ツルネ__風舞高校弓道部__keyvisual

2018年秋アニメ感想 ツルネ ―風舞高校弓道部―

 京都アニメーションで部活もの。この組み合わせにハズレはほぼない。その京都アニメが弓道を題材にアニメーションを制作する。
 いつもながら徹底した下積み研究の上で映像を作る京都アニメ。今回も調べ方が凄い。弓道着姿の自然に感じられるシルエットや、キャラクターの動き(“なんとなく”で画を作っていない)。線の数が少なく、影は極力排除されているが、嘘が感じられない。弓を引く時の指先に筋が張る感じや、肘に力がはいる感じ。放った時の弦の震え方、回転しながら直進する矢。どれも本当に凄い(この作品に対して、ネットの弓道警察がどう評しているか知らないが)。相変わらず絵の力が凄い。道場の空間作りもよく、真っ白な弓道着姿のキャラクターが美しく映える。
 キャラクターデザインはいつもよりさらに目は小さめ。色トレスで少し縁が描かれている。これが凜とした美しさに繋がっていて良い。このテーマに合っている。
 映像はかなり明るめ。背景に影が少なく、キャラクターもこの明るさに合わせて輪郭線をぽつぽつと途切れさせている。露出高めの画面で、キャラクターのシルエットが溶け込んでいる雰囲気を線で表現している。背景を含めた画面の最終的なアウトプットを想定した上でキャラクターが作られている。弓道特有の立ち振る舞いの美しさと、画の雰囲気が噛み合っていて、美しい画面が生まれている。京都アニメらしい堅実な画作りだ。

 ただ、物語はかなり弱い。主人公鳴宮湊は試合中に突然降りかかった「早気」で自信を失い、弓道から遠ざかってしまうが……というお話だがいまいち感情移入がしづらい。絵描きをやっているものだから、ある日唐突に自分がそれ以前まで持っていた感覚が変わってしまい絵が描けなくなる……というのはあるのだが、そういう感覚、体験した人以外は絶対にわからないものだ(基礎がなく、指先の感覚だけで絵を描いているとそうなりやすい)。この「早気」で弓道そのものから逃れようとする……という感覚はよくわからない。
 それに「早気」になるまでの過程に物語がない。その前後にキャラクター同士で何か事件があって、それに釣られるように早気になってしまい……という展開ではない。鳴宮湊がある日突然勝手に早気になった……それだけの話だ。完全に個人のお話だし、早気を克服するためのシンボルとして打ち克つものが設定されていない。これでは勝手に早気になって勝手に克服した……という感じになっていてドラマを感じない。
 弓道はたった1人で弓を引く、個人の精神修行に徹底された競技だからそういうものかも知れないが、物語としては弱く感じる。
 「早気」を直そうと回りが色々立ち回って……というここに物語は生まれたのだが、その過程でチームの絆が生まれて……というような物語的な導線もあまり生まれていない。

 第4話以降、滝川雅貴ことマサさんが弓道部コーチになるが、そのマサさんの関心を得るために小野木と鳴宮との間に軽い対立が生じる。……この関係性のなんともいえないBL感。『Free!』で培った、悪い意味での手癖が出てしまっている。「こう描いておけばお前ら喜ぶんだろ」という作り手側の狙いが見えすぎてしまう。悪い意味で「慣れ」で描いてしまっている。『ツルネ』でこういう展開はあまり相応しくない。慎重に排除してほしかったところだ。
 第5話の合宿で、対立しつつも最終的に和解する学生達の姿が描かれたが、「規定技を満たしました」という感じで感心しない。使い古されすぎた展開をなぞっているだけに過ぎない。

 弓道部には3人の女性キャラクターがいたが、ほとんど掘り下げられることはなかった。弓を構えている女性は抜群に画になるのだが……その女性キャラクターが中心に出てこないのは残念だった(あんな美少女が近くにいるのに、恋愛の対象すらならない。どころか、ほとんど交流すらしない。お好み焼き屋のシーンでは、男女席を分けている。ここまで徹底して男女で切り分けられていると、不思議な感じもする)。『ツルネ』はどうして男性を主役にしてしまったのだろう……と疑問に感じるくらい。特にナンパ男とキレ男は不要。弓道というテーマに合っているような気がしない。
 京都アニメの美少女といえば柔らかい印象がまず始めにあるが、『ツルネ』でぽつぽつと描かれたような凛々しさを持った美少女はほとんど開拓されていないはず。こういう機会に「かっこいい美少女ヒロイン」を生み出してほしかった。

 あと気になるのは、その部活のないところに、部活創設に立ち会って……という展開。こういう展開の部活ものって、何百本目だ。対するライバルのいる高校はだいたい強豪校。この展開も何百本目だ。既視感がありすぎる。部活ものを描くにしても、そろそろ「違う切り口」を模索してもいいんじゃないだろうか。これでは「弓道」というあまりアニメに描かれてこなかったモチーフを持ち込んだだけで、やっていることはその他多くの部活ものとたいして変わらない。

 と、引っ掛かっているポイントを最初に上げたが、いいところはたくさんある。第2話、第3話で描かれた鳴宮と滝川の交流。夜のシーンの何とも言えない幻想的な空気。夜中に1人で弓と向き合っている滝川と、それに立ち会う鳴宮……この構図が美しいし、弓道という、どことなく幽玄な神秘感のある競技と合っている。
 第7話から始まる試合シーン。大袈裟に盛り上げるのではなく、静かに静かに緊張感を高めていく演出がいい。弓道着の学生が何人も並び、順々に弓を引いていく姿が美しい(格式張った動きも美しい)。セルを何枚も重ねて表現されているカットがあったが、(ピントがぼけているのだが)奥側の選手が弓を構えている動きがきちんと描かれている。画としても映像としても美しく緊張感のあるカットで非常に格好いい。ああいった画が出てきただけでも、弓道を題材にするだけの意味がある。

 京都アニメらしい絵作りの良さ。特に、実直に研究を重ねた上での描写。身体描写の正確さや、弓道にまつわるあらゆるものの描写。京都アニメらしい、画に対する誠実さが見えてくる作品。
 ただ、弱いのが物語。キャラクター達の成長に物語がない。それに、どこかで見たような……という展開ばかり。画以外のところが平凡。京都アニメは恐ろしく高いポテンシャルを持った絵描き集団だから画は本当にいいものが生まれているのだが、しかしただ「いい画」というだけで終わってしまっている。ここにドラマが絡まないから、決定的に突き抜けた画にならない。例えば『響け!ユーフォニアム』は素晴らしく突き抜けた画が生まれる瞬間がいくつもあった、だからこそ名作になり得た。が、『ツルネ』にはこれがない。いい画はたくさんあったが、決定的な画が出てこない。題材もいいし、画作りもいいのだが、そこで終わっている。悪い意味での“慣れ”と“手癖”ばかりが見える。なんとも惜しい感じの残る作品となった。

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