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100万人が使うWebサービスのマネタイズがなぜクラウドファンディングなんだ

僕は、平日弁護士として働く傍ら、空き時間を使って社会人や学生の仲間たちとNPO法人Mielkaという組織を運営しています。

今回はこのNPOが運営するWebサービスのマネタイズについて赤裸々に話してみようと思います。

Mielkaは「民主主義をアップデートする」をビジョンに掲げ、教育事業などを進めています。その中でも僕は、「データ、デザイン、テクノロジーを使った民主主義のアップデート」に関する事業を推進しています。

その事業の一つとして、参院選に向けて新たに「JAPAN CHOICE」というサービスを先日リリースしました。

このサービスでは、政治的中立の立場を堅持しながら、候補者比較政党の政策比較自分の思考と政党との一致度(投票ナビ)与党の公約実現度行政予算の使いみち世論の動きなどを全て見ることができます。

前回のアメリカ大統領選挙をリサーチャーとして現地で経験した際、「日本には信頼できる政治情報プラットフォームがない」と感じ、構想を練っていたのですが、今回それが実現した形です(もちろん、まだまだやりたいことはあるのですが)。

実は2017年の衆院選でも、突貫工事で、情報量も全然少ない中でこのサービスをリリースしていました。結局10日間で300万PV、約30万人ものユーザーの方がサービスを利用してくださいました。

今回は大幅にサービス・情報量を追加したこともあって、100万人を超えるユーザーに使用していただきたいと思っているのですが、そんなJAPAN CHOICEのマネタイズは実はクラウドファンディングなんです。

安易にNPOだからクラウドファンディングに頼っているわけではありません。実はそこにものすごくこだわりがあるのです。

データは絶対売らないことに決めた

最初にマネタイズを考えた時、最も有力だったのは、このサービスを通して取得できる様々なデータを売ることでした。
実はこのサービス、投票ナビやページ遷移を分析することで、ユーザーの属性とともに政治志向や政策への賛否という非常に重要なデータが取れる仕組みになっています。しかも、前回の衆院選では8万人以上の方の回答を得たため、特に若年層の政治的行動を知る意味では、日本で最大規模のデータとなりました。

これを欲しがるのは、政党や政治家、メディア、選挙コンサル会社、広告代理店などです。ビジネスになるほど、きちんとしたマネタイズ案だと思います。

でも、これは絶対にやらないと決めていました。
EU離脱の国民投票の際、Facebookが選挙コンサル(ケンブリッジ・アナリティカ)に個人データを横流しし、大問題に発展したのは記憶に新しいかと思います。プラットフォーマーによるData Abuse(データの悪用)がこれほど社会問題化している中で、自分たちが同じことをするわけにはいきません。
また、JAPAN CHOICEを使用してくださっているユーザーの方々は、僕らがそんなことをするはずないと信じて使ってくださっているはずです。その信用は裏切れない。

だから、このサービスで取れるデータは絶対に売らないことに決めました。

有料課金化も絶対にしない

次に思いついたのは、このサービスを(一部でも)有料サービスにし、課金してくださった方のためのものにすることです。

しかし、これも絶対にしないと決めました。
いま新聞大手のWeb版は会員限定記事を多数作成しており、選挙関連の報道も会員限定のものが少なくありません。
しかし、有権者の「知る権利」のために存在する情報プラットフォーマーが、「お金を出した人にしか見せません」はないでしょうと。もちろん、そのようにしないと継続性がないことは確かですので、新聞のスタンスを批判しているわけではなく、少なくとも僕たちはそういう矜持をもって、最後まで全て無料のサービスにしようと。そう決めました。

広告も絶対に入れない

さらに、よくあるマネタイズは「広告」ですよね。サービス内にバナー広告を入れたり、あるいは政治家や政党から広告を入れたりするものです。

前者は単純にダサいし、UXを疎外するためにしたくなかったのですが、後者は僕たちNPOの存在意義である「政治的中立」を根幹から揺るがすものだったので、絶対にやらないと決めました。

組織的な寄付も受け付けない

こうなると、いよいよ寄付しかなくなってくるわけですが、これもやらないことに決めました。
理由は、組織的な寄付を受けた場合、その組織に対して足を向ける行為ができなくなってしまうため、そしてどんな組織も往々にして何らかの政治的利害を有しているためです。(詳細は省きますが、全く別の活動で苦い経験があったのです。)

政治的中立を維持するって本当に難しい。

このサービスには価値があるのかを聞いてみたかった

とまあ、様々なマネタイズ案について「やらない」と決めてきたのですが、クラウドファンディングにした最大の理由は、「このサービスには価値があるのか」を世の中の方々に確認してみたかったのです。

自分たちがしていることは実は独りよがりなんじゃないか、意味のないことなんじゃないかという不安は、リリース後も常に付きまとう不安です。だから、ユーザーの皆さんにほんの少し勇気がほしかったという。

もしこのクラウドファンディングが達成できなかったなら、それはたぶん、このサービスがそれだけの価値しかなかったということです。今回のサーバー費用や開発費はもちろん、次に来る選挙ではJAPAN CHOICEはもうないでしょう。

僕がJAPAN CHOICEを運営し、取材で言葉を紡ぎながら改めてわかったことは、このサービスは「有権者が民主主義を自分たちのものにするためのサービスなんだ」ということでした。
政治家やメディアは、やれ争点が年金だ、消費税だ、憲法だといいます。そして、当たり障りのない「中立」を維持しようと、「今日も各地で舌戦が続きました」と報じ続けます。
そして、どこの誰が運営しているかもわからないSNSアカウントから不安や対立を煽るポストが次々に流れ、社会はどんどん分断されていきます。

そうじゃない。本当に必要なのは有権者一人ひとりが自分なりの争点で、自分なりの基準で正解を出すことなんです。民主主義のイニシアティブをもう一度有権者が握るために、データ・デザイン・テクノロジーを使ってサポートする。それが僕らのJAPAN CHOICEという試みです。

長文になってしまいましたが、ぜひ遊びに来てください。
そして、少しでも価値があると思ってくださった方はご支援のほど、よろしくお願いいたします。(以下のバナーからクラウドファンディングのサイトに飛びます。)





図書館が無料であるように、自分の記事は無料で全ての方に開放したいと考えています(一部クラウドファンディングのリターン等を除きます)。しかし、価値のある記事だと感じてくださった方が任意でサポートをしてくださることがあり、そのような言論空間があることに頭が上がりません。