日記 20210820 『羊の歌』読了

出勤日。「息を深く吸い込むことでコロナウイルスが肺に入るのではないか?」という妄想があり、息を浅くする。息を浅くしていると、ときどき、逆に息を深く吸い込んでしまうことがあり、しまった、危ない危ない、とその息を途中で吐き出す。そんなことをしていたらお腹がつっぱったような感じになって、疲れた。デスクに座ったまま30分ぐらい熟睡してしまった。

夜遅くまでかかって『羊の歌』を読み終わった。東大駒場の中は花園のように外界から守られている。16世紀文学研究に没頭する渡辺一夫教授、著者ともう一人と三人でラテン語でキケロを、ウェルギリウスを読む神田教授。同じ空間のなかに別の空間がぽっかりとはまり込んだような感覚、が、著者を世間一般から隔てている。

講演会で横光利一が「近代の超克」をいうのを、著者らが英知をもって問い詰めるところは痛烈だった。敗戦後に横光利一は胃潰瘍で大量出血するが、「おれの病気は科学でなく精神で治す」と言って医者にはかからず、亡くなる。そして著者は述懐する――

「痛手をあたえることができたとすれば、それは相手が痛手をあたえる必要がない人間だったからだろう。(中略)痛手をあたえる必要のある人間に痛手をあたえることは、私たちにはできなかった。横光利一氏は駒場に招かれた客であった。ヒトラー・ユーゲントの一隊は、招かれざる客であった。私たちはみずから招いた客と激論したが、招かれざる客には白眼を以て応じ、相手にもしなかった」

この苦い味。

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