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恋に落ちるのは突然とはいうけれど

まさかこんなところで出会うとは。


あなたの素敵さはみんなから聞いていました。
知っていますよ、あなたが魅力的だっていうことは。

でも、だめなんです。
わたし、他の男の人と約束しているんです。

あなたと、逢っている場合じゃない。


え、だめです、そんな風に誘惑してこないでください。
魅力的だってことは知ってるんですから、それで充分じゃないですか。

やめてください、ちょっと、ねぇ

あの、あの、

だめですってば……

はぁ……


行ってしまいました。

わたし、無計画にロストバージンしてしまいました。


オオゼキィィ

オオゼキロストバージン!!!




9月7日土曜日、俳優をやっている学生時代の後輩くん主演の演劇を観るために、私は東京都世田谷区下北沢を訪れていた。

「自由席なのでお好きなところに座っていただいて大丈夫ですが、劇場の構造上、前2列が見やすいと思いまーす。」
とLINEしてくれた後輩に対し、私は調子よく
「じゃあ、最前列センターとりまーす。」
と返事したのだ。

開場まで、あと45分。
お昼ごはんをサッと食べて、少し早めに劇場に行って並んでおかなければ。
どこでお昼を食べようかなぁ。
こういうときは、出来るだけチェーンじゃない飲食店を探すのが楽しいんだよね。
小田急線 下北沢駅から出て、商店街に歩を進める。


と、視界に、ほんとうに突然、視界に、赤い建物が飛び込んできた。

オ……オオゼキ?
あのオオゼキ?
オオゼキに縁のない生活をしている私は、オオゼキとの突然の出会いに戸惑っていた。心底おろおろした。

オオゼキ…… 下北沢……
奥底のほうから、記憶が蘇ってくる。

あ。
オオゼキ下北沢店、第2回オオゼキツアーの舞台だ。
とりあえず、お店の前を通ってみよう。

人の流れに乗って、オオゼキの前まで来た。
ここだ。
ここに、まつしまようこさん、ナースあさみさん、ねおみのるさん、少年Bさんがいたのだ。え、あれって現実の話だったの?


店先に並ぶ品々。野菜や果物がてんこ盛り。
Bさんが書いたCRAZY STUDYの記事にこうあった。

まつしまさん:これとかもう神輿じゃないですか。
少年B:おお、お祭りだ! わっしょいわっしょい!!

奇しくもその日は、下北沢のお祭り、北澤八幡神社例大祭。
商店街のスピーカーから、祭囃子が流れていた。
お祭りだ。わっしょいわっしょい。


店頭に並ぶ品々が私を誘惑する。
……オオゼキに入りたい。でも、私はランチのお店を探さないと。
えー、でも、すごいなぁ。
でも、ランチ、早く行かないと。
うっ、ランチ……

オオゼキを通り過ぎようとした足が、勝手に戻っていく。

気づいたら、ブドウの前にいた。
Bさんの気持ちがよくわかった。
私も、両手いっぱいにブドウを抱えたい。

シャインマスカット、マスカットオブアレキサンドリア、巨峰、ピオーネ、ナガノパープル、ベリーA、視界いっぱいに広がるブドウブドウブドウ。
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、じゅうな…、おっとこれはサラダごぼうだ。
16種類のキラッキラのブドウたちが、お神輿状態だった。
わっしょいわっしょい。祭囃子が響く。

ブドウだけで3分ぐらい使ってしまった。
開場まであと40分もない。早くしなければ。
入り口をくぐり、店内左手の壁沿いにもこれでもかと積まれているブドウに「圧倒的ブドウ推し……」と畏敬の念さえ抱きながら、吸い込まれるように2階に向かうエスカレーターに乗った。

エスカレーターで昇るとそこは精肉売り場。
上品なマダムが覗きこむ先には、松阪牛。
クラクラしながら歩みを進めると、あの子がいた。
こんにちは『どんぐりの恵み豚』さん。あなたのこと、ようこさんから聞いています。美味しいんですってね。
塊肉はなかったがロース厚切り肉があった。肉が、みんな誇らしげ。

いけない、いけない。また時間を忘れるところだった。
その先の鮮魚コーナーは、涙をのんで通過する。
チラ見はした。お魚たちの目が輝いていた。(新鮮ということ)


