新型BMW 5シリーズツーリング(G31)試乗記

序文

BMW5シリーズ、ご存知の通りEセグメント界の人気車だ。
https://www.bmw.co.jp/ja/all-models/5-series/sedan/2016/at-a-glance.html


当方クルマのポジションをセグメントと表現するが、馴染みのない方もおられるだろう。改めてその定義をここに記す。

クルマはそのサイズや排気量、価格でポジション(ヒエラルキー)が決まる。
ただ、最近のクルマはサイズや排気量でポジションがわかりにくいケースが多い。
そのため、セグメントと言う言葉で表現している。

具体的な例を挙げればわかりやすいだろう。

Aセグメントを最小として、順に Eセグメント、そして最上をSセグメントと呼ぶ。

Aセグメントは通常2人乗りを想定したミニマムトランスポーターだ。日本は4人乗車を想定したワゴン型軽自動車というジャンルがあるのでわかりにくいが、それも日本版Aセグメントと考えていいだろう。海外だとVWのup!やスォッチのスマートか。グローバル的に見た日本車のAセグメントはトヨタの意欲的な迷作iQになるか。要は4人乗車プラス荷物を載せて使う事を諦めるレベルの小型車の事だ。

Bセグメントは日本で言うリッターカー。ヴィッツやマーチ、スイフト。ノートは少し大きいがここか。VWならポロ。最近は高級版としてアウディA1やBMWミニが出てきて、コレらは小さくても高級なのでプレミアムBセグメントと呼ぶ。我慢すれば4人乗車で移動できるサイズ。

Cセグメントはファミリーカーとして満足する最小サイズ。VWゴルフを筆頭にメルセデスA/Bクラス、BMW218アクティブツアラー。カローラやプリウス、インプレッサやアクセラもココ。

Dセグメントは少し大きくフォーマルなセダン型を指す。アテンザやレガシィ、トヨタカムリや日産ティアナ、海外ではVWパサートやフォードモンデオが該当する。そしてこの高級版であるメルセデスCクラスやBMW3シリーズ、アウディA4をプレミアムDセグメントと呼ぶ。レクサスISもココ。

Eセグメントは大きさだけでなくプレミアムなクルマで、メルセデスEクラスやBMW5シリーズ、アウディA6が該当する。レクサスならGS。

その上のSセグメントはショーファードリブン(運転手付き後席利用)が想定された高級車。メルセデスSやBMW7、アウディA8など。レクサスならLS。

つまり、 Eセグメントは趣味性を除けば自家用車として最上位クラスと言うことだ。

そんな5シリーズだから、小生の様な評論家風情の素人が指摘できるような瑕疵があってはならない、そう言うクルマだ。

1.5シリーズの歴史


5シリーズの歴史の前に、まずBMW乗用車の歴史を語らなければならないだろう。以前にコメントした内容を転載する。
https://newspicks.com/news/3343352/
〈転載〉
BMWは第二次大戦中は飛行機および高級車メーカーであった。
大戦後、工場は操業停止となり、1951年に漸く四輪車生産再開するものの、高級車501だけではうまくいくわけもなく、苦し紛れに小型イセッタをライセンス生産する事で糊口を凌いでいた。
そんな倒産寸前の状況で、まずはバイクベースの小型乗用車700で形勢を盛り返し、1962年に中型乗用車1500(ノイエクラッセ)を発表。一気にBMWは復活した。
ノイエクラッセはモノコックボディ、フロントストラット、リアは独立式セミトレーリングアームという当時のFR車最先端構成であった。
その後ノイエクラッセをベースに大型2800/3000や、小型02シリーズを展開。コレらは今日の7シリーズと3シリーズに当たる。

ノイエクラッセの後継は5シリーズである。
こうした背景から、BMWはまず5シリーズに先端技術を取り入れ、その後他のシリーズに展開する形を取っていた。5シリーズはいわば先行テストベッドである。
〈転載終わり〉

初代5シリーズ(E12)は1972年にデビューした。メカニズムや全体のプロポーションはノイエクラッセを踏襲しながら、フロントマスクはその後のBMW全車に繋がるデザインとなった。
5ナンバーサイズに直列4気筒の2Lエンジンが主力だが、上位モデルとして6気筒ビッグシックスの530iや528iも用意された。また、現在のM5の祖先にあたる、M535iがモデル末期に追加された。BMWのスポーツ専業会社であるM GmbH社が設立されて初の乗用車モデルである。

2代目5シリーズ(E28)は1982年にデビュー。デザインは先代から引継ぎながらより上質かつスポーティに。シャシーは E24型6シリーズと共通。フロントサスペンションには E23型7シリーズで採用された仮想転舵軸方式のダブルジョイント式ストラットが採用されている。この世代、日本では低燃費を狙って低回転域に特化したイータエンジンが採用された528eが導入されている。
マニア的にはこの世代からM5が登場したのがトピックだろう。イタリアとドイツの共作ミッドシップスーパーカーとして期待されながら、イタリアン作業の遅延に継ぐ遅延(元々主要技術者の抜けたランボルギーニに開発能力などなかったのにまんまと騙された)によりレースシーンを沸かす事ができなかった悲劇のM1搭載の名機、M88型3.5L直6レーシングエンジンを5シリーズに搭載したスーパースポーツセダンである。

