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017『雲取山を歩く1』

文:守屋佑一

2012年12月23日(祝)

深夜4時台。いつもの小田原駅から電車に乗る。とても寒い日。もちろん真っ暗。雪山登山でしかも1泊のため荷物はたくさん。前夜に車で東京に行っていたこともあり、とても寝不足。

茅ヶ崎で乗り換えて橋本まで。茅ヶ崎で乗り換えなんて人生2回目くらい。さらにいろいろ乗り継いで青梅線。線路の凍結により少し電車が遅れるが概ね予定通り奥多摩駅に到着。

しかし、よぎる不安。この少しの遅れによってバスが1本遅れてしまった。

この日は僕にとって初めてのソロ登山。しかも雪山。しかも1泊。少しのスケジュールミスが、大袈裟ではなく命取りになってしまう可能性もなくはない。

そんなことを考えながら鴨沢バス停に到着。

東京都奥多摩町鴨沢。

一般的な東京都のイメージを覆すまち。埼玉と山梨の狭間のまち。月並みなことを言おう。「まだ東京にこんなところが残っていたなんて」

そんなことを考えると同時にこの街に興味が湧き、ゆっくり散策したい衝動を抑えつつ僕は、当初の予定通り、雲取山の登山道へ足を踏み入れる。

いろんなことを吹っ切れるためか、それとも自分を鍛え直すためか。

イエス・キリストの誕生日に浮かれる世間へのアンチテーゼが。なにはともあれ、僕は一人山に入った。

最初は雪と泥が混じった道。寒さより、防寒しすぎて体がすぐに暖まる。これでいい。軽装になる。いまでは当たり前になった一人での登山。でもこのときの僕はなにを考えていたんだっけ。将来のことだろうか。この旅のことだろうか。

森を抜けると視界が開け、山々が目に入る。気持ち良い。清々しい。

気づけば雪が深く、綺麗な道。歩きにくくなり、アイゼンを装着する。初アイゼンデビュー。山を知っている人にみえるかな。

途中、iPodを起動して耳にイヤホンを装着する。正直、登山中の音楽は邪道でしかない。けれども、この景色と雪道を前にして、ドラクエのサントラを聴きたくなってしまったからしょうがない。ゲームの主人公のように壮大な目的ではないかもしれないが、山頂を目指して引き続き歩く。

最初は晴れていた天気がだんだんと曇り空になり、冷え込む。僕の旅はいつもだいたいヒキが悪い。この雲取山は、東京都に位置する山。天気が良ければ夜には東京の人々が生み出す光の海を神様のように、高いところから眺めることができるというだけに、曇りは致命傷なのだ。

けれども天気だけはしょうがない。

黙々と歩くしかないので歩き続けると、あっという間に山頂。このときの僕は痩せていたし、いまより走っていたので予想よりもだいぶ早く山頂につく。まずは一安心。これなら日帰りでもよかったなんて一瞬頭をよぎる。いや違う、ソロで泊まるから意味があるはず。この頃には雲が厚くなり、富士山も、青い空も見えない山頂で月並みに記念写真。

いつもの登山ならばこれで下山して、はい終わりといったところだが今日は違う。来た道と違うルートを逆方向に少しだけ降りて本日の寝床の山小屋に。

僕が泊まる部屋はソロ客8人が泊まる部屋。正直、こんな時期に山に泊まる人は少ないだろうと思っていただけに、驚き。

ダントツ一番乗りした僕は小屋の中をうろうろ。小屋のまわりをうろうろ。

水が貴重な山頂ではこんなもので手をあらうのか。

なかなか面白い。実は山小屋に泊まる事自体はこれが3回目。どの山小屋も特色があって、面白そうな本がたくさんある。

部屋に戻り、山の写真集を眺めていると次第に登山客が集まってくる。挨拶。

かんたんな自己紹介。関係ない人たちとはいえ、部屋を共にする仲。どこまで話せばいいのか、絶妙な距離感と駆け引きを交えた身の上話。

そうこうしてるうちに夕食の時間になった。質素なご飯。卵が嬉しい。同室の客の話によると、ここの山荘はどんなときでも客に栄養をつけさせるために卵をつけることが特徴らしい。ご飯を食べたらすっかりと暗くなった外に出る。

やっぱり曇りでは夜景はうっすらとしか見えず、星も大して見えない。残念。

また部屋にもどり、山小屋で購入したお酒を飲みながら、つまみを食べながらとりとめのない話。

当たり前だが、ここに泊まる全員に物語がある。山だと身分も歳も関係なく素直になれる。

そしてこれまた山小屋の醍醐味である早い時間の消灯。山の上では下界とは切り離された時間と空気が流れている。本質的には僕はこんな生活がお似合いなのかもしれない。早くお風呂に入りたい。

そんなことを考えながら、狭いこたつにみんなで入り、眠りについた。

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