映画長いお別れ、認知症在宅介護6年の経験者が介護で参考になる3シーンを紹介

「湯を沸かすほど熱い愛」で日本アカデミー賞など数々の賞を受賞した中野量太監督の最新作「長いお別れ」を鑑賞してきました。

直木賞作家の中島京子さんの小説「長いお別れ」の原作で中島さん自身が体験した認知症を患った父親と見守る家族の10年間を8編で構成した映画です。
父・東昇平(山崎努)の誕生日。久しぶりに帰省した2人の娘に、東曜子(松原智恵子)から「認知症になった」と告げられます。
昇平の長女、今村麻里(竹内結子)は夫の今村新(北村有起哉)の転勤でアメリカに住み、新との仲や不登校に悩んでいます。
カフェ経営や彼氏との恋愛に悩む次女東芙美(蒼井優)。
昇平の認知症に悩み苦しみながら曜子と一緒に立ち向かうストーリー。
実は、筆者は30歳過ぎから認知症祖母の在宅介護を6年間週4日1人で昨年11月末まで経験。
祖母を介護3年目までは筆者1人が、介護4年目から母親が週1日泊まり在宅介護をしていました。
「長いお別れ」を鑑賞し、「こういう場面あった、認知症の理解がより深まる」と共感したシーンや「6年間の在宅介護の期間思い浮かばなかった」と唸ったシーンがあったのです。


「重度認知症を描いたシーン」
芙美がバツイチの男性と同棲していました。
ある日、バツイチの男性が元妻や子供と会いに行くと言うので、次女がこっそり見に行きました。
そこではバツイチの男性、バツイチの男性と母親、元妻、子供が笑顔で再会しているシーンを目撃。
芙美は荷物をもって実家へ帰り、昇平へ泣きながら「私、またダメになっちゃった。繋がらないって辛いよね。家族には勝てないもんね」ともらします。
泣きながら話す芙美をみて「まあーそう、くりまるなー、ゆーとするんだな」と意味不明な言葉を発する昇平。
これはおそらく重度認知症(認知症後期)を描いたシーンではないかと思いました。
認知症には初期、中期、後期と3段階の症状があります。
初期は物忘れ、時間・日時・季節などを間違える見当識障害、物盗られ妄想、被害妄想などが現れます。
中期は着衣着脱やトイレの仕方を忘れる失行、失語、徘徊、夜間せん妄などが現れます。
後期は失禁、運動障害、会話困難、全身的な身体の衰え、食欲低下、寝たきりに移行していきます。

祖母も現在、認知症後期に直面しています。


祖母が重度認知症(認知症後期)らしき症状が出てきたのは昨年の春頃からでした。
一緒に散歩をしていると歩行のバランスが悪くなり転倒しやすくなったり、整理整頓しているつもりが部屋を散乱させたり、失禁していたり・・・。
そして、祖母は認知症の進行に伴い昨年11月末に施設へ入所し週1~週2回面会へ行くのですが、より一層会話が難しくなってきました。
例えば、先週面会へ行った時「私帰りたい」と帰宅願望が強かったので私が「どこへ帰りたい?」と聞くと「ピンポン」と笑顔。
私は思わず笑いながら祖母へ「確かにピンポンを押さないと家の中に入られへんな」と言いました。
このように後期の認知症(重度認知症)は会話が部分的に成立したり、心が通じ合っていると感じるケースがあるのを知っていただきたいです。

