トラバヘッダー最新15_のコピー

TORABARD 第4話「和のうた」


読者のお悩み相談と商品アイデア投稿を基に創る小説『TORABARD』 

第4話「和のうた」


〜お悩み相談〜

奈良県 25歳 男性 営業マン カズさん

現在、会社でパワハラを受けています。

毎日が本当にツライです。

周りに相談しても同じようなことしか言われません。

どうかTORABARDからの助言をよろしくお願いします。


〜商品アイデア投稿〜

秋田県 17歳 女性 JK ちーめろさん

花札をEHEエボリューションしました。

ポーチください!!


※〜EHEエボリューションとは〜
・Emotional(エモーショナル)「情緒的」
・Hybrid(ハイブリッド)「多様性」
・Exciting(エキサイティング)「わくわくする」
以上3つの要素、TORABARD三大原則〝EHE(エヘ)〟を兼ね備えたうえで物事を進化させるという意味。


◆今回採用されたカズさんとちーめろさんには、ポーチをプレゼント!


TORABARDは皆さまから投稿いただいたお悩み相談と商品アイデアを基にストーリーを制作しております。

皆さまからの投稿がこの作品を創ります。 

お悩み相談、商品アイデアがある方はコチラまでドシドシご応募ください!

採用者にはTORABARDオリジナルグッズをプレゼントいたします!


今回は、以上の投稿を元に小説を書きました。



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澄み切った空に煌めく月を見ながら煎餅を頬張る鹿が群がる奈良公園。

紅葉が咲く楓の木の下でニトロはストリートライブをしている。

ボディにハチドリが描かれたチェリーサンバースト色のギターを奏でながらラブバラードを唄う。

唄いながら観覧客に目配りをしていると、虚ろな表情をしたサラリーマンがいた。

鳥の囀(さえず)りを終えると、ニトロはそのサラリーマンに声をかけた。


「兄ちゃん、どないしたんや? 暗い顔して」

サラリーマンは答える。

「実は今…… 上司からパワハラを受けてるんです」

「パワハラってなんなん? パワフル腹減り? お腹空いてるのかい? この煎餅でも食べるかい?」

ニトロは鹿煎餅の露店商が忘れていったモノを左ポケットから取り出しサラリーマンにチラつかせる。

「違いますよ! パワーハラスメントの略で、職場の権力(パワー)を利用した嫌がらせのことです」

「ふーーん」


ニトロは着ているパーカーのフードを被りサラリーマンにライムする。


「甘ぇだけじゃ機能しねぇのがマネジメント

 起きてからじゃ遅ぇのがアクシデント

 頂上から演出する緊張と緩和  

 統率にはアメとムチが必要の会話

 咆哮デキるヤツには超厳しく怒号

 褒められて伸びると弱くなる逆境

 優しさだけじゃ育だたねぇメンタルとディフェンス

 そこで規制するグループのルール

 それは平等に管理するためのガイドライン

 しかし必ず現れるモンスターピーポー

 ルールを守れねぇNO自律野郎  

 パイセンは猛獣使いに超続く過労

 これじゃあ御門違いの逆パワハラ

 だからこそ敢えての上から目線

 フラットな物言いより期待できるプラセボ効果

 

 グループでは縦社会がモラルのコモンセンス

 アキレスが後輩で亀がパイセン

 当初から歩んできた多難な歴史

 まずはリスペクトをするのが礼儀

 カスなリクエストよりも大事だろ返事」


ラップが終わるとサラリーマンがニトロに話しかけた。


「そう言いたい気持ちはわかりますけど…… でも、今の会社は絶対ブラック企業ですよ!!」


ニトロは再びライムする。

 

「それじゃあ単なるグループのクレーマー

 プロではなく消費者、部外者のカスタマー

 いつまでたっても与えられる側か?