3代目5シリーズ(E34)は1988年デビュー。先行してリリースされた E32型7シリーズと共通の丸みを帯びた空力デザインに新世代BMWを予感させた。リアサスペンションはセミトレーリングアーム型ながら取付部にトーコントロールロッドを配した最終形へ進化。大型化かつ豪華になった分車重も増え、日本仕様は6気筒モデル以上へ。
91年にスモールシックス系6気筒(2Lと2.5L)はDOHC4バルブのM50系に5速ATへ置き換わり、その後レクサス(セルシオ)対抗のV8エンジン(3L、4L)が追加された。

4代目(E39)は1996年にデビュー、デザインは E34の面影を残しながら更に丸みを帯びた。
見た目と裏腹に、エンジニアリングは大幅に進化している。リアサスペンションは E38型と同様にマルチリンク型へ。CANネットワークの連携、姿勢制御装置ASC-Tの採用、サブフレームまでもアルミ素材へ転換された。この代のM5はよりハイパワーな4.9 LのV8エンジンとなった。

5代目(E60/61 この代からセダンとワゴンで型式が異なる)については、もはや語るまでもないだろう。BMWのデザイン思想は良くも悪くもクリス・バングルにより一気に変わった。5シリーズはそのイメージリーダーと言っていいほど、アグレッシブなデザインであった。そして、アルミ置換は広範囲に及び、フロントセクションはボンネットだけでなくフェンダーやインナーパネルまでアルミが採用されている。
また、ステアリング機構にはアクティブステアリングが採用された。ステアリング軸に遊星歯車を入れて、ステアリングギヤ比を変えるだけでなく、緊急時にカウンターステアさえできる仕組みだが、同時にステアリングのリニアリティは低下したため賛否両論である。この代から日本仕様は全車ランフラットタイヤ採用(M5を除く)。M5は5LV10を搭載。

そして6代目(F10/11)は2010に登場し、デザインは抑制の効いたものに変わった。エンジンは途中からダウンサイジング2L4気筒ターボが主力へ。フロントサスペンションは伝統のストラット式からF01型7シリーズと同様にダブルウィッシュボーン式へ変えられた。
アクティブステアリングは後輪操舵機能が追加され完成形へ。M5はV8ツインターボでよりハイパワーに。

こうして現行7代目5シリーズ(G30/31)は2017年に登場した。

2.現行5シリーズとは


デザインイメージは先代F10をアグレッシブにした印象。先代はオーソドックスに見えながらかなりボディ前後を絞っていたが(先先代のE60はその逆でアグレッシブに見えながら実はあんまり絞らない品行方正なデザイン)、その延長に見える。
ボディパネルはアルミ素材に置換され、100kgほど軽量化されてるとの事。フロントサスペンションは見た目先代と変わらないロアアーム分割型ダブルウィッシュボーン式、リアサスペンションも先代同様5本のリンクによるマルチリンク型を踏襲。アクティブステアリングも後輪操舵付きで先代同様。
また、ワゴン型のツーリングはリアだけエアサスなのも先代同様(車高自動調整機能を持たせたい為)。

ちなみに試乗車はワゴン型のツーリング(G31)。ウチのポンコツもツーリングなので合わせてみた。ウチのE39やE61はツーリングだとエアサスおよび荷室干渉を嫌ってショックアブソーバーが内傾する、走り的にはイヤなレイアウトだったが、先代F11からは是正されている模様。

エンジンは現状の日本仕様は4種類。523i用2Lガソリンターボ、そのブーストアップ高出力版の530i、3Lガソリンターボの540i、2Lディーゼルターボの523dだ。540iは4WDになる。変速機は全てZFの名機8HP、8速オートマとなる。

内外装により無印、本革内装のLuxury、シャコタンのM Sportがあるが、無印は廉価な特別仕様車向け受注生産車で、事実上買えないだろう。523i Luxuryはセダンが797万円、ツーリングが827万円から。直6の540iに至っては1000万を軽く超える。個人的な価値観では1000万超えるならV8ツインターボ位ぶち込んで欲しい所だが…要はお高いクルマである。

