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【翻訳部辞書:L】lilac

こんにちは。レビューアーの佐藤です。できるだけ翻訳系の記事を書くことを優先しようと思っているので、こちらのシリーズは久しぶりの登場です。

今回取り上げるのは"lilac"。4~5月に紫の房状の花を咲かせる「ライラック」です。

ライラックってこんな花

名前は聞いたことあるけどビジュアルが浮かばない……という方は、この記事のヘッダー画像をご覧ください。アップで見ると紫陽花(アジサイ)や藤の花に似ていますが、モクセイ科の落葉樹で、街路樹としても植えられます(Googleの画像検索)。

梅や桜に比べればマイナーな木ですが、私は生家の庭先にかなり大きなライラックの木があったため、幼いころから馴染みがありました。生家はだいぶ古い借家だったので大家さんの好みと想像されますが、今思うと珍しかったですね。

「ライラック」と「リラ」

私の趣味のひとつはバレエを観ること&踊ることで、子供の頃から田舎の小さな教室で細々と踊ってきました。田舎の教室でも、発表会となれば「チャイコフスキー三大バレエ」と呼ばれるような演目の一部を抜粋して、それなりに体裁を整えたものを上演します。メジャー演目である『眠れる森の美女』には、善を象徴する「リラの精」という準主役級のキャラクターが登場します。紫の衣裳で凛と踊る「リラの精」は幼い私の憧れの役でしたが、「リラ」が何なのかはよくわかっていませんでした。

中学生になる頃には、「リラ」が紫の花の名前であるらしいという知識を得ていましたが、どんな花なのか調べることまではしませんでした。このあたりに時代を感じます。今ならすぐにスマホで検索し、花のビジュアルを確認するところですが、当時はもっといろいろなことが面倒でしたよね。

受験などで一度バレエを離れましたが、社会人になって再びレッスンを始めました。その頃ようやく、世界には『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』のような長尺の物語バレエだけでなく、20~30分ぐらいで人間の心理を表現するバレエ作品があるらしいという知識を持つようになりました。そのなかで知ったのが、「リラの園」と「ライラック・ガーデン」という作品です。それぞれ別の本で作品の存在を知ったのですが、両方とも「意に染まぬ結婚をするヒロインが、苦しい想いを抱きつつガーデンパーティで恋人に別れを告げる」というストーリーで、あれ?似すぎでは?と思い、そこでようやく気がつきました。「ライラック」と「リラ」って同じなんだ!!

なんのことはない、「ライラック」は英語表記の"lilac"、「リラ」はフランス語表記の"lilas"だったわけです。私が「リラ」という言葉を知った『眠れる森の美女』はフランスの物語なので、この作品が日本に持ち込まれた際に役名が「ライラックの精」ではなく「リラの精」になったのは道理です。しかしこの事実に気づいたとき、私は日本語の節操のなさというか、受け入れ範囲の広さをあらためて感じました。外来語をそのままの形で受け入れることに抵抗がなく、ソースになる言語も割となんでもいい。このほかにも、あれとこれって同じだったの!?という言葉がたくさんありそうだなと思いました。母国語なのに厄介な言語です。

実は紫だけじゃない

最初に「紫の房状の花」と書きましたが、実はライラックは紫だけではありません。紫の次にメジャーなのはピンクと白、そしてかなり黄色みの強い種類(Googleの画像検索)もあります。

黄色いライラックの存在を知ったのはつい昨年。5月上旬に「ライラック」の名を冠する商店街を何度か訪問する機会があったのですが、黄色い花を咲かせる街路樹を見ながら歩くこと数回目にしてようやく、「これはもしかしてライラック?」と気づきました。ライラックと言えば紫の花と思い込んでいたので、頭が回らなかったのです。ライラック商店街なら、街路樹がライラックであることに何の不思議もないのに。

そういえば大人になってから、普段の生活でライラックの木を見る機会は少なくなりました。今住んでいる近所にも、ライラックの木はなさそうです。この記事を書くうえで調べていたら、北海道には比較的多いようなので、いつかシーズンを合わせて見に行きたいです。



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