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どうして、「今」なのか。 「今」じゃなきゃ、いけなかった理由。

『おっさんずラブ in the sky』のデスティネーションは?

『ランウェイ24』というドラマをご存知だろうか。
ABC制作の、夏クールに放映された、土曜深夜の30分の連続ドラマだ。

なかなかいいドラマだった。
だが、おそらく日曜の2時半なんて、ほとんどの人は見ていなかったと思う。
私みたいな鉄オタならぬ、空オタ?以外は。

ストーリーは、Peachという現存する関空ベースの航空会社を舞台に、副操縦士である主人公の桃子が、亡き父のようなキャプテンを目指す姿を描いており、まだまだ男性中心のパイロットの世界で、女性が頑張っている姿は、とても好感が持てるものだった。

なんといっても、主演の朝比奈彩ちゃんが9頭身のスタイルで、パイロット姿が凄く似合っているし、飛行機がいっぱい出てくるし、コクピットのシーンも多いし、男性CA(何故かオネエ言葉だが、ナイスキャラ)も出て来て今風だし、とにかくマニア垂涎のドラマだった。

毎週楽しみに見ていたのだが、そんななか、『おっさんずラブ Season2』のSNS投下を見た。

え?牧じゃないの?しかも、エアラインものなの?
え?え?千葉くんが出るの?どういうこと⁈
なんで?イミわかんない。

そのショックたるや、前の投稿を見ていただけた方は分かるかと思うが、もう、それまでの私の毎日が崩壊するほどのものだった。
とりあえず、はるたん日めくりはあれ以来めくれなくなったし、劇場版関係の雑誌も眺められなくなった。ばかりか、テレビを5チャンネルに合わせるのも複雑な気分だ。吉田鋼太郎のCMすら何やら腹ただしい。

そして、あの原稿をまとめつつ、毎日ぐるぐると考えていた。
なんで今なの?なんで今じゃなきゃいけなかったの?
劇場版の上映、まだ終わってないよね?
頼むからもうちょっとそっとしておいてくれたら良かったのに。
なんで、なんで、なんで…???

牧ロスでしばらくは頭が正常に働かなかったが、
癒しに見たランウェイの録画をぼーっと見ていてふと思った。
『あ、制服、いいな…。』
そして想像した。
田中圭の制服。千葉くんの、制服…。
CA田中圭が「ほんま、おおきに」言うの?
見てはみたい。見ては、みたい。単純に。
だが。これって…。

コスプレ?
CAコスと、パイロットコス。おまけに、作業着コス?
…パロディか。パロディじゃん。
しかもキャストからしてパラレルワールド、言っちゃってんじゃん!
え?インザスカイって、そういうコト⁈

テレ朝はそういう方向に、方向転換したかったんだ。
ザ・パロディ量産計画。
アニパロとか、いわゆる2次創作はオタクの世界ではよくあることだが、それをテレビ局が、やっちゃった!

そして思った。
Season2 、結局秋クールなのか…。
確か2019年度、っていってたから、冬クールもアリかなとは思っていた。
しかし。
ランウェイって一応、夏クールだよね…。
え?2クール連続放映?
Peachドラマを連続で…?
え?なんで??

そして唐突に閃いた。
あー、そういうことか。
つまり、Peachとテレ朝とのコラボってことなんだ。
ブラボー、プロモーション。
ブラボー、コマーシャリズム。

この企画がいつ頃持ち上がったのかは分からない。だがこのタイミングは、おそらく無関係ではないだろう。
何故なら、2019年の今年は、テレ朝開局60周年だそうで、そしてこの作品はドクターXと同じく、秋クールのドラマとして、その掉尾を飾る作品の一つとして位置付けられているであろうからだ。

初めは単なるエアラインものだと思って見ていたが、よく見るとランウェイは、よくできた企業PRドラマであることが分かる。
何しろ、主人公の名前がそのものズバリの「桃子」だし、名字も、現PeachのCEOと同じ「井上」だ。
ワオ!
じゃあいっそのこと、春田創一じゃなくて、「春田桃太」でよかったんじゃないの⁈
何なら、「井上桃夫」でも。

だがネーミングのセンスはさておき、だからといって、ランウェイがつまらないPRドラマかというとそういうわけでは決してなく、むしろ1話目からLCCに対する世間一般の偏見を取り除こうと、とても丁寧に作られていることが分かる。
機内サービスが限定的な理由。
手荷物預かりが、有料な理由。
そのかわりに、運賃を安く提供していること。
ディスパッチャー、CA、操縦士、恋人の和菓子職人…、それぞれの立場での仕事に対する真摯な姿勢。
仕事と恋(結婚)に揺れる主人公の姿。
どれも現代の普遍的なテーマを描いており、普通に面白く見られる。