「徘徊は否定せず寄り添い続ける大切さを描いたシーン」
曜子は昇平が自宅にいながら「帰りたい、帰りたい」と言い外へ出かけようとするので、麻里と芙美と相談し、実家へ連れて帰ることを決意します。
「ほら、お父さん生まれ育った家ですよ」と言っても、「ここ、どこ?帰りたい、帰りたい」と反応は変わりません。
じっと実家を眺める昇平に麻里の孫が「おじいちゃん、(実家へ)帰ってきて嬉しくないの?」と聞きます。
すると、昇平は「このところ、いろんなことが遠いんだよ、あんたたちのことも」ともらします。
おそらく認知症中期の頃を現していると思うのですが、祖母も中期の頃同じような行動をとっていたのを覚えています。
ある日のこと、突然朝方に玄関のドアノブをガチャガチャガチャする音が聞こえたので、見にいくと祖母が物凄い鬼の形相で「これなんで開かないの?外に出たいの」と出かけようとしていました。
「ばあちゃん、今日施設行くのはお休みだから家でゆっくりしてよ。後で散歩に一緒に行こう」と私が説得しても聞く耳を全くもちませんので、徘徊を止めることは不可能だと思い、祖母と一緒に外へ。
 昔のことを思い出しているのかなと思いながら、付き添って歩いていると「もうすぐすればお寺さん(お泊りデイサービス)に着くのよ、この角を左に曲がったらね」と祖母。
 しかし、イライラせず祖母の気持ちを理解することが大切だと思い、祖母に「ばあちゃん、すごいなあ。よく覚えてるな」と言うと「そうでしょ?よく通っているからね、当然ですよ」と笑顔で答えました。
 さらに、祖母は郵便局の看板をみつけ「私がね、昔働いていたところだからちょっと行ってみようかいな」と。
「このタイミングだ」と思った私は、「じゃあ、ばあちゃん家に帰ろうか」と言うと納得したので、タクシーを呼んで自宅まで連れて帰りました。
徘徊なのか、外出願望なのか定かではありませんが認知症中期の頃になると急に外へ昼昼夜問わず突然外へ飛び出そうとし家族は対応に苦慮します。
時には警察へお世話になったり、近所から白い目で見られたり・・・。
でも、本人が一番辛く行動を否定すると余計外へ出たがります。
「長いお別れ」の映画内の家族や私のように否定せずそのまま付き添い心と体を寄り添うことをオススメします。
「認知症患者に悩みや困ったことを聞いてみるシーン」
「長いお別れ」の中で、麻里や芙美が昇平に悩みや困ったことを聞くシーンがあります。
麻里は研究の仕事に没頭する夫とうまくいかなかったり、子供が不登校で口を聞かなかったりと家族の悩みを抱えていました。
ある日、病気で入院した昇平に麻里が「ねえ、お父さん私どうしたらいい?子供が不登校だし。お父さん、お母さんみたいになりたかった」とウイスキーを飲み酔っぱらっいながら悩みを相談。
昇平は理解不能な言葉ながら笑顔で答えてくれます。
認知症の人に悩みを聞くのは、6年間の在宅介護の中で全く思い浮かばずハッとさせられました。
先日精神病院へ入院中の祖母に「ばあちゃん、人生うまくいくにはどうしたらいいと思う?」と聞いてみました。
奇跡が起きました!!!
祖母は私をじっとみつめて「しっかりしいや」と元気な頃の母親のような目線と表情で答えまました。
私は思わず「ばあちゃん、俺がんばるで」と言うと、祖母が笑っていました。
認知症の人と接していると記憶や感情がふと戻る瞬間があって、まるで『ドラえもん』のタイムマシーンに乗ったり帰ったりしていると思うことがあります。
その感覚の時に上手くあてはまれば人生の先輩ですしきっと悩みや相談を解決してくれるでしょう。 
「長いお別れ」を鑑賞したおかげで認知症の人に悩みや相談をもちかけるアイデアから祖母にエールをもらえました。
また、重度認知症の断片的ですが会話が成立し、心が通いあう瞬間を面白さを交えながらわかりやすく丁寧に描かれているのは見事です。
他にも父が徘徊し着いた遊園地先で家族と温かくほっこりするエピソード、父の旧友が亡くなり葬式の場で父が叫んだ一言、ラストシーンと実際の介護で参考になったり、共感する部分が多々あります。
ある日突然介護が必要に迫られます、筆者もそうでした。
是非映画館でみてください、映画が終わった時はきっと介護や認知症を知るきっかけとなったり、理解が深まっていますから。

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