一歌談欒vol.1

.原井さんの企画、「一歌談欒」に参加させて頂きます。一つの短歌に対してそれをテーマに自由に文章を書こうとの企画をツイッターでお見かけし、参加してみたいとこの記事を書いています。どうぞよろしくお願いいたします。

(.原井さんの企画ページ:http://dottoharai.hatenablog.com/entry/2016/10/10/233037)


今回の課題短歌は

おめんとか

具体的には日焼け止め

へやをでることはなにかつけること

(今橋愛)

です。

まず一行目ですが、二行目において具体的には~と語り始めていることから、ここでのおめんというのはおめんという物自体ではなく仮面、何かを覆うもの、隠すものといった暗喩として使われていると考えました。二行目においては具体例を挙げてイメージを補強し、三行目により一般的なまとめ、総括をもってきて締めている短歌だと思います。

この二行目における日焼け止め、という言葉の選び方には違和感を覚えるひともいれば、納得するひともいるところだと思います。私自身は違和感を覚えた方でした。

それはこれがはじめに述べられているように「具体例」、個々の例のひとつとして挙げられているもののひとつだからではないかと思います。お恥ずかしい話ですが私自身、外出するにあたって日焼け止めを塗ることはサボりがちだったりして、出掛けるために最低限、とりあえず行うこととして日焼け止めは当てはまりません。そのため、ここはいまいちピンと来ませんでした。

でもここに入るのはたぶん、必ずしも日焼け止めでなくてもいいのではないでしょうか。それは歌の中で想定されているひとーーそれは歌人ご本人かもしれないし、架空の人物であるかもしれませんーーにとっての部屋を出るために最低限必要なのが日焼け止めを塗ることだったという意味です。部屋を出ること、外界へと出ていく時に超えるべきハードルというのはそれぞれ違います。別のだれかにとってそれは「顔を洗うこと」かもしれないし、「化粧をすること」かもしれません。化粧ひとつとっても、うっすらと施せば十分と言うひともいれば、フルメイクでないと安心できないと言うひともいます。「きれいな服を着ること」と答えるひともいると思います。また「髭を剃ること」かもしれないし、「髪をセットすること」であったりもするでしょう。「全部」と答えるひとだってきっといます。もし私だったら「マスクをすること」と答えると思いますし、この二行目は情緒もへったくれもありませんが「具体的には白マスク」とかになっていたかもしれません。

これはわたしの主観的で感覚的な話ではあるのですが、自分のパーソナルスペースである部屋を出るって結構大変で、力が要ることです。いざ出かけようと思っても寝起きの状態からバタバタと身支度をして、顔を洗って髪を梳かし、歯磨きをして服を着替えてから化粧をしてなんてことをしていたら三十分くらい経っていたというのはざらにあることで、もう出かける前から疲れてしまっていたりします。でも、部屋から出ることのハードルにも程度というものがあります。近所のコンビニにちょっと行くのとか、学校に授業を受けに行くとき、また職場で仕事をするとき、はたまたデートのとき、とそれぞれに部屋を出る際に必要な準備、やるべきこと、ハードルというのは変わってくると思います。被るおめんは、たぶんみんな違います。

そして、そのハードルが違うということもまた、個々人で程度が違います。

デートのときにフルメイクでおろしたての服を着てばっちり気合をいれるひともいれば、すっぴんでラフな格好でいくひとだっています。でもそのどれもがそのひとなりに「なにかをつけること」を実行した結果なんだなあと、そんなことをこの短歌を読んでいて考えました。先の例でいえば、フルメイクで出かけるひとがすっぴんで出かけるひとを仮面をつけていないと断じることはできないという話です。一行目と三行目がひらがななのも、なにかを断定することなくそうした個人個人の「おめん」の定義の曖昧さ、多様性の余地を残しているように感じられました。二行目の漢字表記は、この歌で想定されている個人にとっての事実なんだろうな、とそんな風に。

へやのそとにでる、というのは外の世界と自分との距離を適切に測ることだと思います。それは上で述べたようにちょっとコンビニへ、だとか職場で仕事だとか、そういったことで変動して、その度にわたしたちは違うおめんを選んで被っているのでしょう。わたしにとってそれはどういうものなのか、また身近な誰かにとってのそれはどんなものなのか、とりとめもなく考えるのもまた楽しいですね。

なんだかまとまらない文章になってしまいましたが、この感想文はここでひとまずおしまいとさせていただきます。ここまで読んでいただきありがとうございます!



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