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「子どもの探究心」vs「ダメな親と思われたくない気持ち」

子どもが行儀の悪い遊び方をしてしまい恐縮する親に対し、子育て支援センターの保育士さんはいつも言う。
「○○できるようになって楽しいのね。いいんですよ。どんどん○○していいんですよ。」

すべり台に石を転がしたい、と子どもにせがまれたとき、あなたならどうするだろうか。キラキラした目で当時2歳後半だった長男にせがまれたとき、私は少し迷った末に同意した。いいね。面白そうだね。

そして聞いた。他のお友達に石が当たったら怪我しちゃうかも。どうする?
「じゃあ、おともだちがいないときにする。」
すべり台の上から、下にいるお友達は見える?
「見えない。ママが見て、おともだちがきたらチョウナンくんに教えて。」
第一のお約束【石を転がすときは、お友達がいないときだけにする。ママがストップと言ったらすぐにやめる。】が成立。

続けて聞いた。その石、大きすぎてすべり台が壊れちゃうかも。長男の両手には握りこぶしよりも大きい石が収まっていた。
「だいじょうぶだよ!すべり台はこわれない!」
でも、もしも石が飛んでっちゃってママに当たったらママはケガするよ。
「じゃあ、小さいのにする。これならだいじょうぶ。」
長男は、持っていた石を親指の先ほどの小石に取り替えた。
第二のお約束【転がす石はすべり台を傷めないもの、万が一人に当たってもケガさせないものを使う。】が成立。

そうやって話し合ったのちに、長男はすべり台での石転がしを楽しみはじめた。その公園にはプラスチック製、金属製、コンクリート製、まっすぐなもの、クルクルしたもの、ウネウネしたもの、様々なすべり台がある。
転がる石はすべり台の種類によって、音もスピードも転がり落ちる軌跡も多種多様で、長男は夢中になって違いを楽しんでいた。
そして、私はその姿を見て満足していた。


だが、お行儀よりも子どもの気持ちを優先した育児は、ある種の人たちとは相性最悪である。

長男は石転がしを満喫して、すべり台から降りてきた。そして少し離れた場所で遊んでいたひと組の親子に声をかけに行った。長男はラテン系なのだ。
「いっしょにあーそーぼ!」
母親は敵意むき出しの声色で、長男を睨みつけながら言った。
「ダメ。一緒には遊べないの。」

いままで何度も遊んだ公園で、いつだって声をかけた相手と仲良く遊べていた長男は状況が飲み込めなかったようだった。しばしキョトンとしたのち「一緒に遊べない。」と繰り返された言葉で長男は泣き出した。
「ちょっと、そんなに泣かれると私が悪いみたいじゃない。」
母親は、私のことも睨みつけてきた。

その子はひどい癇癪を起こすなど知らない子と遊べない何らかの事情があったのかもしれない。しかし、直前まで別のおとなしい子と遊んでいたこと、私たちにあからさまな敵意を向けてきたことから、すべり台で石転がしをしていたことを好ましく思っていないのだ、ということはすぐ察せられた。

まぁ、わからないでもない。私も遊具のてっぺんから飛び降りる小学生をみてウワッと思うことはある。でも、親が先回りして好ましくないと思う子と遊ばせないのはどうかと思うよ。お子さんの方は、うちの長男のことを、何とも思っていないフラットな目で見つめていたよ。余計なお世話だけど。

充分に安全を確保し、周囲に迷惑をかけず、子どもの好奇心の芽も摘まずに遊んでいたつもりの私はショックを受けた。でもわかっている。マナーが悪い、しつけのなっていない親と見られても仕方がないことを私はしていた。

しかし、私は決めたのだ。少なくとも幼児の間は、お行儀よりも子どもの探究心を大切にすると。
小さな子どものするべきことは、この世界を探索すること。身の回りの物事を観察し、自分に何ができるか挑戦すること。
それに気づいたとき、公園など「子どもが主役の場」では好きなように遊ばせよう、子どもの探究心を守るためならばどんなに白い目で見られようが耐えよう、と私は決めたのだ。

子どもが、自分で考え、挑戦し、よく遊ぶ子になるのならば、私は悪者でもなんでも良い。

幸い、いつも一緒に遊んでいる仲間たちは私と同じような考えのおおらかな人が多いし、あんなに強烈な人に出会ったのは、あの一回きりだ。
でも、あまりにもあの母親が冷たいまなざしで敵意たっぷりに言ったものだから、私たち親子は家に帰ってから悲しくて泣いちゃったよね。というか、長男はにらまれた時点で大号泣で、次男を前抱っこしていた私は泣き狂う長男を家に連れて帰るのも難儀したけれど。
厳しく攻撃してくる人を避けるために、人目があると「私ちゃんとしつけしていますアピール」で不当に子どもを叱責してしまう、と悩む母親が多いのも納得だ。怖かったもん。

あないに言わんでもええやないの、と私の中の京都人があのお母さんに物申したいそうなので、聞き苦しいかもしれないけれど、ちょっと聞いたってください。

おたくの坊ちゃん、お母さんにぴったり寄り添って、お母さんに言われたようにだけ遊ばはって、えらいお利口さんやなぁ。上手にしつけはってお疲れさんどした。

おー、こわ。

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