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斉藤和義「君は僕の何を好きになったんだろう」 言ってみてくれないか たとえ嘘でもいいから

2007年3月に発売のアルバム「紅盤」の5曲目。「べにばん」と読むようです。このアルバム、斉藤さん自らが作詞した曲が「ベリーベリーストロング アイネクライネ」(作家・伊坂幸太郎との共作?)、らくだの国の2曲だけ。

カバー曲の多さと、提供歌詞の曲の並びといい、完全なるコンセプトアルバムですね。俯瞰してみても、私には本当の狙いは分からない部分があるのですが、柱となる「ウエディング・ソング」を中心に、秀逸な恋愛ソングをちりばめたような・・・イメージがあります。

その中で、私にとってひときわ輝きを放ったのが、「君は僕の何を好きになったんだろう」という長いタイトルの曲です。いつごろから聴いているのか、覚えていませんが、大好きな曲です。

作詞は一倉宏さん。ウィキペディアで引くと、コピーライター、作家となっていて、「きれいなおねえさんは、好きですか」「うまいんだな、これがっ」などの代表作がある方らしいです。不勉強で申し訳ありません。

作曲は、斉藤さん自身。
ゆったりとしたテンポ、けだるそうな声で始まっていく。この特徴的な音は、何の楽器が奏でているんだろうか。ギターとかベースじゃないよね。

歌詞は、ふだんの斉藤さんとは全く雰囲気を異としている。

「僕が大人になったら
なんになろうかなんて
今でも考えてしまう
おかしいだろう」

これは誰かに語りかけているのかしら?
ここから想像されるのは、「僕」はすでに大人と認識される十分な年齢にたどり着いている。イメージとしては40とか50とか?

「後悔したくないなら
まだ引き返すこともできるのに
また唇かさねる夜に」

ああ、不倫とか、浮気とか、後ろめたさ以外感じられない。

で、サビ。

「君は僕の何を好きになったんだろう
言ってみてくれないかな
どんなことでもいいから」

と続いていく。

40とか50とかの年代のおじさんが、若い女の子に問い掛けているようにしか思えない。あるいは脳内で自問しているだけ?

後半の始まりにこんな部分がある。

「まるで人というものに
だまされたことがない
あるいはすべてを赦して
生きてきたのかい?
疑いたくなるくらい
まっすぐに僕を見つめる
君のその瞳から 涙こぼれた」

非常に美しく、けなげさと従順さを持ち合わせた女性をこの形で表現した文章に圧倒される。そして、その女性を傷つけた「僕」の無情さと、やりきれなさまで包含している。

最後は「言ってみてくれないか たとえ嘘でもいいから」で締めくくる。
男の弱さとか、身勝手さとか、そんなものを感じてしまう。

この曲を聴いて、元気になるとか、前向きになれるとか、そんな感じは全くなくて、ただただ、むなしさと悲しさが押し寄せてくる。自分がこういう傾向の歌を好きなのだと改めて気付かせてくれる曲。

2022年8月11日 トラジロウ

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