 いつなれるんだ?与える側に

 今の環境は自らで選んだ結果

 ウゼェならテメェで創れ選択肢」


ラップが終わると、サラリーマンが再び話しかける。


「確かにそうですね。 でも…… 上の立場の人が暴力や恐怖でルールを押しつけるのは絶対に間違えてると思います!」


ニトロは更にライムする。


「トップ目線なんて押しつけるのが間違え

 縦社会では目線なんて違うのが当たりまえ

 お互いに当事者じゃねぇからわかんねぇのがテッパン

 簡潔な本質ほど伝えるのが困難だめっちゃ

 目線ではなく理念を共有する中心部

 お互いに合わせる魂のチューニング

 そのために目線はフラットでツーリング

 音がズレてりゃオーディエンスからのブーイング

 それじゃあただのマスターベーション

 やっぱり目的はスタンディングオベーション

 楽しみはステージで生み出した貢献による対価

 喜んでもらった分 仲間でシェアする愛だ

 解釈と理解は別物だから目指す相互理解

 交わるSoul親愛はベストな晒け出す表現次第

 

 ゆとりが齎(もた)らした平成ピーポーの繊細さ

 上、下でもなく斜め目線がImportant重要さ

 既得権益者クソくらえ阿保のゲーハー

 昔の理論なんてただの過去のデータ

 古臭ぇルールに縛られてるだけのマジダリぃ老害

 生産性のねぇテメェらが最もゆとりだ

 恐怖で治める覇道では続かないラポール

 徳で支え合う王道が今はトレンディだReborn」


「当事者じゃないからわからないかぁ。 だからこそ相手のことを想像したり、建前ではなく本音で寄り添うことが大切なのかな」

「そんなお兄ちゃんにいい商品があるわ」

といいながらニトロは後ろに折りたたんで置いていた直径2メートルほどの台を拡げて観覧客の前に置いた。


「それでは本日の品物を紹介するぜーー!  ヘイッ、プチャヘンザッ!」


「社会では必須な本音と建前

 それをコントロールするのが本当の1人前

 しかし上辺だけでは縮まらない相手との距離

 着てるもの脱ぎ捨てないと俄然なれないホーミーに

 

 人は何かを守るために装う

 自分の敵と戦うためにする武装   

 でも本当の敵は誰だ?それは他所(よそ) 

