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エイプリルフールの電気工事

文:大川直也

職人さんの朝は早い。電気工事がはじまった。水野さんは牛乳ビルに着くと配線の状況をチェックして、何度目かのため息を漏らした。

水野さんの指示のもと途切れている配線を撤去したり、壁に穴をあけたり、天井に穴をあけた。天井裏からほこりが降ってくる。いかにも工事という感じでとても楽しい。僕は水野さんの工具を使って天井と壁に穴をあけた。梅ちゃんは不要になった配線を留めているステップルという、ホチキスの親玉みたいなものをペンチで剥がしていた。やはり、ぐわ!とか、だぁ〜…とか言っていた。

梅ちゃんが仕事で抜けている間に、水野さんは壁コンセントの取り付け方を教えてくれた。綺麗ななにもない壁に、突然張り付いているコンセントの裏側でなにが起きているのか僕は前々から気になっていた。

まさかこんなことになっていたとは。さっき僕があけた天井の穴に水野さんが上半身を突っ込んで、釣竿のような道具をちょちょいっとやる。チェーンのようなものを垂らす。気がつけばコンセント用にあけた壁の穴から配線が飛び出てきた。あとはパーツをネジで留めてパネルをぱちっとやると、見知ったコンセントになる。早業は本当に魔法だった。その他にも色々なことを教えてくれた。スイッチのつけ方とか、配線図の書き方とか、電気工事の後は風呂に入る前によくシャワーで流すこととか。

帰ってきた梅ちゃんがレモンのジェラートを差し入れてくれたので、木くずやら電線が散らかった床にどっかり座って食べた。すごく男らしい気持ちだった。いつも空調の効いた綺麗な部屋でパソコンに向かっている自分が、ずいぶんなモヤシ野郎に思えてきた。偉そうなモヤシだ。

ほこりにまみれて、自分の腕一本で働くのはすごく、かっこいい。一瞬でも自分が、そういう一人前の男になれたような気がして嬉しかった。

ジェラートを食べ終わって一服、水野さんに今日中に終わるかなと聞くと、水野さんは終わるわけねぇと鼻で笑った。工事は進んでも、まだまだ電気を通せる状態ではなかった。日没まで後少し、できる限りの作業を進める。ああ、早く風呂入りたい。


※電気工事には資格が必要です。
※この記事は全文無料の投げ銭コンテンツです。投げ銭はまだまだ完成していない牛乳ビルのリノベーション資金となります。

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