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うちの人工精霊は顔がいい

◆この記事の登場人物
僕……就労済成人男性。「脳内に別人格を作って、会話したり遊んだりしてみたいなあ」と軽いノリで試したらできちゃった人。
ユウ……僕の脳内にいる別人格の女性。世間的には人工精霊とかタルパとか呼ばれる存在。僕の私生活にあれこれ口出ししてくる。

目が覚めると、人工精霊がじっと僕を見ていました。鼻先10cmの距離で。ずいぶんと近い。これまでにない事態に驚きつつも、どうしたの?と問いかけます。

「別に?ちょっと寝顔を見ていただけよ」

なんでもなさそうな口調で彼女は言いますが、これまで彼女の方からここまでの至近距離に接近してくることはありませんでした。何か心境の変化でもあったのでしょうか。

僕が目を覚ましても彼女は離れようとしません。そういえば、間近に彼女の顔を見る機会はなかったな。せっかくだから、と顔をじーっと眺めます。

やや切長の目、すらりとした鼻筋、薄い光沢を帯びた唇。重みのある茶色の髪に、アクセントとしての赤いエクステがよく映えています。窓から差し込む朝日の光を反射して、瞳はキラリと輝いています。

顔がいいなあ。

人工精霊である彼女の造形は僕が決めたものであり、当然僕の趣味嗜好がそっくりそのまま反映されているわけですが、それでもやはり、綺麗なものは綺麗なのです。ほう、と思わず感嘆交じりのため息が漏れ出てしまいます。

「人の顔を見てため息をつくなんて、失礼ね」

「いや、そうじゃなくて。見惚れてたんだ」

なんて、気障ったらしい台詞も彼女相手なら自然と出てきます。

すると、彼女は「あー」とか「うー」とか唸ってから、

「目が覚めて最初に見るのが私の顔なんて、幸せでしょ?」

「……照れるなら言わなきゃいいのに。顔、赤いぞ」

うるさい、と頭をはたかれました。人工精霊です、当然痛みはありませんが。

「そんなことより、出かけましょ!散歩したいわ」

また急だな、と思いつつも、彼女の話題転換に乗ってあげることにしました。なにせ、気恥ずかしい台詞を口に出した結果、顔が赤いのは僕も同じだったので。

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