 だから意味のねぇ内戦はもうよそう

 余計なもの脱ぎ捨てろ全身

 それが懇親に一歩近づく前進

 その為のツールがゲームと夕食

 食べた後は真っ裸で一緒に入浴

 一緒に遊んで風呂入ればマイメン確定

 一生壊れない絆のソウルメイト

 一度会ったらフレンズで

 毎日会ったらブラザーで

 バイブスで大きくするファミリーのドーナツ」


ニトロは虎の咆吼(ほうこう)を終えると、サラリーマンに何かを手渡した。


「ほら、コレ」

「これは…… 花札?」

「普通の花札とちゃうで」

「えっ、では一体なんなんですか?」

「これは、〝花札型の入浴剤〟やで!」

それを聞いたサラリーマンは花札を自分の鼻へ運ぶ。

「本当だ! この花札めっちゃ良い匂いする! 札に描かれているお花の香りがしますね」

花札が鼻札になっているサラリーマンにニトロがいう。

「上司と花札して遊んだ後はお風呂に入って、親睦を深めたらええやん」

「そうですね! 一度僕から歩み寄ってみます! コレください!」

「サンキュー、ブラザー! あっ、お金はこの箱に入れてや」

サラリーマンが清爽な表情で露店を後にすると、観覧客の中の一人が呟いた。

「花札…… お花かぁ…… はぁ……」

ニトロはため息まじりに声を漏らした見たところ五十代くらいの貴婦人に問いかける。

「どうしたの? ため息なんかついて」

「実は明日、海外から来られるお客さまの接待があるんだけど、華道の先生が急な予定で来れなくなってしまったの……」

「華道って、あのいけばな的なヤツ?」

「そう、そのいけばな的なやつ」

「おばさん、職業は?」

「おっ! おばさんってレディに向かって失礼ね! 仕事は美容エステサロンの経営よ」

「えっ、それって、素敵なお姉さんがいっぱいおる的なやつ?」

「そぅそぅ、素敵なお姉さんがいっぱいおる的なやつよ」

その言葉を聞いた瞬間ニトロの顔つきが変わり、

「そういえば、最近もみあげの脱毛を検討してるんやけど、そのことについてちょっと話聞かれへんかなぁ?」

「もっ、もみあげ…… まぁ、脱毛に関する知識ならあるから別にいいわよ」

「まぁ、こんなトコじゃ何やから、おばはんの家でゆっくりルイボステーでも飲みながら語り合おう」

「おばはんって! さっきより口が悪くなってるじゃないの! まぁ今からちょうど、明日の接待で使用する町家に行くところだからアンタも着いてきなさいよ」

「そこまで言うなら仕方ないなぁ……」

ニトロは先ほどの鹿煎餅をかじりながらいう。

「別に、頼んでないわよ! そこに社用車が止まってるから早くしなさいよ」

ニトロは早速品物を片付け、客衆に向かって閉店アナウンスをする。

「えぇ、本日のMCニトロ店SHOWはこれにて終了でございます。 またのお越しをお待ちしております」

片付けが終わり社用車に乗ると、ニトロは貴婦人に話しかけた。

「おばはん、名前は?」

「永谷久子(ナガタニヒサコ)よ」

「OK、ヒサコりんやな。 俺は昨日、〝アタックしようと思ってる女性が寒いというのでカイロを渡したつもりが、間違えて麦茶のティーパックを渡してしまいLINEをブロックされる夢を見た〟 だから、ニトロって呼んでくれ!」

「なによそれ」

「もぉ、ヒサコりんは奈良の大仏並みに固いわーー! 今の斬新でファンタスティックなユーモアがわからないかい!?」


その二十分後──

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二人は厨子二階(つしにかい)町家作りの民家に到着した。


「わぁ、なんか風情があっていいなぁ。 THEジャパンって感じやな」

「まぁね。 一応海外のお客さまのおもてなし用に購入した物件よ」

「えっ、これヒサコりんの所有物!?」

「そうよ、他にも数件の不動産を所有してるわよ」

「そんな…… 不動産はシルバニアファミリーじゃないんやから…… 勘弁してよもぅ……」

「それよりも、お腹空いたわ。 今日は食事もロクに摂らず一日中走り回ってたから」

「マジか。 ヒサコりん、ちょっと台所かりてもいいかい? あと冷蔵庫のモノ適当に使ってもいい?」

「あら、何か作ってくれるのかしら?」

数分後──

「ジャーン! 出来上がりー!」

「わぁ、お好み焼きね! 食べるの何年ぶりかしら」

「さぁ食べなはれ」

久子は踊る鰹節に息を吹きかけながら口へ運ぶ。

「どう? バチウマ?」

「うん。 バチウマよ」

「それよりも、冷蔵庫に秋の味覚がギッシリと入ってたなぁ。 あれも接待用?」

「そうよ。 明日は料亭の板前も外注してあるのよ」

「へぇ、でもお花の先生は来られへんのかぁ……」

「そうね…… その問題を何とか解決しないと。 同じ〝未生流(みしょうりゅう)〟の先生を何とか手配しないといけないわ」

「未生流? 何それ?」

「未生流というのは、世界を形成する万物である「天地人」を意識し、直角二等辺三角形の形を象った生け方をするいけばなの流派よ」

「へぇ、なんか〝ワキの大三角〟によく似てるなぁ」

「ワキの大三角?」

鰹節の踊りが終わったころ、玄関のドアの音がした。

「社長、大変です! 明日、外注していた板前さんも急用でキャンセルになりました!」

秘書らしき女性が汗だくでいう。

「嘘…… 板前さんまでキャンセルになるなんて…… それじゃあ、明日の接待はどうしたらいいのよ!」

一日中走り回っていたのか、上着を脱いでノースリーブになっている秘書が右腕で汗を拭った瞬間……

(今、ほ、ほしが見えた……)