その先にはパック寿司コーナー。
これが美登利寿司。
胡乱窟のジョン久作先生との、ラップバトルならぬ小説バトルで登場した美登利寿司。

【小説バトルこれまでのあらすじ】
OZカード(オオゼキ会員カード)を提示して、「バー・メキシコ」から「カフェ・オオゼキ」に潜り込んだ工作員ジョン久作。そこでオオゼキの番人、デスオオゼキようこの歓待を受ける事になる。

(続きはツイートをクリック)

オオゼキ下北沢店の2階で立ちすくむ私の目の前にも、黒く高尚な光を放つ箱があった。こ、これが穴子寿司。
工作員J・Qのように、私は震えていた。
早く、早くこの場を離れなければ、とんでもないことになる。
私のランチが、寿司になってしまう。


その後は、無我夢中で陳列棚の間を練り歩いた。
コーヒー豆売り場に小川珈琲と茅ヶ崎サザンコーヒーが置かれているのを見てセンスいいなオイと思い、緑茶売り場がリーズナブルから高級まで濃淡質感様々な緑色パッケージに覆われているのに戦慄し、乾物売り場の京ゆばに「これ、ほんまにええやつやわ」と呟いた。


もう、開場まで30分を切っている。
私も何か買いたい。
わからない、オオゼキが奥深すぎて、何を選んだら良いかわからない。
こんなことになるのなら、オオゼキヨウコの『女友だちへのプレゼントはオオゼキで調達する【前編】【後編】』を読み直しておくんだった。

泣きそうな私の前に、特設コーナーが現れた。
レトルトカレーが、怒涛のレトルトカレーが、そこにそびえ立っていた。
すごい……この尖ったチョイス。好き……。
気づくと、私はレトルトカレーの箱を持ってレジに並んでいた。
いつもは衝動買いなんてしないのに。
オオゼキ。オオゼキが誘惑するから。

買ったのはこちら。

博多とんこつビーフカレーってなんだろう。
牛と豚のマリアージュ(式場:カレー)。


OZカードはお持ちですか、というレジ係の問いに、苦渋の表情で、いいえ、と答え、会計を済ませてオオゼキを出た。
出口の外すぐに陳列されているスリッパ。困惑。

北澤八幡神社例大祭の祭囃子を聞きながら、私はふらふらと歩いていた。
ここしばらくの私の日常、白昼夢が多すぎる。頭がおかしくなりそう。

開場まで25分を切っていた。
お店探しを楽しみたかったが、もうそんな余裕はない。
目についた星乃珈琲に入店した。
メニューを選ぶ思考力も残っていない。
メニュー表の一番上に大きく書かれた『夏のオススメ ビーフタンシチューオムライス&パンケーキプレート』を注文し、ブラジル・エチオピア豆の織姫ブレンドを頼んだ。
外が暑かったのとオオゼキロストバージンの火照りを抑えるため、爽やかなコーヒーを飲みたかったのだ。(コーヒー好きとして、気分によって豆を選ぶ意識だけはギリギリ残っていた)

意識が戻ってきて、撮った写真。

ランチをかっこむように食べて星乃珈琲を出た。
開場時間ちょうどに劇場に着いて7人目ぐらいに入場し、無事最前列センター席を確保した。(意外とみんな2列目以降に座る)


オオゼキ、危ない人。
あやうく男(後輩)との約束を破るところだった。
オオゼキ、また会いましょう。

追記:
オオゼキようこ様より、ご指摘いただきました。
「ロストバージンの言語化が未だのようです。」

申し訳ございませんっっ!!
大至急、言語化いたします!!!
(大至急と言いながら、指摘いただいてから2日経った9/10の追記です。)

オオゼキ下北沢店を言語化いたしますと

もう、これに尽きます。

あの、例の、泣きそうになった私を優しく慰めてくれたレトルトカレー特設コーナー。
妖しい魅力にとり憑かれて、ほいほいカレーの箱を手に取っていたのですが、なんと4箱中3箱が1000円近い価格だったのです。
さすがにね、主婦としての警報が鳴りましてね、1000円カレーは棚に戻させていただきました。

危うくオオゼキの魔性に魅入られて、オオゼキのお会計が演劇のチケット代と同等になるところでした。

オオゼキ、魔性のスーパー。

♡を押すと小動物が出ます。