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『さいしょのリノベーション@牛乳ビルその10』

その9はこちら

https://note.mu/torches/n/n6e5bc6fd6167?magazine_key=m24fba2c5f1f7

文:守屋佑一

2014/11/15 (土)その10

小田原駅でくいしんと合流し、牛乳ビルに戻ると一足先に湯河原より牛乳ビルに戻った廃品回収のおじさんがわずかに残った廃品を再び鉄くずにする作業を行っていた。牛乳ビルの前の借主のおじさんも僕らが湯河原に鉄くずを置きにいっている間も細々と掃除をしてくれていた。

僕と直也は牛乳ビルの意外な広さに大興奮だったが、くいしんは感情が見えにくい少し複雑なニュアンスで「すごいな」と呟いた。

なんだか手放しで喜んでいる、という感じではなかったように思う。

なにを考えているんだろうと思ったが、その場では聞かなかった。

その理由はこのマガジンで昨日更新された「終わらないリノベーションとひとつの小さな夢の話。」(https://note.mu/torches/n/neb4072c3cf71)でやっとわかるんだけれど。

それでも、景色の良い牛乳ビルの屋上はいたく気に入ったようで、くいしんは屋上で煙草を吸いながらのんびりしていた。

このビルの屋上には本当に不思議な魅力がある。

そういえば、あえてリノベーションの話の時には触れず、自己紹介「守屋佑一のこと1」で書いたが、牛乳屋さんを営むこのビルの大家さんとは僕の実の父なのだ。

僕は中学生の時、よく友達とこの屋上で時間をつぶしていた。なにをするでもなかったけど、その時間は本当に心地が良かった。

あれから10年と少し。まさか自分たちがこのビルを借りることになるとは思わなかった。たぶん、中学からこのリノベーションを開始するまでの間は一度もビルに足を運ばなかった。大好きだった場所なのに、だ。

なぜだろう。人はいろんなことを忘れていくし、もしかしたら忘れたまんま死んでいってしまうのだろう。そして、そのまま全部忘れていつしか違う自分になっているのかもしれない。

それでも、なにかのきっかけで思い出す。

僕はこの日、ただビルで過ごしていたあの頃の思い出だけではない「何か」を少しだけ思い出したのかもしれない。

それだけでも、牛乳ビルのリノベーションに着手した甲斐があるってもんだ。

ビルに戻った僕たちはまた、少し作業を手伝い、最後の最後に屋上にあったとても重いコンデンサー(あまりにも重いのでおじさんにこれは別に持ってかないでもいいと言ったら、これが一番お金になるから持ってかせてくれとお願いされた。)を5人で力を合わせて運び、部屋にあるのは細かいゴミだけとなった。

ビルにあったふるーい消火器。廃品回収のおじさんは本当になんでももっていってくれた。

※この記事は全文無料の投げ銭コンテンツです。投げ銭はまだまだ完成していない牛乳ビルのリノベーション資金となります。

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