ニトロは秘書に自己紹介をした。

「マイネームイズ ニトロ レペゼン大阪

 お好み焼きは マヨネーズwithソースPaint a lot ええねん あおさがyeah!」

「社長、一体何ですか? このお方は?」

「この人は、さっき奈良公園で出会ったニトロさん。 ミュージシャンの方よ」

「ミュージシャン?」

「はいっ! ストリートで魂の呟きを唄ってますっ! お客さんからはよく〝F/1(エフブンノイチ)が揺らぎすぎて酔う〟と言われるので、酔い止めを常備していますっ!」

「あ、どうも」

「それよりも、アナタ、すごい汗だくじゃない。 ちょっとシャワーでも浴びてらっしゃい。 後、シャワールームの隣の部屋に明日着る着物が飾ってあるから念のため確認しておいて」

「了解しました」

そしてニトロはシャワールームの扉の音が閉まるのを確認してから、

「ちょっと、ヒサコ氏……。 あの秘書さんは今、お付き合いされている人とかはいらっしゃるのかい?」

「えっ、どうしたの急に? 一応、今はフリーだと思うわよ」

「ふーーん。 あらそう」

「実は、明日来られる海外のお客様というのは、アメリカの著名な投資家の方なんだけど、その娘さんとあの秘書の子が友人でね。 明日はその娘さんと二人で来られるのよ」

(へぇ、あの秘書さんの友人ファミリーかぁ……。 ということは、明日きちんと接待できひんかったら、秘書さんも困るということね……)

「ヒサコりん、明日の接待…… 俺に任せなはれ」

「えっ、どういうこと!? 何か良い方法でもあるの?」

「うん、まぁね」

(明日、秘書さんに良いとこ見せることができれば…… アタックチャンスやで♪)

「本当かしら?」

「そんなことよりもちょっと、トイレかりても良い?」

「えぇ。 そこの突き当たり右よ」

ニトロがトイレに行ってから十五分程経過したが、中々戻らない。

久子は心配になってトイレへ向かうが、電気が消えている。

すると、脱衣場の方から物音がしたのでその扉を開けてみると、

「ちょっと、何やってるの?」

「……いや ……その、秘書さんに帯留めを持ってきてって頼まれたから……」

ポケットから何かを取り出したニトロは、

「ほら! コレ」

「アンタ、それ〝帯留め〟じゃなくて、〝酔い止め〟じゃないのっ!」

「あっ、ほんまや! 間違えた!」

「そんなこと言って、お風呂を覗こうとしてたのね! 男というのは本当にどうしてこうなのかしら」

「からの?」

「からのじゃないっ!! この変態クズラッパー!! F/1(エフブンノイチ)揺らぐどころかお前の脳天を揺さぶってやろうか!!」

「おーーこわ」

その翌日──

「本日は、私の知人である著名なアメリカ人の方が娘様と一緒に来られます。 くれぐれも粗相のないよう、精一杯のおもてなしをしましょう」

着物姿の久子は町家に集まった会社の接待チームに向けて軽くスピーチをする。

するとドアのインターホンが鳴りそれに対応した秘書がいう。

「社長、来られました」

玄関からアロハシャツを着た大柄な男と金髪で真っ赤なルージュを引いたワンピース女性が顔を覗かせた。

「やぁ、久子~♪  会えて嬉しいよ~♪ 前回は、日本の茶道、千利休(せんのりきゅう)の素晴らしさを学ばせてもらったが、今回はどんなサプライズをしてくれるんだい?」

