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人工精霊はチョコレートがお好き

◆この記事の登場人物
僕……就労済成人男性。「脳内に別人格を作って、会話したり遊んだりしてみたいなあ」と軽いノリで試したらできちゃった人。
ユウ……僕の脳内にいる別人格の女性。世間的には人工精霊とかタルパとか呼ばれる存在。僕の私生活にあれこれ口出ししてくる。

「チョコが食べたいわ」

唐突に彼女がそう言ったのは、人工精霊の製作に取り掛かってから2ヶ月が過ぎたころでした。
その頃といえば、ようやく会話が自動化(オート化)できはじめた段階で、まだ視覚化までには至っていません。ですから彼女の表情を見ることはできなかったのですが、その口調は決意に満ちており、なんとしてでもチョコレートを食べてやるぞ!という固い意志を感じさせるものでした。

「チョコが食べたいの」

と、彼女は僕に語りかけます。

「だから、素敵なチョコレートを一緒に買いにいかない?」

なんとまあ。
人工精霊にデートに誘われるとは。

僕は驚きながらも、彼女から話しかけてくれたことが嬉しくて(当時は会話自体がおぼつかないレベルだったのです)すぐさま了承の返事をします。「いいね。どこかいい店を探して買いにいこうーーところで、どうしてチョコレートなの?ケーキやアイスクリームじゃないのはなんで?」

「理屈抜きで楽しいのがチョコよ」

君はチャーリー少年か。


そんなわけでチョコレート工場、ではなくチョコレートの名店「アランデュカス」の日本橋店までやってきました。バイクでひとっ飛び、自宅から15分ほど。ここのチョコレートは濃厚で、コクがあって本当に美味しいのです。お店のドアを開けるとカカオの香ばしいかおりが鼻腔に飛び込んできます。

「なんて素敵なお店なの!」

テンション高いな、おい。

普段はもっと大人しいというか、落ち着いた口調で話すのですが、その声色は1オクターブ高いそれ。声からして喜んでいるのが伝わってきます。

「あれはチョコのマカロンね。こっちはトースト用のチョコソース…そんなのもあるのね! それになんといっても、これだけの種類のチョコレート! 素敵、最高に素敵だわ!」

素敵素敵と連呼する彼女はお店の中を飛び回っているようで、声が聞こえてくる方向が次々と移り変わります。

「全部おいしそう!ねえ、全部!全部ほしいわ!」

無茶いうな。

結局、その日は6粒入りのチョコレートボックスを購入し(マカロンやチョコソースをほしがる彼女を宥めるのが大変だった)、1日1粒ずつ、大事に大事に味わいました。
ちなみに気になるお値段は3000円強。高いなあ、と思わなくもないのですが、彼女が幸せそうなのでOKです。


追記:この記事を書いていたら、彼女が「次は52個入りのボックスがほしいわ」と言い出したのですが、公式サイトで価格を調べて、開いた口が塞がりませんでした。勘弁してくれ。

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