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ヨーグルトへの深すぎる愛情inブルガリア

6月にブルガリアではバラのお祭りがある。とてもかわいらしいお祭りで、バラを摘んだり、民族衣装に身を包んだ子供達が踊ったりする。
観光客も年々増えてとても毎年大盛況。かわいらしいお祭りなので是非機会が有れば見てほしいお祭りだ。


ブルガリアといえば、見所は、リラ僧院や、ボヤナ教会、トラキア人の遺跡など。

また中心地となるソフィア市街では遺跡や、イスラム教やユダヤ教、ロシア正教の教会があるので、同じ地域のなかで色々な文化の空気を感じることが出来る。

バラの咲くシーズンには公園などに咲いているバラが美しく、バラ製品のお土産探しも楽しい。

そしてヨーグルト。

「ブルガリア=ヨーグルト」

これは、私たち日本人が一度は目にしたことのある言葉の組み合わせだと思う。
コンビニやスーパーへいった時に乳製品コーナーで必ずと言っていい程目にする。

そしてこのイメージはここ、ブルガリアに来て、さらに強烈に印象づけられたのである。

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ブルガリアをあちこち見て回った旅のとある日。
宿泊したホテルにキッチンが付いていたので、節約を兼て夕飯をホテルで食べる為に、スーパーで買い物をすることにした。

お土産になる物も見つかるといいな・・・。と思いながら近くのスーパーへ。

行ったのは普通のスーパーマーケットである。
入り口には野菜が置かれ、冷蔵スペースには肉、魚。ハムやチーズなどもある。
お惣菜も充実していて買って温めて食べるパスタや肉料理、サラダなど種類も豊富で魅惑にあふれるラインナップだ。
お酒も種類が多い。そして、お菓子はどれも、外国のスーパーならではの大きめサイズ。
お菓子が大きいサイズなのは嬉しい。心が躍るのを隠し切れず、うろうろしてしまう。

さて。乳製品のコーナーに差し掛かった時である。
冷蔵棚がスーパーの奥の方までまでずらっと並んでいる。
見てみると、牛乳、チーズ、ヨーグルト、ヨーグルト、そしてヨーグルト・・・。

・・・?

え?

サイズも広さも同じ棚。その乳製品のコーナーには牛乳やチーズに使う棚は1つなのに対し、ヨーグルトは3棚が与えられていた。そして異常なまでの数、ヨーグルトが並んでいた。

ヨーグルトのサイズがとても巨大だから場所をとっている・・・それで3棚もヨーグルトが占拠しているのかな。と思った。しかし、そういうわけでもなさそうだった。

棚には、日本で見かけるよりも少しだけ大きな1回食べきりサイズのヨーグルトが無数に並べられているのだ。

日本なら、食べきりサイズのヨーグルトが数種類と300~400gくらいの大きいパックのヨーグルトが数種類、バリエーションも果物が入っているもの、プレーン、脂肪や糖の量が調整されたもの・・・くらいが並べられているくらいだと思う。
たくさんと言っても冷蔵の棚が1つで収まるくらいだ。

では何故、ここのスーパーは3棚もヨーグルトを並べるんだ・・・。

その謎は棚に近づくと徐々にわかってきた。

1棚目:1~3段目 プレーンヨーグルト
    4~5段目 低カロリー(低糖、低コレステロールなど)ヨーグルト
2棚目:1~3段目 フルーツ系ヨーグルト
    4~5段目 またしても低カロリー(低糖、低コレステロールなど)ヨーグルト
3棚目:1~3段目 おやつ系ヨーグルト
    4~5段目 サイズが大きめのヨーグルト

各メーカ-が恐ろしいほどの種類、ヨーグルトを出しているのだ。

まず、棚に3段分ものプレーンヨーグルトだ。種類にして25~30は並べられている。
味のバリエーション・・・といってもプレーンヨーグルトだ。これだけの種類の需要があるというのか。

低カロリー系のヨーグルトに至っては1棚目、2棚目の下段をずらっと占領している。この国にも健康ブームが到来している様子だ。プレーンの数よりも種類をそろえていて、糖を抑えたり、脂質を抑えたり、抑えるものがたくさん。そうまでしてヨーグルトを食べなければならないのか。ブルガリアよ・・・。