「はぁいマイケル♪ 今回も、とっておきのサプライズを準備してあるわ」

「宜しく頼むよ♪ 特に、美容関係の会社を経営する久子から、是非とも〝日本人女性の美〟というモノを我が娘にご教示いただきたい♪」

日本語ペラペラのマイケルに対して、久子は精一杯の愛想笑いで対応する。

「ヒサシブリネーー♪ アイタカッタデー」

マイケルの娘が秘書にいう。

「私も会えるのを心待ちにしてたわ」

秘書もどこかぎこちない表情で対応する。

それもそのはず、本日の大物ゲストの接待に対応するのが、昨日出会ったばかりのどこの馬の骨かもわからないストリートミュージシャンだからだ。

突然キャンセルになった外注先の穴を埋めるため、手当たり次第に別の外注先を探したにも関わらず、ゲストがゲストなだけに急なオファーの引受先が見つからなかった。

そして他の問題解決策を考案することができず、苦渋の決断により、変態お風呂ビューイング男に賭けることになったのだ。

そんなことを知る由もないマイケルは笑顔で久子に問いかける。

「もうお腹ペコペコだ♪ 久子、今日はどんな食事をご馳走してくれるんだい?」

すると和室の襖(ふすま)が開き、配膳係が料理を運んできた。

それと同時に、襖の影からギターを持ったニトロが出てきた。

そして鳥の囀(さえず)りを終えたニトロはマイケルに自己紹介する。


「マイネームイズ ニトロ メイドインジャパン

  愛がBaseイズム 地元 によく貼ってるポスター チカンアカンyeah!」

「Yeah! 君はジャパニーズラッパーダネ? ラップならアメリカ生まれのワタシもマケナイヨ!」 

「それよりもパパさんは、プロレスラーのハルク・ホーガンにクリソツですねーー」

(下手なことしたらマジで脳天、揺さぶられそーー! コワーーい!)

「Oh! ハルクホーガン! 日本のプロレスラーは力道山が強かったね」

「さぁ、食前歌(しょくぜんか)が終わったところで、是非この料理を食べてみてください」

ニトロは不安そうに見届ける久子に下手くそなウインクしながらいう。

「Wao!  イッツダンシング! この料理の上で踊ってるのはなんだい?」

「これはカツオブシといって、〝魚界のマイケル・ジャクソン〟と言われていまーーす」

「Oh! マイケルジャクソン! この料理はなんというんだい?」

「これは、お好み焼きといいます」

「Oh! オコノミヤキー! 初めて食べるよ!」

「パパ、コレなんだかピザみたいヤデ♪」

二人はお好み焼きを口に運んだ。

「Oh! ベリーデリシャス!」

好感触を得て張り切るニトロは、二人がお好み焼きを食べ終わるのを見計らい、配膳係に下手くそなウインクをすると次の料理を運んできた。

「Oh! この料理の周りに包んでいる葉っぱは一体なにかね?」

「これは柿の葉です。 どうぞ、その周りの葉っぱを開いてみてください」

二人は指示通りに葉っぱを開いた。

「Wao! オレンジ色のパンケーキが出てきた」

「アタシ、パンケーキ大好きヤサカイ♪」

「これは先ほどの、お好み焼き粉に柿の果肉を混ぜ、柿のカタチにして焼いたパンケーキを柿の葉で包んだモノです。 柿は日本人が秋に食べる季節のフルーツです」

「〝カキクエバ カネガナルナリ ホーリュージ〟 だね♪」

「そして、このパンケーキにはコレをかけて召し上がってください」

ニトロは右ポケットからスキットルを取り出し、蓋を空けパンケーキに何かを回しかけた。

「今、何をかけたんだい?」

「これは自家製のメープルシロップです。 メープルシロップは、紅葉が咲く木、つまり楓の樹液を煮詰めたもので添加物など一切含まれていない、自然の甘味料です。 紅葉というのは日本の秋の風物詩です」

