どこまでが漢字の細かな違いなのか

ひっそりと教材編集に携わっている人間として、考えたことをまとめる場があればいいなと思ってnoteを始めてみたのですが、いきなり難しい話題……!

文化庁審議会が、常用漢字の書体による違いや手書きでの細かな差異を許容することを、周知させる文書をまとめたそうです。

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常用漢字手書き、堅いこと言わないで 文化審議会が指針
 文化審議会国語分科会は29日、常用漢字について、字体・字形を幅広く認める指針をとりまとめた。たとえば手書きの際、「木」の縦画は、とめてもはねてもよいことや、「天」の2本の横画は上下どちらが長くても誤りでないことなど、2136すべての漢字で手書き例を2、3種類例示した。

朝日新聞

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文化庁のHPを確認すると、この指針の経緯や指針の資料などが掲載されています。

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常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)について
 漢字の字体・字形については,昭和24年の「当用漢字字体表」以来,その文字特有の骨組みが読み取れるのであれば,誤りとはしないという考え方を取っており,平成22年に改定された「常用漢字表」でも,その考え方を継承している。
 しかし,近年,手書き文字と印刷文字の表し方に習慣に基づく違いがあることが理解されにくくなっている。また,文字の細部に必要以上の注意が向けられ,正誤が決められる傾向が生じている。

文化庁

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この経緯を読むと、漢字について新しい方針を示したわけではなく、従来の考え方を詳しく紹介しながら周知させる意図があるようです。

考え方の詳細は「常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)(案)」を見るとわかります。読んで、まあ、そうなのかと思ったのですが、やっぱり、どうしても考えなければならないことがあります。

漢字(字体)の許容となる「細かな違い」の「細かな」はどこまでなのだろう、かと……。

指針であれほど文字の細部に必要以上にこだわるんじゃないよと書かれているのですが、それでも気になってしまいます。


定まった「字体」はない?

指針を読むと、漢字の「字体」を解説する項目の中に、「細かな違い」に対する考えが書かれています。追ってみましょう。

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 字体とは,文字の骨組みのことである。
 文字の骨組みとは,同一の文字がその文字と認識される枠組みから外れない範囲で,目に映る形で出現するときに生じ得る様々な字形のバリエーションに,一貫して内在している共通項を抽出したものである。ある形を見たときに,人がそれを何かしらの文字として読み取れるのは,そこにその文字特有の骨組みが存在するのを認識するからであると考えられる。このような,文字を見分け,何という文字であるかを識別する際の判断基準となる文字の骨組みを字体と呼ぶ。
 字体は,数ある具体的な字形から抽出された共通項であることから,特定の具体的な形状として取り出せるものではなく,抽象的に思い描かれるものであると言える。抽象的な概念である字体を具現化し文字として機能させるには,表された文字にその文字特有の字体が内在している必要があり,そのことは,文字の正誤を判断する基準にもなると考えられる。

常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)(案)p.207

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字体(=文字の骨組み)は、「これである」と定まっているものではなく、各書体や手書き文字など、さまざまな字形に内在した共通項から抽出された概念なんですね!

その後、指針ではさまざまな字形を紹介し、どれも誤りではない字体(=細かな違い)であると述べています。その後で、誤りといえる字体について触れています。

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 一方,図6に示すように,文字間の形状が似ていたり,違いが小さかったりしても,その差異が文字の判別に関わるような場合がある。例えば,「末」の1画目と2画目(①),「士」の1画目と3画目(②)は,その長短を入れ替えれば,それぞれ「未」,「土」という別の漢字として識別される。また,「大」に点を加えることで「太」という別の漢字として,さらに「太」の点を置き換えることで「犬」という別の漢字として識別される(③)。このような文字の形状の違いは,漢字の骨組みの違い,つまり,字体の違いにまで及んでいるものである。字形の相違によって,元の字の字体の枠組みの範囲にあると判断されず,別の漢字として認識される例である。

 さらに,図7に示すように,点画の接し方や数の違いによっては,同じ文字として認めることができず,文字としては認識できないもの又は文字としての役割を果たせないもの,若しくは,別の文字と判断されるものがある。

常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)(案)p.209

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図7の①は1、2画目が「十」になっているから、②~④は点画に過不足があるから、「言」の字体の範囲ではなく、「言」として認められないとのことです。⑤、⑥は別の字体と判別されるために「言」ではない、とのこと。

画数の違いは、「牙」などの特殊な例を除いて、「細かな違い」に括られないものといえそうです。点画の交わりなども、場合によっては「細かな違い」の度合いを越えそうです。

では、字体の許容範囲について、どのように考えていけばよいのでしょう。引き続き、指針を引用します。

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 なお,字体は,その文字を使う人々によって共有されている必要がある。私たちの脳裏には,漢字それぞれの字体について思い描く形状があり,文字を書く際には,一般にその脳裏にある字体の枠組みから外れないように書き表そうとする。それによって,受け取る側に,意図したとおりの文字として認識してもらうことができ,意味内容が伝わる。逆に,誰かの書いた文字を読み取るときには,目に映った形状を脳裏の字体の枠組みと照らし合わせて,それが何という文字であるかを認識する。これらのことは,原則として,お互いの間で字体が共有されているからこそ成り立つ情報交換である。

常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)(案)p.209-p.210

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人々がその漢字であると共有して受け取れる範囲が「字体」なのだそうです。これは、そうなんだなと思いますが、人によっても許容の範囲が違いますし、また時代によっても変化していくものでありそうです。


どこまでを「細かな違い」とするか

「字体の共有」は、深く考えていくと、簡単にはまとまらないものなのかなーって感じています。

たとえば、「友」という漢字について、1画目をはねた字形を「細かな違い」とできるのでしょうか?

わたしは、この字形が「皮」にも見えてしまって、どっちかなあと思ってしまいます。(いや、「皮」には見えないですね。でも「友」にも見えなくなるかなあと)

また、2画目をつき出さない字形はどうでしょう?

この字形は、「反」にも見えるなあと……。

これらを「細かな違い」とするかは、人それぞれの感覚によるということでしょうか。


とはいえ、指針では「女」の2画目や「聞」の13画目など、常用漢字全てについての「細かな違い」の例を示しているので、そこははっきりと「許容」であるとすることができると思います。

今まで「誤り」とされてきた差異がいくつかあるので、そういった教材を作る際は気にしていかなければならないでしょう。

それ以外の違いは、資料に書かれている基準をもとに考えながら、細かな違いの字体であるかどうかを「柔軟に」判断していく必要がありそうです。

資料が公開されたばかりなので、まだまだこれから考えていかなければならないですね。

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とんぼぎり

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