トランプ支持は本当はたった2%?本当のアメリカを知りたいためのヒアリング

投票日まであと38日となりましたアメリカ大統領選挙。第1回の公開討論会を終え、次は明後日開かれる副大統領候補の公開討論会を控えます。現時点ではなお優勢とされるヒラリー氏ですが、今回の選挙は全く予想ができないもので、今後の討論会やスクープ報道、そして激戦州でのキャンペーンはまだまだ目が離せません。

私はいま激戦州の一つ、フロリダ州はマイアミに来ているのですが、やはり激戦州になると選挙キャンペーンの数が違います。至るところで驚くほどのキャンペーンが展開されています。そして、これはフロリダ州だけなのかまだわからないのですが、民主党・ヒラリー陣営のキャンペーンが数多く見受けられます。ボランティアも資金も不足しているとされるトランプ陣営ですが、その余波なのか、Grass Roots(草の根)戦略では相当厳しい戦いが強いられているように感じます。

そんな中、一旦頭の中にある私の疑問を解消したくなり、少しイレギュラーではありますが、政治学の専門家に疑問をぶつけることにしました。お聞きしたのはミネソタ大学教授マット・フィルナー先生。色々と目からウロコな情報もあると思いますのでぜひお楽しみ下さい。


トランプを支持しているのはアメリカ国民の2%

−現時点の世論調査でトランプ氏に投票すると答えた人の数は、ヒラリー氏に劣るとも、肉薄しています。日本では「トランプ現象」という言葉ができるほど、なぜこれほどトランプ氏に支持が集まるのかに注目が集まっているのですが、それほど政治に対する怒りや不満というのがたまっているということでしょうか。

もちろん政治に対する怒りや不満というのは一つの原因でしょう。これまでたくさんの識者が見解を出しているとおり、トランプを支持する人々はいわゆる一般的な共和党支持者とは異なっている場合も少なくありません。しかし、認識していただきたいのは、日本と違ってアメリカは二大政党制だということです。もう少し詳しく説明しましょう。

二大政党制のもと、まずは民主党と共和党の各党で大統領選挙に出馬する候補者を選出します。そして共和党の候補者としてトランプ氏が選ばれた。しかし、共和党の予備選挙にどれだけのアメリカ国民が関わるのかはご存知ですか。答えは4%です。アメリカ国民のうち共和党の予備選挙で投票するのはたったの4%です。そして当初16候補いたなかで、票が割れていき、4%の共和党員のうち2割の得票率でトランプが最後の3候補者に残ります。そして最終的に3候補者の中で5割の支持を得て、トランプ氏が共和党の候補者に選ばれました。

もうおわかりでしょう。アメリカ国民のうち、共和党の候補者にトランプ氏を選んだのはたった2%(4%の国民の5割)だけなんです。

−しかし、現在の支持率は4割ほどと出ています。

そう、それが日本には理解されにくいところかもしれません。先ほどもお伝えした通り、アメリカは二大政党制なのです。共和党の候補者としてトランプ氏が選ばれたのであれば、共和党支持者らは彼を支持します。それにはもちろん民主的手続きを経て選出された候補者へのリスペクトもあるでしょう。ですが同時に、他の政党(民主党)に対して投票などできないのです。あまりにも違う。
そして、たしかに白人の低所得者層や労働者階級が強く彼を支持しているのですが、高所得層や黒人コミュニティでもトランプ氏に投票する人は当然います。それはトランプ氏を支持しているのではなく、共和党を支持しているのです。


「嘘つき」キャンペーンの成功

−なるほど。つまり、今回の選挙で共和党支持者の中に投票を棄権する人がいそうだというのはむしろ共和党を支持していてもトランプ氏には投票したくないという人もいるということなのですね。腑に落ちました。
では逆にヒラリー氏について。ヒラリー氏は「Liar(嘘つき)」というイメージが相当根付いているように感じるのですが、これはメールサーバー問題や政治的な態度をコロコロ変えたりするところに起因するのでしょうか。

これは共和党のキャンペーンが成功した例の一つです。世論がこれほど移ろいやすいのだということをこの件は教えてくれます。実はヒラリー氏は上院時代本当に人気のある政治家でした。オバマ以上に世論を味方につけていたといっていいくらい、彼女の支持率は高かったのです。

しかし、ビル・クリントン大統領の時代、1996年に共和党のウィリアム・サファイアが彼女を”Liar”として非難し始めます。当初はそれほど大きなダメージもなかったのですが、共和党はわかっていました。言い続ければ世論は彼女を”Liar”として見始めると。そして共和党は彼女を”Liar”と言い続けます。その結果、いつの間にか彼女のスキャンダルなども絡んで彼女は”嘘つき政治家”としてのイメージが出来上がってしまいました。

−それほど高い支持率だった人が”Liar”というだけで…。他になにかヒラリー氏の支持率が上がってこない要因はあるのでしょうか。

「女性」というのは大きいでしょうね。これはあなたが他のたくさんのヒアリングでも聞いていることだと思いますが、強い女性のリーダーがホワイトハウスを動かすことに抵抗を抱く人が一定数います。これだけダイバーシティのある国家なのに、女性指導者の誕生がドイツやイギリスよりも格段に遅いのはそういうことも根深いのです。

