最後のお願い~作品解説

劇団競泳水着 リーディング部、全チームの初日があけたところで、作品解説書いてみようと思います。

セルフライナーノーツというやつですね。

残り四日間しかありませんが、何というか、選挙の最後のお願い一押し!みたいな気持ちで。

自分も含め「リーディング公演ならいいか…本公演の時に行こう…」と考える方も多いかと思いますが、

本公演と変わらぬ気持ちで、尚且つリーディングでしか出来ないことをやっております。

真夏の貴重な60分強(×2)、お時間頂ければ嬉しいです。

既に物語は作家の手を離れているので、以下は僕の独断と偏見に基づく見解です。

まずは、

「ある盗聴」

<あらすじ>

村上慶子は夫の浮気に気づき、夫の食事に毒を盛る。

数か月後、夫が死ぬが、慶子の殺意には誰も気づかずに通夜と葬式が終わる。

しかし、慶子の自宅は盗聴されていた。

顔の見えない盗聴犯だけが事実に気づき、「貴女は悪くない」と書かれた手紙と盗聴データが入ったCD-Rを届けてくる。

慶子は相手の意図がわからず警戒しながらも、毎日届く手紙を読み、耳を傾けているだろう盗聴犯に向かってつぶやき続ける。

やがて慶子の中で正体不明の「彼」の存在が大きくなってくる。

哀しいことがあれば、「彼」に頼りたくなる。

その気持ちは、かつて愛し合った夫に抱いていた気持ちにも似ている。

そこに、夫の弟、樹生(みきお)が現れる。

慶子への好意を隠さない樹生。困惑する慶子。

やがて、「彼」からの手紙が届く。

「彼を家に呼んで下さい」。

慶子は、樹生とのセックスを、「彼」に聴かせることになるのだが……。

※上演台本、前半はこちら↓

https://note.mu/tomoyukiueno/n/n189a20fb6a67

どこを切り取っても面白そうな「愛と孤独についてのサスペンス」です。

映画「her 世界でひとつの彼女」「イルマーレ(韓国オリジナル版)」「リード・マイ・リップス」を全部足して7で割ったような作品なのでどれかお好きな方は是非。

さて、本番を何度も観ながら僕は、すれ違いの物語だな、と感じております。

「すれ違い」の物語って無数にあるし、人はすれ違いが好きですよね。

なぜなのか。

すれ違いって現実には不都合しか無いのに。

すれ違いにメリットがあるとすれば、それは「まだ始まっていない」ことかと。

いきなり人生の話になりますが、人生の哀しみとはなんでしょう。

まずは、死んでしまうこと、自分も皆も全員いなくなってしまうこと。

だとして、その次は、

人生の不可逆性。

そして、完全にはわかり合えない他人という存在。

かつて村上龍氏も

「取り戻せない時間と永遠には共存し合えない他者という、支配も制御もできないものがこの世には少なくとも二つあることを、長い長い自分の人生で繰り返し確認しているだけ(略)」

と書いていました。

(というか俺がこれをパクった。)

