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春の陽射しをまとう男

4月のよく晴れた日、スノーボードシーズンが終わるのを惜しむように私たちはゲレンデにいた。

暑い。たくさん雪があるのに、暑い。
麗らかな春の陽射しが、いまは憎い。

「すこし休みましょうか。」

社内でも屈指の大炎上プロジェクトに所属する彼とはスノーボード好きという共通点があり、私たちは冬の休日のほとんどを雪山で過ごした。

「ウェアの前を開けたらちょうどいいですよ。あー喉乾いた。うわ、ホットしかねぇ。」

ゴンドラ降り場の自動販売機にはHOTの文字が並んでいた。
彼は迷わずミルクティーのボタンを押し、転がり出た缶をコースの脇に挿した。そして私たちはその横に腰を降ろした。

「俺、青年海外協力隊に応募したんです。」

それはいい。
彼には陽の当たらないオフィスより、光の下がよく似合う。

ゲレンデが暖かくてよかった。さみしさも溶けるような陽気だ。
ミルクティー、そろそろ冷えたんじゃないかな。
飲んだら日が暮れるまで滑ろうよ。

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