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Story: One Team! ~ グローバル経営は幻想じゃない ~ ④

僕は紹興酒の勢いもあったのか柄にもなく熱く語り始めた。
「ローカルの人材に対する目利きというのは確かに苦労しましたよ。なかなか彼らの能力を見極めると言うことは難しいです。 でもね、僕は一緒に働いた仲間たちはみんなそれなりに優秀だったし、何よりも日本人に対して尊敬の気持ちを持っていましたよ。
市場が伸びていたからだって先輩は言いますけど、僕にも市場の伸び以上に事業を拡大してきたっていう自負があります。
それも日本人と現地人が一体になって会社を盛り上げていたからですよ。
ぼくたち日本人駐在員の役割は本社が出してくるピント外れの指示、と言っちゃ言い過ぎかもしれませんが、それで現地人の気勢が削がれないようにうまく意図を伝えることだったと思います。僕たちは体を張って実践してきました。
『グローバル化』とか『グローバル経営』って言葉が踊っているように聞こえるのですが、現場は強いローカル人材、組織をどう築き上げるか、ということが一番大事なのです。
本社はなるだけ口を出さないでお金だけ出せばいいのです。そうずっと思っていましたよ。
だいたい本社からの指示っていうのはいつもボケていましたからね。そんなものを本社の戦略だと言ってそのまま現地の人間に差し出すと完璧にしらけちゃいますよ。それほど本社の現場に対する無理解ぶりはひどかったですから。」
それまで黙って聞いていたクリシマ先輩が再び話し始めた。
「あのなぁ、お前の言うことは否定はしない。本社と現地の間が100万光年ぐらい距離感があったというのは俺も実感していた。でもね、社長や役員が英語喋れなくたって本社には英語を喋れるやつはたくさんいる。でもお互いなんで話が通じなかったのかな?本社と現地の幹部同士がじっくり膝突き合わせて話し合えば分かり合えると思う?少なくともどこに見解の相違があるのかがわかる。でもそんなこと俺がいる間に一度もしなかった。。。
そこには言葉の問題があったわけでもないし、なぜそれができないのか?わかるか?」
その質問に僕は答えが詰まった。
「それは本社の経営陣が上意下達で異論を許さないという暗黙知があったたということでしょうか?」
僕の言葉にクリシマ先輩の目が笑った。
「あなな、クロッカス電機にとって『グローバル経営』というのは幻想に過ぎなかったんだ。」
「クリシマさん、どういう意味ですか?」
「それはね、普段、本社のお偉いさんたちがいつも目標未達だとか、KPI未達だとか、ノルマ未達だとか、って騒いでいるのをみるだろう?俺もさ、役員会の司会やってる席で社長からなぜコミットした数字に届いかないのか?!って、目をひん剥いて叫ばれたこと何回もあったよ。
でもさ、懲りもせずに毎年無理やり高い目標値を掲げて、未達、未達と年中騒いでいる、それが実態だった。なぜこの目標をやらねばいかんのか?その目的をみんな見失っていた。トップが言うからだ、と?それで会社の歯車は廻るか?なんでこの数字をやるのか?この数字をやりきる意味は何かをみんなで共有できたときにはじめて組織としてパワーが出るんじゃないか?」
「グローバルで繋がっていないということですか?」
「そうなんだ。わしらスタッフは目標管理制度とかで、グローバルベースのKPIをしこたま作ってきたよね。毎年、毎年、KPIつくれば計画達成したかのような空気になって・・・。予算審議会の席で社長に対して各役員はKPIをコミットさせられるんだ。でもなKPIの"I“はIndicatorや。ただの基準値や。それを達成する意義は何や?達成したら会社や俺たちはどんな良いことが有るや?それがわかってないで腹に力が入るか?
現実にはな、みんな委縮してしまってな、役員会議の席ではできるだけ大人しく存在感消して、怒りの矛先が自分に向かないようにトップの言うことに頷いている、そんな役員ばっかしやったよ。
話がちょっと逸れたけど、要は本社が現地に数字目標しか出せなかった、グローバルで一つになって何を目的にするのかということができなかった。」
クリシマさんは力なく笑った。

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