人生とは不可逆なものですから、愛や親しみを失った後で、愛や親しみを知らなかった頃には戻れない。

その点、関係が始まらなければ哀しみも始まらない。

この世界には無限のすれ違いと永遠に未発生の関係(や愛や親しみ、そして友情)が溢れている、

と思うと、うっとりもしてしまいますね。

一方で、人生の幸せは「大切な人と時間を共有すること」だとすると、

当然ながら、永遠に始まらない関係は、永遠に共有も不可能なわけで、それはそれで哀しいわけですが。

でも、哀しみって悪くないな、

そしてその根源にある孤独も美しいものだな、

孤独は愛の源泉でもあるんだな、

などと無意識に考えながら書いた気がします。

これからも、暗く哀しく美しく孤独でズルい人間の話を書いていきたいと思います。

続いて、

「復讐と美味しい料理は後を引く」

<あらすじ>

かおるは中学時代、理由不明のイジメによりクラスの女子全員から無視されたことがあった。

イジメを主導していたのはクラスのアイドル、友梨佳だった。

苛まれながらも、かおるは怒りを糧とし、友梨佳の不幸を祈ることによって何とか生き延びた。

卒業後も、心の中で事あるごとに友梨佳に呪いをかけ続けた。

人間不信に陥ったかおるはしかし、大学で桜子という親友に出逢うことにより人生を立て直した。

かおるにとって桜子は最も大切な存在になった。

……しかし。

神様のいたずらにより、社会人になった桜子と友梨佳が出会い、友達になってしまった。

更に結婚式をひかえた桜子は、かおるに乾杯の挨拶を、友梨佳にスピーチを依頼する。

友梨佳と再会することが避けられなくなったかおるは、何か弱みを握ろうと、パスワードを探り当て、友梨佳のクラウドに侵入する。

そこには友梨佳の赤裸々な日記が保存されていた。

かおるは、友梨佳が桜子にも隠している、ある秘密を知るのだが……。

※上演台本、前半はこちら↓

https://note.mu/tomoyukiueno/n/nc77ab57379e6

どこを切り取っても面白そうな「女の友情を巡るブラックコメディ」です。

とりあえず、当日パンフレットにも書きましたがこのタイトルは映画「ディナーラッシュ」最後の方に出てくる台詞でかっこよくて好きなのですが、

映画も本当にかっこよくて面白いので是非観て下さい。

うちは観に来れなくても映画は観て下さい。

完全にタイトル先行ですが、やはり「復讐」ということについて考えました。

「復讐」って世界の理不尽の塊のような事案ですよね。

復讐するということは、暴力で傷つけられた(精神的に、或いは肉体的に)事実があるわけで、

暴力ほど理不尽なものはありません。

(もし暴力は無かったのに逆恨みで復讐するなら、それはそれで相手にとって最大の理不尽。)

劇中にも出てきますが、「自分が幸せに暮らすことが最大の復讐」とか「許すけど忘れない」とか、復讐についての格言はいくつかありますが、

そもそも犠牲者の方に葛藤や思慮や分別など精神的な負担が求められる時点で理不尽過ぎます。

というようなテーマはありますが、楽しんで、半分悪ふざけで書きましたので笑って楽しんで頂ければ幸いです。

女性三人の本音が炸裂するように見える話だからか、なぜか今回は「男の人が書いたなんて!」的なことをよく言われます。

もちろんどんな感想でも嬉しいのですが、

個人的には「女性を描くのがうまい」とかはどうでもいいっちゃどうでもいい気もしてます。

女性を描くのがうまい、

と言われるよりも、

僕自身が個人的にモテる方が300倍嬉しいし。

「女性を描くのがうまい男性作家は女性にチヤホヤされる」法律とかあれば別ですけどね。

あとよく聴かれたこと。

・どういう所で女性を取材しているの?

→普段から女性を見たり女性が書いたもの創ったものに触れている中から、という感じです。

もともと女性作家の作品や恋愛映画などに普通に接してきました。

先日、本屋に行って、何の意識も無く「アラサーちゃん」と「東京たられば娘」を買っていた時は、我ながらどこに行きたいんだ、と思いましたが。

ちなみにこの二作品を読むだけでもだいぶ女性の「本音」(などというものがあるとすれば)を知ることができますよね。

これらに比べれば自分の作品の濃度は薄めな気がします。

作家の仕事が、人々が心の中でうっすらと思いながら認識はしていなかった気持ちを言語化すること、だとすれば、

このお二人の仕事できるっぷりは凄いと思います。

でも逆に言語化することによってそれが新しい枠組みになる場合もあって、

常にその枠組みと格闘するのが面白いところかなと思っていて、

自分の場合は絶対にたどり着けない女性の思考を色んな角度から覗き込むのが楽しい気がします。

全体は見えないからより興奮する感じ。

・女性の本音を知って幻滅することは?

→全くない。

戦争でも、相手を攻略するために最も必要なのは「情報」。

ただ男も女も、自分の本音って結局わからないのではないでしょうか。

これ、ライナーノーツと言えるのか?

モテたい。

あ、両方ともご予約はこちらから↓

http://k-mizugi.com/stage/reading.html

お待ちしておりまーす。

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