ちなみに、健康問題はそんなに気にする問題ではないと考えられています。これも世論が移ろいやすい実例ですが、ヒラリー氏が健康でいることが1ヶ月も続けば誰も忘れてしまうのです。もう報道も減ったのと同じで。トランプ陣営が暴言で揺らがないのと同じく、ヒラリー陣営もこれでは揺らぎません。


世論調査などどれも信用すべきでない

−次に世論調査についてお聞かせください。日本でもマスメディアが様々な世論調査を行うのですが、各社によって異なるとはいえ、ある程度のリテラシーをもって見ればそれなりに世論の実像を掴めると考えています。しかし、アメリカの世論調査は本当に玉石混交、というよりどれが玉でどれが石かもわからないくらい、様々な主体、様々な結果があります。何を信じればいいのでしょうか。

答えは「どれも信用しない」です。一つの世論調査だけを見て、世相を考えてはいけません。50州もある国で、州ごとに一定数の母数でアンケートを取っているものもあれば、50州全体で一気に調査しているものもあり、母数と調査内容によって大幅に結果は変わります。アメリカレベルでは、2万人の母数でも足りません。そこで提案としては、複数の世論調査を見る、あるいは複数の世論調査を踏まえて結果を出しているものを見るということです。Nate Silverが主宰するFiveThirtyEightはこの中では権威です。ハフィントンポストやワシントン・ポストも複数横断の調査結果を出していたと思います。

−11月8日の投票日は、大統領選挙のみならず、連邦議会の選挙もありますよね。あ、州議会の選挙があるところもあるんでしょうか。こちらの状況についても教えてください。

おっしゃる通り、今回の選挙は大統領選挙のみならず、連邦議会も含まれます。というより、上院は2年毎に3分の1が改選(今回は100名中34名)、下院は任期が2年なので、大統領選挙のときは必ず連邦議会の選挙があります。そして、これも議院内閣制の日本とは大きく異なるところですが、行政府の長たる大統領には立法権限がないので、立法権限を独占する連邦議会には大きな権力が認められます。現在、大統領は民主党のオバマ大統領ですが、連邦議会は上院も下院も共和党が多数です。正確には上院100議席のうち共和党54議席、民主党46議席、下院435議席のうち共和党246議席、民主党186議席(空席3議席)です。

今回の選挙で上院は改選34議席中9〜11議席が接戦、下院は435議席中44〜47議席が接戦とされていますね。下院は共和党が相当議席を持っていましたから、ある程度議席を失うと思われますが議会多数を握るでしょう。しかし上院はわかりません。今のところ民主党が過半数を握るのではないかという予想もありますが、1議席の取り合いになると考えます。
ですので、私の今の予想では、ヒラリー大統領、上院が民主党多数、下院が共和党多数というねじれ状態が生じると考えます。ヒラリー氏にとっては大統領に就任しても厳しい戦いが続きますね。


トランプ大統領が誕生したら共和党は分裂する…?

−では、仮にトランプ大統領が実現した場合には何が起こるのでしょうか。

おそらく下院は共和党が多数を握るので、トランプ大統領と下院共和党の折衝が共和党内で行われていくのでしょう。妥協に次ぐ妥協です。本来のあるべき姿からはかけ離れた妥協点に落ち着く。大統領とはいえ、拒否権はそれほどたくさん使えませんし、立法に関しては議会に頼むしかないですから。実はそれほど好き勝手にはできないのです。
トランプ氏が勝った場合のシナリオとして考えうるのは、共和党の分裂です。いわゆる1990年以降の共和党を支えてきたネオコンとは全く思想が異なる大統領なわけですから、彼についていける支持者はついていき、ネオコン層は新たな政党を作る可能性があります。こうなるとアメリカの二大政党制は大きく崩れることになります。

ただ、私の予測ではトランプ氏は負け、共和党はポール・ライアン下院議長の時代になります。彼を軸に党内がまとまり、ポール・ライアンを次の大統領にという流れができるだろうと考えています。こうなった場合、特にこれまでとは変わらない政治が続くことになりそうです。

−今日はお忙しい中ありがとうございました。

以上、僕の中でもやもやしていた部分がいろいろと払拭されました。今回は専門家へのヒアリングということで少し難しくなった部分もあったかもしれません。ぜひコメントや@tonghwi17で「ここがわからなかった」などとご質問いただければ、頑張ってどこかの機会でお答えしてみようと思います。
さて、いよいよ明後日は副大統領候補の公開ディベートです。前回のヒラリーvsトランプのように、ティム・ケインvsマイク・ペンスの見どころまとめスライドを明日と明後日に作ってみようと思いますので、お楽しみに!

※僕のインタビュアーとしての弱点に気づいたのですが、メモをとるのに必死で写真を撮り忘れてしまうことでした。全く写真がなくてすみません。笑

以上、現場からとんふぃでした@雨が降らないのに雷の鳴るマイアミ(夜12時)

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