タイトル字体

(2017.5.2追記)次期学習指導要領案の「字体」表記について、パブリックコメントを送りました

2月14日に公開された次期学習指導要領案について、3月15日までパブリックコメントを受け付けています。

私は、何を意見したらいいのだろうかと考えた結果、漢字の「字体」という表記についての意見を提出しました。

どんな意見かというと、案にある「漢字の指導においては,学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とすること」の「字体」を「字形」などにしてほしい、ということです。

理由は、「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」では「字体」とは漢字の骨組みで抽象的なものであると定義していて、学年別漢字配当表で実際に見せている字は「字体」の定義に当てはまらないだろう、と思ったからです。

加えて、常用漢字表(指針)と学習指導要領とで用語の扱いが違うと、円滑な漢字指導ができなくなってしまうという懸念があるために意見をすることにしました。

学年別漢字配当表の「字体」表記については、以前も書いています。

で、どうやってパブコメしようか……

意見しようと思ったのはいいのですが、どうやったら意見を受け止めてもらえるだろうか……。

そう考えて、「字体」変更が必要な理由をしっかりと伝えることが大事だなと結論付け、「学習指導要領」「常用漢字表」「常用漢字表指針」「字体」の関係性を丁寧に説明する書き方で送りました。

以下、パブリックコメントとして提出した文言の全文を掲載します。意見が1000字を超える場合は要旨の記載が必要とのことで、図示した資料も作成しました。メールでは添付ファイルが遅れないとのことで、郵送で提出しています。

意見要旨です。

そして、意見詳細です。

ブログでは多くの方に読んでもらえるよう、読みやすさを考えながら書きます(実際読みやすいかどうかは受け手によりますが)。

ですが、今回は意見の必要性、妥当さを解説することが目的のため、だらだらとした文になっています。ブログとしては読みにくいです。すみません。ご了承ください。

↓↓ここから意見詳細↓↓

小学校学習指導要領(案)の国語にて、26ページに

「(エ) 漢字の指導においては,学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とすること。」

とあります。

これは、「学年別漢字配当表」に掲載されている教科書体の字を、指導の際の標準的な「字体」とすることだと解釈しています。この文言は、現行の学習指導要領と同じ内容です。

他方、文部科学省の外局である文化庁が昨年まとめた「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)」(以下、「常用漢字表指針」)では、207ページに

「字体は,数ある具体的な字形から抽出された共通項であることから,特定の具体的な形状として取り出せるものではなく,抽象的に思い描かれるものであると言える。」

とあります。

これは、その前後の説明も含めてまとめると、「字体」とは漢字の骨組みのことで、抽象的に思い描かれるものであり、具現化(表出)できないものだと解釈できます。

目に見える字の形を「字体」と書いている学習指導要領と、「字体」は目に見えないものとしている常用漢字表指針とで、「字体」の言葉が表す意味が一致していないように思えます


なぜ学習指導要領と常用漢字表指針とを結びつけるのかについてですが、現行の学習指導要領解説では、国語132ページにて、

「しかし,この「標準」とは,字体に対する一つの手掛かりを示すものであり,これ以外を誤りとするものではない。児童の書く文字を評価する場合には,「常用漢字表」(昭和56年内閣告示)の「前書き」にある活字のデザイン上の差異,活字と筆写の楷書との関係なども考慮することが望ましい。」

と書かれています。

また、教育課程部会・国語ワーキンググループ第5回の資料「学校教育における漢字指導の在り方について」にて、馳文科大臣(当時)が国会答弁の中で

「児童生徒の書く文字を評価する際には、従来から、「常用漢字表」の考え方を踏まえた柔軟な評価をするように促してきた」

と述べたことを紹介しています。

これら2つの文言から、学習指導要領が常用漢字表の漢字、とりわけ「前書き」(「(付)字体についての解説」)の考えを踏まえて作られていると解釈しています。

常用漢字表指針は、常用漢字表の「(付)字体についての解説」の考え方に沿って、さらに詳細に説明・例示したものであるという認識です。つまり、常用漢字表指針は、常用漢字表の補足と考えられます。ですから、学習指導要領は、常用漢字表もそうですし、常用漢字表指針の考えも踏まえる(結びつける)必要があると考えています

