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意外に知らない?賃貸借の更新料のお話

1 はじめに

皆さん、こんにちは。弁護士の利根川です。

今日は、賃貸借契約の更新料のお話をしたいと思います。
更新料は、私が弁護士業務をしている中において、不動産業者の方から、意外にご質問が多いテーマの一つです。
賃貸オーナーの方の立場からすると、更新料も貴重な賃貸収入となりますので、更新時に請求できないということが生じないようにポイントを押さえておきましょう。

2 更新料とは?‐実は法律では決まりはないんです

更新料は、賃貸借契約の期間が満了し、契約が更新される場合に賃借人が賃貸人に支払うお金を意味しています。
通常、更新料としては、新規賃料(更新後の賃料)の1~2か月分程度の金額が設定されることが多いのではないかと思います。
現在の賃貸実務においては、住宅、店舗、事務所など使用の用途を問わず、ほとんどの賃貸借契約において更新料の定めがなされているのではないかと思います。

しかしながら、意外なことに、更新料については、民法や借地借家法等の法律において規定はありません。
そのため、契約において、更新料の合意(更新料支払特約)がない場合には、更新料を請求することはできないのです。

上でも述べましたように、現在では殆どの賃貸借契約書において更新料の定めがあると思いますので、一般に出回っている賃貸借契約書の雛形などを使う場合には問題はないと思いますが、雛形などを使わずに賃貸借契約書を新たに作成する場合などには、更新料の定めを忘れることがないように注意をしましょう。

なお、余談ではありますが、過去においては、「更新料支払特約が消費者契約法に違反するのではないか」ということが多くの裁判例で争われていた時期がありました。
裁判例の中には更新料支払特約を無効とする裁判例などもありましたが、最高裁判所において、「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。」と、原則的には有効であるとの判断が示されて、決着がつきました(最高裁判所平成23年7月15日判決)。


3 法定更新の場合に更新料を請求できる?

「法定更新の場合に更新料を請求できますか?」
この質問、実は、多くの不動産業者の方から聞かれる質問です。

まずは前提を整理しましょう。
普通賃貸借契約においては、契約期間が満了時に賃貸人・賃借人が契約を合意更新しない場合でも、賃貸人が期間満了の1年~6ヶ月前までに更新拒絶の通知をしない限り、契約は期間の定めのない契約として更新されることになります。
これが「法定更新」という制度です(この法定更新があるためにオーナー都合による立ち退きが難しくなるのですが、そのお話は別の機会に…)。

実務でよくあるパターンとしては、賃貸人が更新契約書を送付しても賃借人が返送せずに合意更新ができない場合や、賃貸人側による立ち退き交渉が頓挫してなし崩し的に法定更新に入ってしまう場合などがあります。
この場合、法定更新がなされた後に、賃借人に更新料を請求することができるのでしょうか?というのが問題のテーマです。

結論からいいますと、賃貸借契約書において、「法定更新であるか、合意更新であるかに関わりなく、更新料として賃料の〇カ月分を支払う。」と明記されている場合には、法定更新の場合も更新料を請求できますが、それ以外の場合は、請求が否定される可能性があります。

まず、法定更新の場合も更新料が発生する旨が明記されている場合には、最高裁判所の判例(最高裁判所23年7月15日判決)で特約が有効であるとして、法定更新の場合にも更新料の支払が認められています。

一方、上記の様に法定更新の場合が明記されていない場合、例えば、「更新の際、賃借人は賃貸人に対し、更新料として新賃料の〇カ月分を支払う。」とだけ記載されているような場合ついては、最高裁判所の判例はなく、下級審裁判例では肯定・否定で判断が分かれています。
この点については、最高裁判所の判断が待たれるところではありますが、少なくとも現時点では、裁判になった場合に請求が否定されるリスクもあるといわざるを得ないでしょう。

4 まとめ

このように、更新料については法律の定めがないため、賃貸借契約書においてしっかりと明記する必要があります。
また、この場合、法定更新になる可能性も踏まえて、「法定更新であるか、合意更新であるかに関わりなく、更新料として賃料の〇カ月分を支払う。」と記載しておくことが、オーナー側のリスクヘッジになりますので、賃貸借契約書を作成するときに注意をしましょう。

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