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アマチュアオペラをあなどるなかれ

先日、初めて生でオペラを観た。一流オペラ歌手達が集う音楽専用のきらびやかなホールではなく、家から徒歩10分の市民会館的なホールにてそのオペラは上演された。

昨日は歌舞伎について書いたが、古今東西ジャンルを問わず演劇が好きだ。(一応断っておくが、私は金持ちというわけではない。衣服や化粧品など身を飾るものに無頓着で、趣味に重きを置いているだけだ。)

ある日、子育て支援センターで1枚の張り紙が目に止まった。市民団体によるオペラ上演のチラシだ。
そういえばオペラは観たことがない。会場は家から近いし、子連れOKだし行ってみよう。

「夫さん、次の土日にオペラがあるんだけど行っていい?未就学児も観られるみたいだから長男は連れて行こうかな。」
「えー。せっかくやったらマリナひとりで観てきたら。」
夫、いいのかい?嬉しいな。

かくして私はひとりでオペラを観に行くことになる。

だいぶ昔に、市民団体による演劇か何かを見たとき学芸会のようなノリに白けてしまった記憶があり、今回もハズレだったら嫌だなぁと思いながら開演を待っていた。
主宰による挨拶が終わり、幕があがる。市民団体のオペラだけあって壇上にセットはなく、衣装や小道具には手作り感があふれている。20代の男が現れるシーンで、どう見ても50歳くらいの白髪混じりの男性が登場する。大丈夫か?大丈夫か?
その心配は、50歳が発した歌声によってかき消された。張りとツヤがある、伸びやかな声。見た目とは裏腹な若々しい声に引き込まれ、その後は終演までオペラの世界にどっぷりと浸かった。
出演者が勢ぞろいするクライマックスでは、幾重にも重なる歓喜に満ちた歌声が簡素な市民ホールを包み込み、思わず涙が流れた。
耳が、贅沢だ。

市民団体と言えど、本格的なオペラだった。(オペラは歌だけでなく台詞パートもあるので、もし3歳の長男が観ていたら少し退屈だったかもしれない。)
出演者は総じてレベルが高く、特に主要キャストはことごとくセミプロと言える巧みさだった。何人か音大卒の方がいたので実際にセミプロなのだろう。しかし専門教育を受けていなさそうなキャストがほとんどだった。それでもその公演がオペラとして観客の心を揺さぶったのは、半端ない熱量の高さがあったから。そこには、彼・彼女らが愛するオペラを客席に届けようという執念があった。
※団体名を書きたいところだが、私の現住地が筒抜けになってしまうので控える……つらい……。

一昔前ならば一流のオペラを観るにはオペラが上演される劇場に向かうか、公式に販売される映像媒体を購入/レンタルするか、テレビ放映を待つしかなかった。

いまは手軽である。Googleの、アート作品をネットで公開する取り組みのひとつ
STEP ON STAGE WITH THE PERFORMING ARTS
では、オペラを含む舞台芸術を無料で鑑賞できる。ほんの数分の公開だが、「一流の雰囲気」を感じることができる。

その市民団体が実際にネットでのオペラ視聴をしているかどうかは知らないが、簡単に一流に触れられるいま、演者も観客もパフォーマンスに求める質は高くなっているのではないだろうか。

しかし、いかに一流だろうと、画面越しのパフォーマンスはナマの熱量には勝てない。涙を流しながら市民オペラの終演を見届け、市民ホールの出口に並ぶキャストに見送られながら、私は足取り軽く家に帰った。あぁ、なんて良いものを観させてもらったんだろう。

なんとお値段、大人2000円。市民団体をあなどるなかれ。

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