「メープルシロップなんてどうやって作るんだい?」

「楓の木は、幹の太さが役二十センチの太さになっていたら、安全に木に危害を加えることがなくメープル樹液を取ることができます。

まず木に一、五インチ(約四センチ)程度の穴をドリルで開け、その穴にストローのような筒状の器具〝タップ〟をはめ込みます。

タップをいれたら、ストローから出てくる樹液を受ける容器をつけ、樹液がとれたらそれを鍋に入れ約百三度の温度でゆっくりと樹液を煮詰めていきます。

そして三分の二が砂糖、三分の一分の1が水になったら、火を止め、熱いシロップをタオルなどで濾過(ろか)して、覚ますとメープルシロップのできあがりです」

「Wao! イッツアメイジング! こりゃあメリーも首ったけダゼ!」

そういいながら、柿の葉パンケーキを口に運ぶと、

「コレは、斬新な味だ! オコノミヤキのダシと柿の甘さが見事にマッチしているよ!」

「そうです! お好み焼きの生地には昆布の出汁を使ってるんですけど、昆布にはグルタミン酸という旨味成分が含まれてるんです!」

「グルタミンサン? ウマミセイブン? それは何だい?」

「旨味成分というのは、それ自体には味はないのですが、素材の味をより一層引き立たせるものです」  

「それはアメリカにはナイなぁ」

「ホンマ、メチャウマヤデ♪」

そしてスイーツを食べ終えた二人。

「ブラボー♪ いやぁ、素晴らしい食事だったよ♪」

「パパ♪ 食事の後は確か〝日本人女性の美〟について教えてもらえるのヨネー? 楽しみヤワ♪」

「あぁそうだった♪ 次はどんなサプライズをしてくれるのか楽しみだ♪」

ニトロは和室から一旦退室し、何かを手に持ちながら戻りそれを漆塗りの机に置いた。




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春:さくら

「精神美」


夏:牡丹

「思いやり」


秋:紅葉

「美しい変化」


冬:桐

「高尚」


机上に置かれたモノを見てマイケルが口を開く。


「コレは…… 花札…… かい?」


「はい。 この花札は未生流という流派の技法で生けられてあります。 それは、世界を形成する万物である「天地人」を意識し、直角二等辺三角形の形を象った生け方です。 つまり、この作品には〝花札の花言葉に準じた豊かな精神を持ちながら、正しいことは天・地・人の3つの才(働き)に沿って判断をする〟という意味合いが込められています」



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~ひとくちメモ~

未生流(みしょうりゅう)は、未生斎一甫を開祖とする華道の一派。西日本を中心に活動を行い、伝統的な華道一派として知られる。

未生流の華道技法には、直角二等辺三角形の形を象って生け花をするという技法がある。

世界を形成する万物である「天地人」を意識した生け花が特徴的である。


「天地人」

天には天のルールがある、これを「道」という

地には地のルールがある、これを「理」という

人には人のルールがある、これを「義」という

正しいことは道理、道義にかなっているかどうかで決定される。


エキサイティングな生け花を見て興奮気味の娘が口を開く。


「ナルホドーー! そういうコトネーー!」

「このモミジとシカのヤツはさっき、奈良公園で見た風景だね」

「そうです。 ちなみに日本で相手を無視することを〝シカト〟というのですが、これは花札の十月の絵柄「鹿の十(しかのとお)」が略された語で、 十月の札は、鹿が横を向いた絵柄であるため、そっぽを向くことや無視することをシカトすると言うようになったといわれています」