大きいサイズのヨーグルトにも、プレーンや低カロリーなどが揃えられている。大きさも日本では見かけない、リットルサイズのものがあった。
プレーンはともかく、低カロリーの巨大ヨーグルト。一気に食べたら意味がなさそう。家族で食べるとかであることを祈りながら他の段のヨーグルトにも目を向けてみる。

2棚目には目線の高さにずらっとフルーツ系のヨーグルトが並べられている。イチゴのヨーグルト。これは日本でも見かける。
隣もイチゴ。さらにイチゴ。イチゴ・・・。
驚くほどのイチゴヨーグルトの列。
各メーカーがこぞってイチゴヨーグルトを販売している。もしやこれはイチゴヨーグルトがブームということなのか。

そう思って次の段を見ると、グレープのヨーグルトだ。蓋を開けたら紫のヨーグルトなのだろう。イチゴのあとにグレープがあるということは色のついたヨーグルトを並べているのか・・・。
そんなことを考えながらパッケージを見ていると、これもまたグレープ。グレープ。グレープ・・・。イチゴ攻めの後はグレープ攻めの棚であった。
さらにアロエ、イチジク、オレンジ、ラズベリー、バナナ・・・日本で見かけるもの、あまり見ないもの、なんだかわからないもの。
イチゴヨーグルトのブームとかではなく、とにかく、果物なら何でも合うからいいでしょ!と言わんばかりのバリエーションが、その棚には並べられていたのだ。

そして最後に登場としたのがおやつ系のヨーグルト。
なんて呼んでいいのか分からないのでとりあえず「おやつ系」としてみたのだが、そのラインナップには

「チョコバナナ味」
「チョコミント味」
「チョコバニラ味」
「バニラ味」
「チョコレート味」
「はちみつレモン味」
「アップルパイ味」

今一度伝えたい。

私が今、見ているのはヨーグルトの棚だ。アイスクリームではない。
その証拠に私は今、冷蔵の棚を見ている。冷凍ではないのだ。

・・・なぜ、ヨーグルトに何故チョコレートを入れようとしたんだ。
バニラとかはちみつは何とか理解できる。
私もプレーンのヨーグルトならジャムやはちみつを入れたりするし、バニラ味のヨーグルトも日本で見かけたことがある。

でも、でもだ。チョコミントってなんだ。流行りなのか。ヨーグルトの酸味とミントの爽快感とチョコレートの甘さは口の中で大暴走しないのか。

チョコバナナヨーグルトだってそうだ。もうわざわざヨーグルトにしなくてもいいでしょ。ヨーグルトにしてまでチョコバナナが食べたいのか。ブルガリア人よ。そうなのか。

チョコバニラ味、チョコレート味まで・・・どこまで続くんだチョコレートシリーズ。とにかくチョコレートをヨーグルトに入れたいということか。もうそのままチョコだけ食べればいいじゃないか・・・。

そしてアップルパイ。
アップルはいいよ。リンゴのヨーグルト。美味しそうじゃん。でもパイってなんだ。パイの味をヨーグルトで再現するのか?むしろそのままパイを入れるのか?
一体、この棚が何なのか。完全に理解に苦しんで立ち尽くす。

すると隣からスッと手が伸びて、ヨーグルトをつかむ影が。
心の中でさんざん疑問を叩きつけた、あのチョコバナナ味が買い物かごに4つほど入れられていった。

あ、買うんだ・・・。

もちろん、これだけの棚の数。これだけのラインナップがありながら売り場が縮小されていないということは、需要があるのだ。

ちゃんと買う人がいるから成り立つ。
このバリエーションが定期的に循環できる程、これらのヨーグルトは購入されているのだ。

きっと、朝も昼も夜も食べて、それだけじゃ足りず、おやつにも必要になるくらいヨーグルトはこの国で必要とされている。

食べ過ぎて、飽きても、別の食べ物を食べるのではなくあくまでヨーグルトを食べ続ける為に味のバリエーションを増やしていったに違いない。
この棚にあるのは、異常なまでのヨーグルトに執着した愛情なのだ。

それならば。
この国に敬意を表して私もヨーグルトを買わなければならないのではないか。

基本の物と、怖くない範囲の味のものを選ぶことにした。
私が購入したのはプレーンとチョコバニラ味とアップルパイ味。

スーパーの店員さんもお会計の時にヨーグルトを見て「グッド」みたいなジェスチャーをしてくれる。

味がいいチョイスだったのか。それともヨーグルトを選んだことがよかったのかは分からないが、私はこのスーパーで「ヨーグルトを買う」という正しい行動がとれていたのだと思うことにした。