実際、私はたまたまご縁がなくて搭乗したことはないのだが、Peach自体は全日空の子会社ながら、この統廃合厳しい昨今の航空業界にあって、完全独立を果たして結果を出している、優良企業でもある。
だから、この会社自体に思うところはないし、先日のカンテレの『FLY!BOYS,FLY!』もそうだが、空オタとしたら、たとえ中身はどうであれ、こういうドラマは大歓迎だ。

だからこそ逆に、こんなパロディ企画とタイアップでいいの?とも思う。
Peachさんの企業イメージ、悪くならない?
「多様性のある社会の実現を期待している」らしいが、逆にLGBTをおちょくってるように受け止められたら。
だって、「恋のタービュランス突入で、エアポケットへまっしぐら!」とか、「男性CAをめぐるラブバトル勃発で、コクピットの中は暴風雨⁈」なんてフライト、単純に乗りたくない。そんなの、危なくてしょうがないではないか。
いくら飛行機が世界一、安全な乗り物だと言われていても。

そして初めに、このPeachのPRドラマを放映することが決まっていたのか、インザスカイが決まってからこっちを先に撮ることになったのかは分からない。(おそらく、前者だとは思うが)

またSeason2が、初めからエアラインものでいこうとしていたのか、続編制作にかかろうとしたタイミングで、たまたまコラボ話が持ち上がったのか、どっちが先かも関係者ではないから分からない。

ただ、以前から土ドラの枠を盛り上げたいと言っていたテレ朝。
それならば、新規のドラマでエアラインものを作って、コケるリスクを冒すよりは、既存のもので調理したほうがリスクは低い。

そしてその手持ちのストックのなかでいま一番話題性があって、なおかつ作りやすかったのがこの作品だったのではないだろうか。
刑事もののシリーズが多いテレ朝では、おっさんずラブ以外の転用のきく持ちネタは、ないように思える。
しかも自社のオリジナルだから極端な話、舞台はいくらでも、ストーリーもいかようにでも、自由自在に作れる。

ましてや今後のシリーズ展開を考えていくならば、制服ネタなら、エアライン以外にもいくらでもできる。
例えば、

消防士のおっさんずラブ。
警察官のおっさんずラブ。
自衛官のおっさんずラブ。
ギャルソンとシェフのおっさんずラブ。
ナースとドクターのおっさんずラブ。
なんなら、居酒屋のおっさんずラブに、
学校のおっさんずラブなんかもできるよ。

ホテルマンのおっさんずラブなら、ひょっとしたら、あの星野リゾートもスポンサーについてくれるかも⁉︎
レストランなら、ひらまつかミクニ?が。
病院なら、太い医療業界が。
これぞまさしく、スポンサーとテレビ局との、WIN WINの関係⁉︎

だったらいっそのこと、そもそもの劇場版自体を野村不動産なり、東京建物なり引き込んで、牧と狸穴をもっと規模の大きなデベロッパーの話にして、ばばーんとデカいスケールで仕上げれば良かったのでは?
そう、日曜劇場みたいな。

まぁ、だからこそ、パロディなのだろう。
そして話題性という点では、劇場版公開直後で、一般の視聴者の認知度が高まった、今のタイミングこそもってこいだ。
そして、春田創一と黒澤武蔵、の名前を残したのも、社名を「『天空』ピーチエアライン」にしたのも、やはりヒットした作品の名前頼みの部分も多分にあるのだろう。
スポンサーにも、劇場版が当たれば、説明がしやすい。
実に安直だが、そのぐらいのスタンスだったのではないか。

だから企画ありきの話であれば、ひょっとしたら、林遣都込みでエアラインものを、という話だった可能性もある。まさしく、パラレルで。
劇場版の対談で、プロデューサーと脚本家が言っていたように、戦国時代編、とかも。

しかし、当初から劇場版公開後の秋クール放映、というのが既に決まっていた話であるならば、どちらにしても舞台や朝ドラへの出演が決まっていた林遣都が出られないのは明らかで、じゃあ、代わりのキャストは誰?という、単にそれだけの話だったのかもしれない。

そして、劇場版で志尊淳という最強可愛い系キャラのカードを使ってしまったいま、BLの主人公の相手役を演じさせる俳優として、千葉雄大以上のキャスティングはないように思える。
いささか、狙い過ぎの感はあるが。

そして、コラボ企画というのが前提条件で制作が決定したのであれば、どちらにせよ、今回のこの流れは避けられなかったのだろう。
最初にABCで、あんまりお金をかけずに真っ当なお仕事ドラマを作って、消費者のLCCへの理解を深め、そこに間髪あけず、人気作とのコラボ商品を提供する。
プロモーションとしては、まさにこの上ないタイミングだ。

