女友達が服を脱ぎだすと逃げたくなる

 「ねえ、服脱いでいい?」


 この人は、一体何を言っているのだろうか。意味がわからなかった。言っておくが、これから情事が行われるわけではない。彼女とは、別に付き合っているわけでもなければ、お互い恋愛対象として意識しているような関係でもない。もちろん、セフレでもない。

 女二人旅の最中、ホテルの部屋でくつろいでいるときに、女友達がこの一言を放った。旅先で開放的になり、脱ぎたがるタイプの人間がいる。彼女はまさにそのタイプだ。「うん、いいよ」なんて、すました顔で返事をするが、明らかに動揺している自分がいる。

 私が返事をすると、彼女はためらいもせず、次から次へと服を脱いでいった。気付けば、あっという間に下着姿になっている。流石にここで終わりだろうと思っていると、ブラジャーまで外し始めた。そして、胸が完全にあらわになる。

 彼女の裸を見るのは、別に初めてというわけではない。何度か一緒に温泉に行ったし、今日だって一緒にお風呂に入った。女性が好きと言っても、彼女の裸を見たところで、興奮するわけでもなければ、襲いたい衝動に駆られるわけでもない。「綺麗で羨ましい」とは思うものの、それ以外は「無」である。

 だが、それはあくまでもお風呂での話だ。普段、服を着ているはずのシチュエーションで、一人だけ裸の女がいたら、脳がバグを起こしてしまうらしい。相変わらず全く欲情はしないが、なぜか妙に動揺している自分がいる。

 こんなとき、どう振る舞うのが自然なのだろうか。そんな考えばかりが頭の中をさまよっている。だが、考えれば考えるほど、不自然な振る舞いをしてしまっている自分がいる。

 どこを見ていいのか分からない。胸を直視してしまえば、性的な目で見ているのではないかと勘違いされそうで怖い。そうかと言って、完全にそっぽを向くのも、それはそれで意識しているのかもしれないと思われそうで嫌だ。

 そんな私の気持ちなんてお構いなしに、彼女は何事もなかったかのように振る舞う。どうやら、自分が裸でいることなんて、少しも気にしていないらしい。だけど、それが彼女の日常なのだから、仕方がない。それなのに、私だけが過度に気にしている。

 逃げ出したかった。友達との楽しい会話の時間であるはずなのに、早く終わりにしてしまいたかった。服があるかないかの違いだけなのに、その差は心を大きく狂わせた。そして、その日は具合が悪くなって早く寝た。私は弱すぎた。

 本当はもっと二人だけの会話を楽しみたかったのに。もし私がノンケだったら、何とも思わずに彼女との会話を純粋に楽しむことができていたのだろうか。このときばかりは、女性が好きな自分を恨めしく思った。

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