もちろん、学習指導要領が常用漢字表指針も踏まえて作成されていることは承知しています(常用漢字表の考えを踏まえて作っているのですから当然ですが……)。

常用漢字表指針には、「(付)字体についての解説」の詳細な説明の他に、「常用漢字表の用語について」(「常用漢字表指針」207ページ以降)という部分があります。ここでは、「字体」や「字形」などの用語をしっかりと定義づけています(それが、先ほど引用した「字体は,数ある具体的な字形から抽出された~」の部分です)。「常用漢字表の用語について」によって、常用漢字表でも触れられていた「字体」の説明の定義が、はっきりと示されたのだと考えています。

常用漢字表指針は、2016年に公開されました。昨年に示されたこの指針に従って、今回の学習指導要領改訂で、これまであった「字体」という言葉を変更させることは自然なことであると思えます。

それゆえに、用語の定義づけた常用漢字指針に合わせて、指導要領内の「字体」の文言を変更する必要があるのではないかというのが私の意見です。

何卒、検討をお願いします。

***

以下、今回の意見を送るにあたり、お伝えしたい点です。

教育課程部会・国語ワーキンググループ第5回の資料「学校教育における漢字指導の在り方について」では、「常用漢字表の字体・字形に関する指針(案)」について、馳文科大臣が国会答弁の中で、

「これまでの学校教育における漢字指導の考え方が変更されるものではありません。すなわち、学校教育における漢字指導の際には、児童の学習に混乱が生じないよう、従来どおり、いわゆる教科書体を標準として指導を行うことを求めていくこととしております。」

と述べたことを紹介しています。

これは、常用漢字表指針の主張する所は常用漢字表制定時から変わっていないことであり、ゆえに学習指導要領でも漢字指導の方針に変更はないことを答弁したものであって、この点についての意見はありません

また、第5回議事録の中でこの資料を紹介した文科省の小林教育課程課課長補佐は、

「今回の漢字指導の在り方については、学校教育においては、従来の漢字指導の在り方と変わるものではないということを強調させていただきたい。」

と述べています。この点についても、意見する所はありません

そのうえで、先ほど引用した馳大臣の答弁内で「教科書体」と書体(字形)としていた部分が、答弁(資料)の後半では、

「児童生徒が、標準的な字体による漢字習得を通じて、生涯にわたる漢字学習の基礎を培うとともに、将来の社会生活における円滑な漢字運用の能力を身に付けていくことができるように、取り組んでまいりたい。」

と、「字体」という言葉に変更していることを気にしています。

ここでいう「字体」というのは、常用漢字表指針でいう「字形」と同義のものではないでしょうか? だからこその変更をお願いしたいです。「字体」に変わる案としては、「字形」「字の形」「形状」もしくは、「標準字形」などと言い換えられると思います。

教育課程部会・国語ワーキンググループ第7回の「主な意見」では、

「一方、この見直しは、字数を増やすことが目的ではなく、漢字学習の改善・充実の一つとして行うべきであると考える。つまり、常用漢字表の前書き等にある漢字を手書きする意味や、文化審議会国語分科会から報告された「常用漢字表の字体・字形に関する指針」などを踏まえた指導をするなど、漢字指導全体の中の「学年別漢字配当表の見直し」という形で盛り込んだ方が実効性があると考える。」(議事録から推察すると、中村和弘委員の発言でしょうか?)

との意見があります。

常用漢字表指針を踏まえた指導は既に学習指導要領から読み取れることではありますが、より円滑な漢字指導を行うためにも、「字体」文言の変更が望ましいと考えます。学習指導要領内に「字体」という文言が残っていれば、常用漢字表指針での用語説明と齟齬があり、どちらが正しいのか悩むことになって、両者を踏まえた教育を行いにくい事態を引き起こすのではないかと心配しています。

重ね重ね、検討をお願いします。

以上

↑↑ここまで意見詳細↑↑

意見詳細の太字部分は、提出文書では下線表示にしました。意見要旨、意見詳細の他に、指導要領案の該当部分や常用漢字表指針の該当部分などを出力し、手書きで示した資料も入れて送りました。

意見では、〈学習指導要領は常用漢字表を踏まえている⇒常用漢字表指針は常用漢字表を補足したもの⇒学習指導要領は指針も踏まえる必要がある⇒指針の定義に従って「字体」を変更したほうが良い〉ということを伝えたいのですが、伝わっているでしょうか……。

次期学習指導要領の告示は今月末です。意見が受け入れられ、検討されることを望みます。


(2017.5.2)追記。報告が遅くなりましたが、3月31日に次期学習指導要領が公示され、パブリックコメントに対する返答も公開されました。しかし、「字体」に関する意見への返答はなく、指摘部分が変更されることはありませんでした。以下、情報公開直後のTwitterでの呟きを掲載しておきます。




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