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ホテルに戻ってキッチンで早速ヨーグルトを食べてみることにした。

初日の夕飯はデザートにプレーンの物を。

最初はやはり普通の物から食べたい。

味は日本で食べるものと同じ味で、濃かったり薄かったり甘かったりなどもなく、程よい酸味で食べなれた味であった。
もちろん、スーパーの棚一面に並べる程かと聞かれるとそうでもないし、特別美味しいというわけでもないし、何かしらの感動があるかと言われれば、そんなものもなかった。

翌日。

朝ごはんにはチョコバニラ味のヨーグルトを食べてみることにした。

なぜわざわざチョコレートをヨーグルトに入れたのか。昨日、このヨーグルトを目にしたときに思った疑問は朝になっても抑えられない。そもそもチョコの味、バニラの香りでヨーグルトの味は消えてしまうのではないか。外国のお菓子にありがちな過度な味付けでどエライ味になってしまってるんじゃないのか・・・。

そんなことを考えながら、ひとくち。

おや?

ふたくち。

おやおや?

みくち・・・。

美味しい。
おやつ枠に入る味だと思うが、おいしい。
そりゃあ、チョコは美味しいし、ヨーグルトは美味しいんだからいいじゃないの。と思うかもしれない。そうなんだが、そうじゃない。

どれも味がケンカしてないのだ。
強すぎると回りの匂いを消してしまう威力のあるバニラの香りは押さえ目で、ヨーグルトの酸味やチョコレートの香りも感じられる。
チョコレートの甘さがあるがバニラの風味、ヨーグルトの味も感じられる。
どれもそれぞれが控えめに存在する上品な味だった。

侮った。

たまたま手に取ったヨーグルトでこの感動だ。同じく昨日、さんざんこき下ろしたアップルパイ味にも俄然期待が募る。

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夕飯のデザートに、アップルパイ味のヨーグルトを食べることにした。

期待はしている。
でも、頭の片隅には何でアップルパイ味とか作っちゃったんだという思いもある。

何でもかんでもヨーグルトにすりゃいいってもんじゃないのよ、ブルガリアさん。
などと考えながら蓋をあけた瞬間・・・

あ、これは美味しい。

まだ食べてない。
食べてないけど匂いがすでに美味しい。

リンゴとシナモンの香りがふわっとしてきて、その優しい匂いに自然と脳はアップルパイを食べた満足感を味わっている。

いや、騙されちゃいけない。
ちゃんと食べてから美味しいのかを判断しなければ。

・・・

・・・・・・

これは。

リンゴが入ってる。そりゃそうだ。アップルパイなんだからアップルが入ってないと。
でもただのリンゴじゃない。焼いてあるのか、何か香ばしい感じにされている。

あと何か、カスタードの味がほんのりする。ヨーグルトの酸味はちゃんと残っている。なんだ。カスタードとヨーグルト、合うじゃないか。

とくれば、パイはどこだ。
ヨーグルトの湿気でグタグタになったパイ生地が出てくるんじゃないか?
きっとそうだろう。

さんざん文句を言っていたのに美味しかったのが何とも悔しい。何かちょっとがっかりするようなポイントが欲しい・・・。
そう思って粗さがしをしていた私はまたしても裏切られるのだった。

スプーンを底に差し込んだ瞬間だった。

「サクッ」

!?

・・・!?

いた。
パイ生地だ。しかもサクサクの状態で隠れているとは・・・。

あの、プリンのカラメルがいるのと同じ位置。
表面を食べていたときとは違う、底からすくったプリンはカラメルと一緒になることで美味しさが増す。あの感動を思い出した。

プリンと同じ作戦にでたのか・・・!

それから黙々とそのアップルパイ味のヨーグルトを口に運び、味に魅了されながら完食したのだった。

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結局、どのヨーグルトもおいしかった。あのスーパーの棚に唖然とするほど並べられたヨーグルトはきっとどれも美味しいのだろう。

・・・チョコミント味だろうとバナナだろうと、よくわからない果物が入っていようと。

ブルガリアのヨーグルトへの深すぎる愛情と、どんな味にしても美味しい感じに仕上げてくる技術と、どんな味にしたヨーグルトも受け入れる人々の広大な・・・ホントに広大な心の広さと、彼らの好奇心を学ぶことのできたブルガリアの旅となった。

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