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寂しくて辛い「おじさん」のための福祉

孤独で、重い責任に押しつぶされそうで、夜もあまり眠れなくて。
長男を産んでから2年の間に、夫の仕事の都合で私たち家族は3回引越しをした。
環境が激変し、キャリアが分断され、人間関係もリセットされる状況で、私の精神状態はギリギリだった。
ギリギリアウトだったかも。長男を抱いたままベランダから飛び降りたらどうだろうと考えたことがあるから。
病院に行くべきだったのに、行くことさえ億劫だった。


いまの住居に引越した、長男が2歳次男が生後半年のころ。
家の近くの子育て支援センターに通いはじめた。

私はみるみるうちに元気になった。
子育て支援センターはすごいのだ。

子育て支援センター(こそだてしえんセンター)は、厚生労働省(当時 厚生省)の通達「特別保育事業の実施について」に基づく施設。
(引用元:Wikipedia)

子育て支援センターには保育士さんと保健師さんが常駐している。
保育室にはたくさんのおもちゃがあり、安全に配慮された作りになっていて、子どもを安心して自由に遊ばせられるようになっている。
利用料は無料。

子どもを預けて親は外出、はできないが、保育室の中であれば疲れてぼーっとしている親の代わりに保育士さんが子どもと遊んでくれて、育児の悩みも気軽に相談できる。

保育士さんも保健師さんも「親に寄り添う」を第一にしている。
どんなに育児が上手くいっていない親にも、大変ですね、頑張っていますね、と優しく肯定し、アドバイスを求める親に対しては、これ以上頑張る必要はないですが、こうしてみると少し楽になるかもしれません、とさりげない回答をしてくれるのだ。

孤独な育児において、子育て支援センターは心の支えになった。
子育て支援センターで行われるイベントに継続的に通ううちに、地域に友人もたくさんできた。
いま私は孤独ではない。とても幸せに育児を楽しんでいる。


産前産後、小さい子どもを育児中の親(主に母親)には、手厚い支援が必要だ。
身体的にも精神的にも大きなダメージを負ったまま、子育てという難題に日々向き合い続けなければならないからだ。
この点は広く周知されており、(中には冷たい人もいるけれど)疲弊した親に多くの人が優しく手を差し伸べてくれる。

同じように、わかりやすい属性を持つ社会的弱者には、現代日本においてそれなりに福祉が整備されている。


そう考えたときに、ただの「おじさん」って気の毒だと思う。
「おじさん」であるがゆえに、自立していることを求められ、弱音を吐かせてもらえない。

私が以前働いていた企業はホワイトだったが、プロジェクトごとに見ると真っ黒なものは多々あった。
私も2年間「大炎上プロジェクト」と呼ばれる社内でも群を抜いて赤字を叩き出している(でも撤退することができない)凶悪なプロジェクトに所属していたことがある。
深夜残業、休日出勤、リーダーの無能感&パワハラ、実効性の怪しい(むしろ無駄な作業が増える)生産性向上策、誰かがミスをするたびに行われる全員参加の再発防止会議。
30人弱のチームで20代も多かったため、若手同士の結束が強かった。
22時まで残業したあとリーダーの悪口を肴に終電まで飲むなんてのをしょっちゅうやっていたものだから、若手だった私たちはイライラしながらもそれなりに元気に働いていた。

問題は、30代、40代の孤立した「おじさん」である。
パワハラリーダーに叱責されしょんぼりする彼らは、若手と違って誰かに頼ることができず、1人で仕事を抱え込み、孤独そうだった。
もっと誰かに相談できたらよいのだけれど、あのチームはリーダーのパワハラ気質のせいで「甘えるな」という空気がとても強かった。
そんな彼らが気になって私は明るく振舞っていたけれど、何の役にも立たなかった。若手に心配されるなんて、プライドが高い人ならば逆にストレスだっただろう。

「おじさん」のうち3人が心を病んで、それぞれ転職、休職、退職した。


あのとき子育て支援センターみたいな心の拠り所があれば、「おじさん」達は病まずに済んだのではないだろうか。

大企業だったので社内にメンタルヘルスの相談窓口はあったし、定期的にメンタルヘルスチェックも行われていた。
でも、そういうのじゃない。
なんだか「メンタルヘルス」とつくとハードルが高い。
心が危ないと思う前の、ちょっと疲れたと思ったときに、気楽に安らげる場所が必要なのではないか。

そこで「大人の男なんだから自分で何とかするべき」というと「おじさん」は気の毒なまま、心を蝕まれていくしかない。
私が経験したブラックプロジェクトのような環境だと、平日どこかに遊びに行くのは難しいし、自分の趣味の時間さえも取れない。たまの休日は疲れ切って、一日中寝てしまう。
同じプロジェクト内で気の合う仲間がいればいいが、そうでなければ本当に孤独だ。

キャバクラとかラウンジとかがそういう安らげる場所に相当するのかもしれないが、少しばかり性的なニオイが漂うので苦手な人には辛い。
(ラウンジは上司に連れていってもらったことがあるが、ママに可愛がってもらえて私は楽しかった。チョコレートをいっぱいもらった。)

なにか、子育て支援センターみたいな、疲れた大人がふわっとゆるっと弱音を吐けるような、そんな施設があるといい。
会社の近くだと気兼ねするから通勤途中や自宅近くに、深夜残業のあとでもふらっと立ち寄れて、10分ぐらいでも気楽におしゃべりできて、全面的に肯定してくれて、仕事の悩みにも専門的な視点からアドバイスをしてもらえるような。
超いいな、こんな施設があったら。

しかし「おじさん」は相談員さんが女性だと、高圧的になったりセクハラしたりする人が多いから。(そういうところだぞ。だから気の毒がってもらえないのだ。)
窓口には、引退した元プロレスラーを配置する。笑顔が素敵なタイプの。


そんな施設があればいいな。
ストレス解消に、お店にクレームをつけたり、パワハラやセクハラをしたり、痴漢をしたり、道でわざと弱そうな人にぶつかってみたり、子どもや配偶者を奴隷のように扱ったり。そんな悲しい「おじさん」たちが、少しは減るのではないだろうか。

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