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Story: One Team! ~ グローバル経営は幻想じゃない ~ ⑦

クリシマ先輩はかなり酩酊に近い状態になってきた。でも、言葉はしっかりとしていて、その魂の叫びみたいな想いはしっかりと伝わってきた。
「しだいに、社内の雰囲気は暗くなってきた。 『このままじゃおかしい』ってことを言うことがみんなできなくなってきたんだ。みんな、慎重に構えて、当たり障りのない言動でもって、減点を避ける、そんな集団になってしまっていった。 問題意識をもって組織職の責任者に何かを働きかけるだろう、その時のリアクションは決まって『今の何が悪いんだ!?』 というものだった。」
「それは、クリシマ先輩をもってしても変えられなかったんですか?」
「おいおい、お世辞みたいなこと言うなよ。組織職、つまりミドルマネジャーは、何かを変えようという気概のあるやつはほとんどいなかったよ。」
「ミドルマネジメントが問題だったんですね?」
「それだけじゃない。その一方で、トップはいつもいつも販売部門には『なんで目標に届かないんだ!?』とか『あとどれだけ数字を積み上げられるんだ!?』って、ケツたたいてな。。。業績目標に届かないのは、トニコバよ、自分自身の通信簿の評価がダメだっていうことなんだ。トップは先ず、『自分のやり方考え方の何が悪いんだ?』って考えるのが先のはずなんだ。それなのに、現実に起きていたのは、『業績目標が達成できないのはすべてお前らが悪い!』っていうトップの他責の経営だ。」
「トップが部下に責任擦り付けてきたんですか?」
「そうだよ。俺は、ずっとその姿を横目で見てきたよ。いつも無理くり高い目標を現場に押し付けておいては、『お前らが立てた目標だ!』と言ってはとことん現場を締め上げる、そんなことの繰り返しだ。」
「確かに、僕がアメリカでにいるときは僕たちに対する本社の姿勢ってずっとそうでしたね・・・」
「俺はトップのサポートをしながら、傍らでいつもトップは大事なものを忘れてないかって感じてた。それはだな、自分の想いというものだ。」
「自分の想い、ですか?」

「どういうことかって言うとな。目標を立てる、ということはその目標を達成することで会社が次のステージに上がるってことだろ。だから、目標を何でやらなあかんのか、社員はその意味合いがほしいんだ! それが全然社員には伝わらなかった。ミドルマネジメントが事なかれ主義みたいなポンコツになってししまったのはそういうトップを含む経営層の想いの欠落が原因だ!」
「経営の想いの無い中だからこそミドルマネジメントが頑張らなければいけないんではないですか?」
「できなかった。あいつらを動かすことはできなかった。俺は自分の無力感に厭戦気分に陥ったよ。経営へもミドルマネジメントへも何も変革を仕掛けられなかった。だけど、 経営が会社を無茶苦茶にしたと俺は思てるよ」。
「クリシマ先輩、だいぶん、酔っぱらってきてませんか?」
「すまん、すまん。でも最後に言っておく。ええか、会社の中では耳触りの良いこと言って偉くなってる奴がたくさんいるけど、そんな奴はほっとけ。この会社はこつこつ真面目にやっている人間がたくさんいる。実はそいつらが会社を支えてるだ。そんな奴らがおるかぎりこの会社は大丈夫や。決してそいつらを蔑にするなよ。
これからお前が経営の舵取りのサポートするんだから、それだけは肝に銘じて仕事にあたってほしんだ。」

クリシマ先輩と酌み交わす酒はいつも楽しい。でも今日はなぜかほろ苦い酒だった。
そして、僕の本社での仕事が始まった。苦しい闘いになることにはその時は一切気づかなかったけど・・・・

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