試乗車は523iツーリングM Sports、828万円だ。本革付けて諸経費込み900万円。最近乗った中で間違いなく最高額車。当然買えない。ビビってきた。

ここでライバルであるメルセデスEクラスとアウディA6とボディサイズを比較してみる。試乗車はワゴンなので、全てワゴンの比較だ。なお、グレードを合わせる為、BMWはMSport、メルセデスはアバンギャルドAMGライン、アウディはSライン。ただし、アウディA6アバントはBMWなら540i相当の現在55TFSI quattroモデル(V6 3.0Lターボエンジンの4WD仕様 。1,000万円を超えるモデル)のみが輸入されている。A6だけ車重の条件が異なってしまうが、参考までにそのデータを記載しておく。
523i(G31) / 先代523i(F11) /  E200 /  A6 55TFSI quattro
全長(mm) 4,950 / 4,920 / 4,960 / 4,950
全幅(mm) 1,870 / 1,860 / 1,850 / 1,885
全高(mm) 1,500 / 1,480 / 1,465 / 1,465
ホイールベース(mm) 2,975 / 2,970 / 2,940 / 2,925
車両重量(kg) 1,720 / 1,860 / 1,780 / 1,930
各車のサイズはほとんど変わらない。ただ、5シリーズは先代と比較すると新型が140kgも軽量化されていることがわかる。実は先代のF10/11では先先代E60/61でアルミ置換したエンジンルーム内を鉄に戻している。コストダウンだろう。
結果、ライバルと比較して重い車体であった。新型のG30/31はライバルに引けを取らないようアルミ化等で軽量化したのである。

3.試乗前検分


試乗車は本革内装オプション付き。
外装紺で内装はオフホワイト。個人的には大好きな仕様だ。コレだけで欲しくなる。

ドアを開けると、いつもの5シリーズの感触。外装はアルミ素材のはずだが、重く頑丈そうなドアだ。
右ハンドルの仕立ては満点。オフセットは皆無。アクセルペダルもオルガン式。コレもE39以降の5シリーズの美点だ。

メーターパネルは液晶だが、オーソドックスにメーターを表示している。視認性も問題無し。

シートだけでなく、チルトやテレスコも電動。ドライビングポジションも1発で決まる。この辺りのお約束は外してない。

シート調節スイッチは3シリーズと同じはずだが、なぜかこちらは混乱しなかった。

シート表皮の革もドイツ車としては柔らかく、サポートも問題無し。視界もまずまず。

リアシートの広さはこのクラス標準か。流石にこの大きさだけあって、ショートホイールベース版7シリーズに近い。着座姿勢、肩甲骨のサポートも問題無し。

質感はすごく高級という程でもないが、スイッチ類、ウッドのレリーフもまずまず。あからさまに安物な所は無い。このクラスなら最低でもこのくらいは欲しい、と言う感じだ。

4.試乗検分


さて、走り出す。
スルスルと走り出して、道路に出てアクセルを踏む。2L直4ターボエンジンは320iと同じ低出力版だが、加速は悪くない。ウチの2.5L直6よりも遥かに軽快に加速する。ZF製8HPオートマはスムーズで変速を感じさせない。

タイヤはミシュランプライマシー3ランフラット。前245/40R19、後275/35R19と言うタイヤ交換費用で泣きそうになるサイズだが、不快な突き上げは無く快適。ボディ剛性で不利なワゴン形状だが、剛性は盤石な感じだ。

更にアクセルを踏み込む。エンジンは不快な音もなく軽々と回る。この辺りのマナーは非常に良い。

Uターンや交差点でも予想以上に小回りが利く。ホンの少しだが低速は逆位相の後輪操舵が効いているのだろう。

このクルマもアクティブステアリングが装備され、ステアリングのギヤ比が可変だが、3シリーズの様な唐突な変化は無い。極めてスムーズに事が運ぶ。

もはや巨大とも言えるボディの大きさを感じさせない。車体の把握性は素晴らしい。取り回しもいい。もっと小さいウチのポンコツよりもいいかも。

ステアリングを切り、加速減速のレスポンスも良い。車体が軽く感じるが、音振はよく抑えられている。流石、快適だ。

ぶっ飛ばしてどうなるかは今回の試乗ではわからない。恐らくこの巨体では峠を攻めるのはツラいだろう。しかしながら、普段乗りでは思った様に加速し、曲がる。コレこそBMWだ。少しホッとした。

5.総括


G31型5シリーズツーリングは以下の点で秀逸だった。
・不足ない動力性能と軽快な挙動
・上質な内装と快適な乗り味
・カッコいいデザイン

さすがにこの価格帯だけあって、こんな試乗程度では明確な瑕疵は見つからない。本革仕様で900万円のクルマなのだから。当然と言えば当然だ。
逆に言えば、私が望む駆け抜ける喜びなBMWはここまでお金を出さないと得られないと言う事だ。

各性能は圧倒的だとは思わない。
内装の上質さだけなら599万円のボルボV60の方が良い。5シリーズに分があるとすれば少し身のこなしがスポーティと言うだけだ。BMWというブランドにプラス300万円が払えるかどうか。

3シリーズと5シリーズで迷う方向けに、5シリーズは廉価な特別仕様車や値引きを提示するとの噂もある。そういうのを狙うのはアリだろう。3シリーズとの差は歴然だ。

BMWを立て直した稀代の名作ノイエクラッセの末裔が5シリーズだ。常にBMWのど真ん中に位置し、先端技術を積極的に投入してきた。BMWの方向性を感じられるモデル、ソレが5シリーズだ。

コレらを享受するには随分とコストがかかる様になってしまった。ソレが1番の問題だ。

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