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弟の噛みグセをなおした兄のやり方

噛みグセのあるお子さんをお持ちの方はご存知だろうが、1歳の子どもに噛まれるのはかなり痛い。

人形みたいに可愛らしい口をフワッとひらき、親の首筋、鎖骨、二の腕、太もも、ありとあらゆるところにかぶりつく。見た目にそぐわぬ強靭な顎の力を、生えたての小さな歯に集約し、かみついた皮膚につき立てる。痛い!!慌てて引き剥がしたときには時すでに遅し、くっきりと歯型が刻印されている。

長男は「痛いから噛まないでね。」とさとすとすぐ言うことをきく1歳児で、甘噛みされたことはあっても歯型がつくほど噛まれた記憶はほとんどない。長男に関して噛みグセで悩んだことはなかった。
対して1歳前後の次男は、よく人を噛んだ。私、夫、兄、次男に近しいこの3人は毎日のように歯型がつくまで噛まれていた。

噛まれると思わず叫んで飛び上がってしまうほど痛いのだが、私は黙って耐えるようにしていた。相手の反応が面白くて、余計に噛む子になるのではと恐れたからだ。そして、次男の頭を引き剥がし、目を見ながら静かに「噛まないで。痛いから。」と言う。

そのやり方では、次男はまったく噛むことをやめなかった。噛んではニコニコし「アヒャー」と歓声をあげるのだ。
しかし私は怒鳴ったり叩いたりして言うことを聞かせる方法は取りたくなかった。恐怖で子どもを屈服させるのは嫌だ。私の肌には歯型が増え、なかには内出血した噛み跡もあった。


ある日、いつものように次男と格闘していると、長男がやってきて言った。「ジナンくん、かんだら痛いよ。かんじゃダメ。」
もちろん次男はやめない。
「かんでいいのは食べものだけ。ほら、歯がはえてるでしょ。」
それでも次男はやめない。

「ジナンくん、こうだよ。こうして。」
長男は次男の手をとり、私の二の腕に当ててさするように動かした。
「かむんじゃなくて、ヨシヨシだよ。」

するとどうだろう、次男はハッとした顔で噛むのをやめ、ニコニコしながら私の二の腕をペチペチしたのだ。次男はその後、うっかり噛みつきにくることはあっても「ヨシヨシして。」と言うとすんなりやめるようになった。完全に噛みグセが解消されるまでは2週間ほどかかったが、誰がなんと言おうとやめなかった次男が劇的に変化したのだ。

長男は3歳にして「提案」を知っていた。しかもとても上手なタイプの。次男の本当にしたいことが「甘えること」だと見抜き、噛むことに代わる甘え方を提案したのだ。大人でもなかなかできないことを、さらりとやってのけた。3歳あなどれぬ。

いま次男は、私にまとわりついてギューッとハグしてくれるようになった。硬い歯でなく、柔らかい手で。

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