テレ朝にとっては、60周年の年内中、かつ、この作品の注目度が高いこの時期に「続編」を作って、数あるドラマの取りこぼしを少なくすることこそが目的であり、既存のファンがどうとか、前作との整合性がどうとか、作品としての完成度だとか、そんなことは別にどうでもよかったのだ。

BLってのがキテるんでしょ?
とにかく、田中圭とイケメン俳優イチャイチャさせとけば、世の女性ファン(腐女子)は、ヨロコブんでしょ?
そして、吉田鋼太郎を投入して、コメディ色強めて笑いを取れば、とりあえず万人ウケするんでしょ?
どうせ男同士のラブコメなんて、お笑いでしかないんだから。

だから、このコンテンツを単なるBLラブコメ認定したテレ朝が、これからどういった方向性でいくのかは容易に想像できる。
ひょっとしたら、田中圭のお相手役を、仮面ライダーみたいな、若手俳優の登竜門枠にする、というのもアリかもしれない。武蔵は鉄板で。
だから、『寅さん』なのだ。それもライバルを毎回替えて、の。

しかし、それも実際あと10年…、もつだろうか。
毎年1本のペースはいくらなんでもスケジュール的にムリだろうし、あまり作り過ぎたら、ますます安っぽくなって、あっという間に飽きられる。
だとしたら正直、あと何本作れるだろう。
実年齢をそのまま演る必要はないにせよ、イケオジと呼ぶのもだんだん無理が出てくる70の吉田鋼太郎が、45の田中圭を愛するのは、もはやおっさんずラブではなく、おじいさんずラブだ。

いくら日本が高齢化社会とはいえ、立場的にもう第一線に立つ役の年齢ではない吉田鋼太郎を、いつまで引っ張ってこられるのか。
定年退職した嘱託社員に愛される田中圭?それとも、会長職に愛される田中圭?
いやいや、そんなの、視聴者が見たいと思います?
そもそも武蔵はヒロインですよ!70のヒロインて!

ましてや45の田中圭が、20代の若手俳優に愛されるのにもムリが出てくるだろう。
40過ぎたモテないおっさんに、ゲイの設定にしても、若いイケメンが恋する必然性って?
ちょっと残念なイケてない主人公にモテ期が来てドラマになるのは、せいぜい40くらいまでで、それ以上でいまだに運命の恋なんて言ってたら、独身のただのイタいおじさん、てのが普通の職場での立ち位置ではないか。ま、今の時代どこの職場にもいると思うが。

かといって同年代同士なら、なおさらリアルおっさんすラブになるし、じゃあそれをどのターゲットに向けて作っていくのか。
そもそもBL(ボーイズラブ)ではなくなるのでは?
まぁ、『おっさんず』ラブだけど。
そこまで考えてこのタイトルを付けたのだとしたら、逆に慧眼とも言える。

とにかく、視聴者に飽きられる前に、旬のうちに商品を「提供」する。
林遣都の映画がダブル主演の俳優の事件により、一瞬でお蔵入りになったように、昨今、クスリだの、オンナだの、カネだの、役者のスキャンダルは何が炎上の引き金になるか分からない。
だから、テレ朝にとっては、「今でしょ!」だったのだ。
そして、受けなくなったらそこで企画は打ち切り、それだけの事だ。

多分、現場の製作陣は、こうなることが初めから分かっていたんだと思う。
だからといって、彼らにはもう、どうしようもないのだ。
作品を守る力もなく、ファンを守る力もなく、社の方針に、諾々と従うしかない。
しょせん、世の大半の人々は、みな社畜に過ぎないのだから。

そして田中圭の、「(ファンが)見たいものを作っているわけではない。結果として出来上がったものを楽しんでいただけたら…」というコメントが、なによりそれを言い表しているではないか。
あぁ、なんだ、このどうしようもない、無力感…!
スタッフが本当に作りたいわけでもないモノを見せられる、我々視聴者の立場は…⁉︎

まぁ、やるからにはキャスト、スタッフともに全力でやるだろうし(だって、それがお仕事だから)、これだけ話題になった作品ゆえに、注目度も抜群に高い。
親の七光りどころか、十光りくらい持ってるだろう。Season1と劇場版のヒットの貯金で。
出版社も、SNS炎上の事実を知ってはいるだろうが、とにかく名前を出しさえすれば、買ってくれる層がいるんだから、特集だってとりあえずバンバン組む。

ただし、「続編」を作るのは、言うまでもなく本当に、難しい、と思う。
また、二作目が一作目を上回る出来になることは、今までにもいろいろなドラマを見てきたが、残念ながらほぼ無い気がする。
何故ならば、前作が面白ければ面白いほど、視聴者の目はそれだけシビアになるし、それ以上を期待するようになるからだ。