ニトロは娘の顔を見ながら話すが、そっぽ向いてリアクションがない。

「えっ、ちょっと娘さーん、聞いてますかーー?」

「今のがシカトネー」


「ハッハー、ハッハッハーーーー」


マイケル親子は大爆笑している。

「そして、〝みよしの〟と書かれている桜の札ですが、これは古くから桜の名所とされた、奈良県吉野地方の美称のことです」

「ヘェ、ツマリこれも奈良にカンケイがあるモノということなんだね」

「はい。 そして、本日召し上がっていただいた、パンケーキに使用した柿の花言葉は、〝自然美〟です」

「シゼンビ?」

「そうです。 つまり…… 奇をてらわず自然体なのが一番、美しいのデーース!」

そこでようやく久子が、口を開いた。

「そして、日本のように島国であり、三ヶ月ごとにはっきりと季節が変わっていく国というのは珍しいでしょう。

国民性に春は桜、夏は海、秋は紅葉、冬は雪とそれぞれの特徴を楽しむという気質もあります。

それにともなった農作物や海産物を〝旬〟と称して食べるのも特徴です。

先ほどのお料理もそうですが、ただ単にお腹を満たすだけではなく食事を通して四季をより五感で感じ心も満たす。

そういった毎日が少しずつ変わっていく季節の流れに日本人の感性が磨かれ豊かな文化の発展に寄与したのです。

四季があることで、お洒落をし、何より季節感から心の幅ができ、情操教育が発達して、詩や哲学などが生まれ、経済発展してきました。

それがこの国が先進国になった理由だと思います」


「久子のいうとうりだね」


「あと、日本人には豊かな想像力とクリエイティビティがあります。

 かの有名な葛飾北斎の首里城の絵は、北斎は沖縄へ行ったことがない為、

 想像だけで描かれたものであり、

 歌舞伎も庶民が武家社会を想像して描かれた作品です。

 つまり、このような素晴らしい芸術と風土で育まれる女性の美しさこそが〝日本人女性の美〟つまり〝大和撫子〟なのです」


「やっぱり、日本人女性って素晴らしいワァ♪」

久子の言葉に感動しているマイケル親子にニトロがいう。

「ちなみに、この花札は入浴剤にもなるので、今からパーっとお風呂に入りましょうかーー」

こうしてなんとか接待は終わり、マイケルとニトロ、娘と久子はそれぞれ同じ湯船に浸かったあと一晩中、花札を楽しんだ。


翌朝──


「ちょっとアンタ起きなさい! 何時だと思ってるの! もうお昼よ」

「もぅ…… だから、かりあげ君とコボちゃんは別人やってば…… ムニャムニャ」

「何を言ってるの? 早く起きなさいよ」

「もぅ、うるさいなー。  ちょっとアレやねん……  昨日、鎖骨を捻挫したから、そんなすぐに起きられへんねん」

「なによそれ? ただの二日酔いでしょ! ほら、美味しい朝御飯作ったから、早く起きて食べなさい」

「もぅダルぃわぁ……。 なぁ、それよりも秘書さん…… 俺のことなんか言ってなかった?  例えば、RPGゲームの主人公に〝ニトロ〟という名前を付けたとかさぁ」

「なんにも言ってないわよ。 それにあの子ならさっきマイケルたちと一緒にアメリカへ旅立って行ったわ」

それを聞いた瞬間ニトロは飛び起きた。


「えぇぇーーーー!? なんでーーーー!?」


「あの子は前々からアメリカへ語学留学するのが決まっていて、マイケルの自宅へホームステイすることになってたのよ」


「あぁ…… 俺の未生流が…… 枯れてしまった」


奈良公園──


「チキショーー! もぅすぐ冬がくるというのにまたマイハニー候補がアメリカへ消えていった! あれか? 今流行りの◯ナップチャットってヤツなのか? 俺のアタックチャンスもオバケのように消えていくのか? でも、今年のクリスマスこそは絶っ対にマイハニーとエンジョイするもんねっ」

ニトロは千切った段ボールを掲げて失恋をぼやきながら沿道に立っている。

すると、一台の車が止まった。

「お兄さん、それに書いてある〝あなたをシカります〟って何?」

「何って、そのままやんか、車に乗せてくれた人をしかるんやんか」

「えっ、叱ってくれるの?♪  何だか面白そうだから乗りなよ」

ニトロは車のシートに座ると運転手が問いかける。

「それで、どこまで行きたいの?」

「おっちゃんのノリでヨロシク」

「ノリって!? まぁ、じゃあ適当なところで降ろすね。 そんなことよりも早く叱ってよ」

「じゃあ、ちょっとそこの路地で一回停車して」

「うん。 わかった」

路地に車を停車すると頬を赤らめてソワソワとし始める運転手。

「えぇ、それではお口を開けてください。 痛かったら、手をあげてくださいねーー。 右下から、C1、C3……」

「〝しかる〟って、その〝歯科〟かーーい!」



第4話テーマソング「FF」


 

TORABARD 第5話「想い出のうた」へ続く

© NITRO 2016



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