行預金のサービス料がゼロ、というのは世界からみると異常な状況、バブルです。

預金バブルがだらだら続いた原因は

一方で、預金金利をマイナスにするのがそう簡単なことではないのも事実です。

実際に、2008年のリーマンショック後に米国の政策金利もほぼゼロの期間が続き、その中でいくつかの銀行が実質マイナス金利になる施策を行ったのですが、評判は最悪中の最悪で、すぐに撤回をしています。

これが、もう40年も銀行に預金してもお金は増えるか少なくとも減らないもの、という感覚に慣れてしまった人しかいない日本でやるのは、それなりの難易度の事ではあると思います。

しかし、「難しいからやらない」というのは単純に仕事の放棄です。

上記のような説明を行い、たとえ最初は文句の嵐となろうとも、「1980~2010年代の方が異常だったのであり、今後は正常化する」ということをきちんとステークホルダーに説明してやるべきことを実行するリーダーシップが現在の日本の銀行業界には欠如しています。

実際に、課題先進国といわれる日本から15年ほど遅れてデフレ経済化してきた欧州では、ECBをはじめとして各国中銀はためらうことなく次々にマイナス金利政策を導入しています。

市中の銀行が必要に応じてマイナスの預金金利を導入していくのも、時間の問題かと思います。

預金バブルの終わらせ方は

これは日本の銀行にとっても朗報です。

たとえ自分が率先してマイナス金利批判の矢面に立たなくても、欧州の銀行がそれをどんどんやっていけば、国境を超えて先進国の人々の間に「銀行預金ってマイナスになるんだ」というのが常識になっていくからです。

昔から(別にマイナス金利は赤信号ではないので例えとしてはあれですが)「赤信号、みんなで渡れば・・」という諺がありますが、みんなが「銀行預金はマイナスにもなるのが普通」というマインドになれば、日本の銀行が預金金利をマイナスにしても批判の嵐ということにはならなくなるかと思います。

そうして、欧州の銀行から半歩、一歩遅れて日本の銀行の預金金利のマイナス化が進んで、40年続いた日本の預金バブルもようやく終わるのではないかな、と個人的には思っています。(やれやれですね!)

1つ残念なことがあるとすれば、経済のパラダイムが変わった時のリーダーシップを欧州の銀行に丸投げするだろうことで、やはり世界を牽引する日本の製造業やゲーム産業と異なり、日本の金融業は相変わらず世界で2流以下ということがみえてしまうことでしょうか・・

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