シリーズものが通用するのは、ひとえにそれを支持する客がいるからであって、水戸黄門は、たとえキャストが何代替わろうが、『水戸黄門』という勧善懲悪の、オチが分かっているストーリーをこそ見たい客に支えられて成立しているのだ。
必ず1時間で完結し、子供からお年寄りまで安心して見ていられる内容であり、いつでも、またどこから見てもついていける、いわば金太郎飴的なストーリーがウリなのだから。

だが、そうでないストーリーはどうか。

近いところでいくと、『家売るオンナ』も放送前からとても楽しみにしていたが、正直、足立王子にBLネタを絡ませた時点で、かなり残念な感じになってしまった。
すごく面白かったのは、最初の2話目くらいまでで、北川景子の『Go!』と既存のレギュラー陣を使った予定調和で、何とか乗り切った感じだ。
もちろん面白くなかったかと言われるとそういうわけではないのだが、少なくとも最初のシリーズのあのインパクトは超えられていなかったように感じた。
むしろ、ほぼ前作どおりのレギュラー陣のスケジュール調整そのものこそ、相当な困難を伴ったことだろうと思う。

また、『ストロベリー・ナイト』も、リメイクかもしれないが、キャストに相当ブーイングが出た。私も最初の作品の大ファンだっただけに、そもそも見る気が全く起きなかった。
別にそこに無理して飛びつかなくても、エンタメなんて他にいくらでもあるのだから。
そのキャストの余程のファン以外は。

そういう意味で、個人的にインザスカイを『おっさんずラブ』として見る気はさらさらないが(とてもじゃないが、春田と牧のストーリーを愛したファンしては、見られるはずもない)いち千葉雄大のファンとして、空オタとして、ひっそりと見ようとは思っている。というより、私にとってはそれ以外に見る価値のないドラマだからだ。積極的に応援する気もない。

だって、私たちの応援していた弱小野球部は、いつの間にかすっかり、別のモノに変わってしまっていたのだから。
だから、新興宗教の信者よろしく、発行されるお札をいくらでも、何枚でも、盲信的に拝受していたのは、それが単なる新興宗教でも構わないと自ら思いこんでいられた劇場版までで、それ以降はそれを信じたい人だけが拝み続ければいいのだと思う。

悲しいけれど、劇場版で私のおっさんずラブは終わった、と言ってもいいのかもしれない。
内容には賛否両論あれど、少なくとも劇場版までは自分にとってカネを落とすに足るコンテンツだったのだから。身も蓋もない表現で申し訳ないが。

ただ、このBLドラマ?という分野が、今後どう発展していくのかは非常に興味深い。
おそらく、他局もこの作品のヒットの要因を詳細に分析しているだろうし、SNSの運用も使い方によっては紙一重だということも今回の件で明らかになったことだろう。

ましてや、BLという、腐女子というニッチな層に爆発的にウケた分野が、当たればデカいが、ハズしたら大変なことになるということも学習済みだろう。まあ、Season1は、そのレンジを超えた女性層に響いたからこそ大ヒットしたわけだが。(本当は、このSeason1、やら、天空不動産編、やらいう言葉も使いたくない)

そういう面ではやはり、テレ東の『きのう何食べた?』は上手かった。
何より原作を大事にしていたし、キャストのスケジュールが合うまでじっくり待って製作し、満を持しての放映だった。
今後も原作のストーリーのストックも充分あるし、登場人物とともにキャストの年齢が上がっていくのも原作どおり、自然に描いていくことができるため、このシリーズは『孤独のグルメ』とはまた違った、永く愛されるコンテンツになるだろうと思う。
テレ東独自のまったり感と、なんといっても、ガツガツしていないのがいい。

要するに、テレ朝は、恋愛ものを作っちゃダメだったのだ。
相棒、キントリ、刑事もののノウハウはあっても、ラブストーリーは禁じ手だった。ましてやBLなんて、取り扱い注意中の、取り扱い注意案件だろうに。

実は、ファンよりも誰よりもインザスカイのこれからの動勢に一番関心を持っているのは、あわよくば二匹目のドジョウを狙っている、同業者なのかもしれない。

いずれにせよ、このSeason2が終わった時点でテレ朝が、製作陣が、今後このシリーズをどうしていくつもりなのかが明らかになるだろう。
我々ファンを、とことんまで傷つけた、その上に作られた作品がどのようなものに仕上がるのか。

それまでは、離陸前からいささか荒模様なこのフライトが、何処に向かって、またどんなランディングをするのか、遠巻きながら見守ることにしたい。

そして、あり得ないことだとは思うが、忘れた頃に春田と牧のその後の話を2時間(なんなら1時間でもいい)SPなんかで深夜でも配信でも、ひっそりと流してくれたら、私にとっては望外の喜びだ。

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