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020 『北海道を歩くエピソード3-2 2013.6.29』

文:守屋佑一

2013年6月29日土曜日。朝、行きつけの整体に寄ってから羽田空港へと向かう。空港では東京に住んでいた共に100kmのウルトラマラソンに出場する友人Hと合流。実は、このマラソンには4人で出場することになっていた。空港に集まったのは僕とHの二人。一人は北海道の網走の大学に通うI。なので、すでに現地にいた。
そしてもう一人はというと、羽田空港にも集合ではなく、現地にもいるわけではない。この時点ではたぶん彼の地元、湘南の地にいた。3年経ったいまでも笑い話に出ることがあるのだが、彼はこの1週間前がウルトラマラソンだと勘違いしており、本番である週に外せない予定を入れてしまっており、北海道に行くことができなくなってしまったのだ。こんな経緯があり、一人減の3人で出ることになったため、僕とHは飛行機に乗り込んだ。
到着した空港は根室中標津空港。小さな小さな空港で数台しかない飛行機の後ろに、山と自然がマッチしていて、僕の知る空港とはどれも違う雰囲気でなんだか日本ではないみたいだった。


飛行場にはIが迎えに来ていた。北見ナンバーの小さなミラジーノ。気持ちの良い天気にミラジーノがマッチしていて、まるで北海道のために作られた車のように思えた。マラソンはこの翌日ということもあって、この日はのんびり観光がてらのドライブをすることに決めていた。北海道民のIに誘われるまま景色の良い美幌峠を見たりした。余談だがこの数年後真冬の美幌峠に行き、ものすごい目に会うことになるのだが、それはまた別の機会に。


そして腹ごしらえ。向かう先は事前にリサーチしていた北見にあるラーメン屋「カムイ」
普段は旅行先についてから店をリサーチする僕が、わざわざ事前にリサーチし、ピンポイントにこのラーメン屋に向かうのには理由があった。


カムイは、同名の店が神奈川県の開成町にも存在する。最近はご無沙汰しているが、僕の母校の前にあるいきつけのお店で北海道風の味噌ラーメンを出すラーメン屋だ。北海道と神奈川。この遠く離れた二つのお店は、決して偶然同じ名前になったのではない。神奈川のカムイの店主の実家が北海道で、実のお兄さんが経営しているラーメン屋もまたカムイという名前をつけているということなのだ。店に入る。変哲のない、北海道のラーメン屋。恐らく、僕が神奈川のカムイを行きつけにしていなければ一生くることのないラーメン屋。だがそれが良い。どこに行くかなんて個々人の物語にて決まるべきでみんなが同じ場所に行くべきものではない。
多様性。考えてみると、北海道は他の観光地より選択肢の多さがずば抜けている。
自由を愛する僕が北海道を異常に気に入り、毎年のように訪れているのもこんなところが関係しているのかもしれない。
神奈川とは少し味の違うカムイの味噌ラーメンを食べて僕たちはまたミラジーノでサロマ湖に向かい北海道らしい景色を満喫しながらドライブを再開した。
北海道は不思議だ。その空気が、雰囲気が、景色が。
ただドライブしているだけでも旅行をしている気分が高まる。
サロマ湖に近づくにつれ、なんだか寂しいような、それでいて味のある街並みになってくる。そして、受付の会場であるマラソンのスタート地点に到着した。
ちなみに最近のマラソンは事前受付がとても多い。このサロマウルトラマラソンも例外ではない。
道草を食いすぎた僕らは本当にギリギリで受付を済ました。
もはや、選手らしき人はあまりいない。レースを彩る様々な飾り付けはあるが、本当に次の日レースが開催されるのかというくらい少し寂しげな雰囲気だった。


そこからまた、網走に向かって大移動。道中温泉に入り、極東特有の遅い時間の夕暮れを楽しんだ。
泊まる場所は、温泉旅館なんて上等なものではなく、またさらに移動して網走駅前の東横イン。みんなでいるのに各人別の部屋。しかし、それが嫌というわけではない。なにせただの旅行とは違い、次の日のレースのために来ているのだ。準備だって必要だ。それだけでなく、なんとなくみんなで来ている旅行でも、個室に分かれるという展開は嫌いじゃない。
一人になり、コンビニへ行ったり、次の日の準備をしたり少しパソコンをいじったり。そうして次の日の100Kmという自分の中で想像もつかない距離を本当に走りきれるのかという不安と興奮を抱え眠りについた。

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